八ヶ岳南部の縦走

 「今年の春は、阿弥陀岳北西稜が目標」で、本当はこの土日に行くはずだった。テルさんと石尊稜に行って、そこそこの足慣らしもしたので、天候さえよければ行けるだろう、と勇んでいた。でも、相棒は年度末から仕事が忙しくて回らず、ダメとの事。私はと言えば、今時、「週休一日」という職場にいて、今回を逃すと4月の土曜日はとてもじゃないが休暇などとれない。そう、「山に行く前の下界、特に労働条件」こそが問題なのだ。だが、ここで山に行かなくては身体もなまってしまう…という事で、まだちゃんと歩いていなかった、赤岳と権現岳の間、キレットを越えて縦走する事にした。

4月3日 茅野は「御柱大祭」で大変な人出だった。9時37分のバスに乗り込み、美濃戸口10時16分着からすぐに歩きだそうと、バスの中で靴を履いて準備した。今日はよい天気で、歩きだすとすぐに暑くなり、フリースを脱いだ。美濃戸に11時着だが、道はテカテカに凍っていたので、アイゼンを履いて、「阿弥陀岳北西稜の入口を確認しよう」とGPSのスイッチを入れてから行者小屋に向かった。
 快調に飛ばして歩いていたが、20分ほど歩いて、ふと「ウェストポーチの口が開いている」事に気がついた。中を見ると、GPSがない??!! うっひゃあ、これは落としたぞ!!!という事で、戻りながら探す。追い抜いた人たちに、「アレ!?」という顔で見られたので、正直に「落し物をしました」と白状して回ったが、誰も見ていないという。ついには美濃戸山荘まで戻ってしまった。
  12時に「もう一度、ゆっくりと見ながら歩こう」と行者小屋への道をたどることにした。ゆっくり歩いて、周囲をウロウロ・・・。そして、先ほど気がついた所の数分前で、河原の倒木がたまったあたりを、戻った時に通っていないような気がした。「あそこかも・・」と注意深く行くと、確かにそこを戻るときは通っておらず、その真ん中にGPSがドカっとあった。・・・「あった!!」とホッとしたと同時に、ガックリ疲れてしまった。
 ともあれ行者小屋まで歩くが、スピードは上がらなくなってしまった。北西稜への入口を確認してから行者小屋についたら、既に時刻は14時を回っている。途中でどうしたことか雪がチラついて、山がすっかり隠れてしまっていたので、「こりゃあ、行者小屋に沈殿かな」とも思っていた。でも、空を見たら雲が飛んで晴れ、青空が広がってきた。これは、今日は大丈夫そうだ。ヨシっ、行くか・・と14時半に行者小屋から文三郎へとたどりだした。

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 赤岳主稜の取り付きあたりには、大きな氷柱状のルンゼが見えた。それにしても、少し登るとすぐに息が上がってしまうのは困ったものだ。こんなナマクラではイカンと思いつつ、中岳分岐に出た。時刻から見て赤岳はパスしよう。さらに雪面は安定して凍っているので、権現への尾根にトラバースする夏道あたりを行ってしまう事にした。当然、トレースはないが、顕著な尾根が見えるので、あれをめざして斜面をトラバースすれば良いのだ。
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 しばらく進むと目の前に1月に登った天狗尾根が迫ってきた。小さな岩を越えたらなんだか急な下りだな…と思って、「アレ、これじゃ天狗尾根に下りてしまうよ」と気がついた。うっかりしたが、キレットには右にトラバースするのだ。キレットはと言えば、ガレ場の何分の一かはガラガラの岩が出ていて、アイゼンでは実に歩きにくい。とは言え、凍っている所もあるので外すこともではきないので、注意深く歩いた。分岐から一時間と少しで、キレットを抜けて樹林帯に入ったが、時刻はもう17時になる。
 閉まっているキレット小屋にこだわっても意味はないので、樹林帯に入って展望のよい場所を選んで、17時過ぎにテントの設営を始めた。整地してテントを張るのに約10分と少し。ちょっと狭かったかも知れないが、雪を削り込んだので、壁がテントの下に風が入るのを避けてくれる。張り綱を設置して、テントの中にヨッコラショ・・・。
 まずはビールを一杯。ああ、このために生きているようなものだ・・・と言いつつ、テントから顔を出して周囲の写真を撮る。阿弥陀岳南稜が目の前に広がり、いつもと逆の側から赤岳・中岳・阿弥陀岳と見て、めざす権現岳への尾根も輝いている。特に夕暮れは美しかったが、アーバンロートと言うような染まり方ではなかったのが、やや残念だ。
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4日 本当は朝5時出発と思っていたのに、マヌケな事に目覚ましを5時にセットしていたので、6時過ぎに出発となった。既に朝日が昇っているが、日の出前の権現岳は結構、美しかった。小ピークを巻いて、しばらく行くと小屋があるはずなのだが、見当たらない。まあ、小屋に用事はないのでそのまま進んだが、振り返ったら稜線からわずかに佐久側にずれた樹林帯に小屋があるのがわかった。
P4040079.JPG - 23,429BYTES 次はツルネ東稜の入口だが、どうもピークから少し進んで下った所からの顕著な尾根がそうらしい。上部はそんなでもないが、下部が急と聞いている。このあたりからは、木々を抜けて雪稜風となったので、ヘルメットカメラをヘッドベルトで付けて、動画の録画を始めた。それにしても、北アルプス北部から始まって、木曾御嶽、中央アルプス、南アルプス、・・・と実に素晴らしい展望だ。来年の2月に考えている旭岳東稜、そして権現岳東稜と思しきあたりをを眺めると、いやはや、すごいキノコ雪がついている。これは大変そうだ。来年こそ、このどちらかと谷川岳東尾根、そして阿弥陀岳北西稜を登りたいものだ。
 聞いていた通りの「長いハシゴ」を登って、権現岳手前の分岐には8時少しに到着した。無線機を取り出して、1200MのメインでCQを出すが応答はない。そこで1292.30Mhzのリピーターにアクセスすると59++で、JA0RUZ関崎さんが応えてくれた。しばらく交信して、「次はテレビ中継をしたい」なんて話してから、もう一度、メインでCQを叫んだがやはり坊主。やむなく430Mに降りてCQを出し、一局だけ交信してから荷物をしまった。
 権現の本当の山頂には8時半。ここは狭いので、写真をとってから下りだしたら、その先はたくさんの登山者が登ってくる所だった。こんな素晴らしい晴天、めったにないものねぇ。三つ頭の上で振り返ると、八ヶ岳南部の山がすべて手に取るようにパノラマとなって見える。最初にこの山頂に来たのは小学校の夏季合宿だったが、ガスと霧で何も見えなかった。「なんで、三つ頭なんてマイナーな山に連れて行ったのかな」と、ずっと不思議だった。しかし、確か十数年前に編笠山・権現と縦走してきた時には、すごい晴天で「なるほど、夏でもこれを見せたかったのか」と納得した。しかし、なんとこの時はカメラを持っておらずに地団太を踏んだ。次に三年ほど前に同じコスで来た時は、ガスと吹雪で何も見えなかった。三度目、四度目の正直である。ただ撮れた写真はどうも構図が平凡だ。次はテントでも張って写真をとろうか。
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 さて、ここから先、実は尾根を曲がる所が間違いやすいのだが、今日は下から何組も人が上がってくるので、心配はない。二時間ほどかけて天女山まで下って、タクシーを呼べば甲斐大泉の温泉だ。天女山で振り返ると、どうしたことか山はガスの中だった。そう言えば、山の上から見た時も下界は雲の下だったかな。久しぶりにちゃんと歩いた山行だったので、時々足がつって困ったが、そこそこ充実した楽しい山だった。