明神岳東稜

 

 上高地・河童橋から山を見上げると、左に西穂高への稜線、正面に奥穂高が見え、さらに右側の手前に尖った山がある。「あれ、なんて山?」と尋ねたのはいつだろう。それが明神岳のX峰で夏の登山道が無いと知り、ならばその頂に積雪期に立ちたいと思った。そして、去年のGWに前穂高岳・北尾根を登った帰り、「次は明神岳東稜」と目標を決めた。

 

 5月3日 明神から梓川の橋を渡り、少し行った左手にある旧養魚場の前を通ってひょうたん池に向かうパーティは予想よりも多かった。 途中、谷をまっすぐ登るとX峰に向かってしまうようだ。ブッシュを渡り、やや右に入る小谷に沿って登ると宮川尾根のコルに出た。天気はピーカンで、明神岳の主峰からX峰までが見渡せる。この基部を、雪崩に注意しながらトラバースして、少し登るとMYOUJIN1.JPG - 21,377BYTES雪に埋まったひょうたん池に出た。

にぎやかなコルでガチャ類を身につけて出発。広い雪稜を少し登ると急な岩とブッシュの第一階段があった。「ロープ出しますか?」「ブッシュだからいいんじゃない」と話してから先行を追い上げるようにハイマツをつかんで雪壁を登ると、途中で2組がロープを出して確保していた。順番待ちだ。

でも、雪壁に不安定な体制で待っていると足が攣ってくる。やむなく、灌木を乗り越えて横から追い抜くと、やや不安定だがなんてことのない普通の雪稜だった。ほどなく斜度は落ち、少し行くと2人組が座っていた。挨拶したら「ここから降りる」との話。聞けば、年末に遭難した仲間の捜索が目的で、偵察に来たとの事だった。

 上部に東稜バットレスが見えるようになって、13:30頃にバットレス手前のコルに到着した。先行パーティの多くは、さらに山頂まで抜けているが、私達はここを整地して幕営した。養魚場から前後してきた2人組、6人近い大パーティもここに泊りだ。

 

 5月4日 朝は冷えて、今朝もやや雲が多いが晴れている。撤収して6時過ぎにスタート。一つ岩を乗り越えてすぐに「一枚岩」で順番待ちとなる。全装備を担いでいるとは言え、登りだせばそんなに難しくはない。左のクラックに沿って登り、途中から右に移って岩の上に出た。岩を抜けて雪稜をたどればほどなく明神岳主峰の山頂〜ややあっけない感じだ。尖った二峰への稜線が素晴らしい。でも、今回は前穂高岳に向かうのだ。

MYOUJIN6.JPG - 21,392BYTESMYOUJIN5.JPG - 24,936BYTES ところが、前穂高へのルートがなかなか厳しい。奥明神沢のコルへの下降は途中に懸垂をはさむ。そしてピークを一つ越えたらやっと前穂高への登りが見えた。やがて岳沢から往復する多数のパーティと同じルートに合流して、前穂高岳に立った。

空には雲が増えてきて、明神岳方面もガスの間に見え隠れしている。昨年のGWに往復した北尾根を下降しようと考えていたのだが、何故かトレースは無く、まだ登ってくる人影も見えない。ルートがやや判然としないので、前後してきたいかにも山屋という感じの2人組は吊尾根を下っていったが、そちらのトレースをたどることにした。

やや広い前穂高山頂から吊尾根に下ってすぐに、2人組から声がかかった。懸垂で涸沢カールに降りられそうなポイントがあった、との事だ。しばらく観察をしてから2パーティのロープをつないで、岩にシュリンゲをかけて懸垂下降する。50m降りると、岩場を過ぎて急な雪面に足がついた。雪質は、3p位が硬いモナカだが、その中もそう崩れてはいない。30p程度下に少し柔らかい雪の層があるが、顕著な弱層では無い。でも、天気は悪くなって、湿雪が降ってきた。転げ落ちない様に注意深く急斜面を下りて斜度が落ちた所で、「明日は北尾根を登るので、X・Yのコルにテントを張る」という2人組と別れた。涸沢のテント場に12:30過ぎに到着して、設営してから雪にもめげずに生ビールを飲みに行った。

MYOUJINROOTMAP.JPG - 168,316BYTES

 5月5日 雪は夜に上がって満天の星が輝いていた。天気はピーカンだ。予定では今日は北穂高岳に上がってから滝谷第二尾根を登ることにしていた。しかし、出発したもののなんだか足が上がらずに辛い。3時間もかかって北穂高岳の山頂に上がっての結論は、「今日は無理だべ。のんびりしよう」〜山頂でゆったりと山を眺め、小屋でコーヒーとランチを楽しみ、最後は北穂沢をシリセードで20分程にて降りてきた。涸沢小屋とヒュッテのテラスでうだうだと山を眺めて、生ビールを楽しみ…。前半に屏風岩を登って、涸沢にあがってきたという強者の女性などもいて、昨日の懸垂・下降ルートを今日も下ってくるパーティもいたので、飽きずに眺めていた。

MYOUJIN8.JPG - 18,442BYTES

 

 

 5月6日 今日は下山するだけだ。横尾までの間は雪が多く、本谷橋の出合をすぎても谷を雪の上でたどることができた。岩小屋の手前まで雪は続いていたが、こんなのは初めてだ。前穂高岳の陰に見えていた明神岳がだんだん正面から見えるようになる眺めを楽しみながら上高地までの平坦な道をたどって、11時前にはバスターミナルに到着した。バスターミナル上の食堂に手頃でおいしかったメニューが無くなっていた事を除けば、すばらしい一日だった。

 前半は完全燃焼した明神岳だったが、後半は気力と体力が続かなかった。やはり涸沢の生ビールを飲んだのが運の尽きだったのかも知れない。