人工登攀事始め 

秋の八ヶ岳・大同心正面壁雲稜ルート

 

 

 北岳バットレス中央稜の余韻から一ヶ月。「次は秋の大同心」と決めていたが、人工登攀は初めてだ。練習に行ったストマジで「大同心正面壁雲稜ルートのフリー化ルート図」を見て、アブミを持てばなんとか登れそうだ、と踏ん切りがついた。

 

 9月19日 美濃戸口から入山して、赤岳鉱泉にベースを設営。台風はそれたが、寒い一日だった。キムチ鍋で暖をとって寝た。

 

 9月20日 朝は晴れたが、風が強く寒い。6時前に大同心稜に出発。どうした事か大きな看板を見落としかけたがすぐに気が付き、約一時間で大同心の取付に到着した。

DAYDOSHINROOT.JPG - 27,962BYTES岩場は誰もいない。人の来る気配すらない。顕著な草付の踏み跡をたどって、雲稜ルート取付点を確認した。立派なペツルのアンカーが打ってある。でも、風が強く寒く、岩をつかむ指がこごえそうなので、戻ってしばらく暖かくなるのを待つことにした。

しかし、待つ間も寒くて我慢ならず、結局は7時半頃から支度をして、8時に雲稜ルートの登攀を開始した。

 

1P目 ウエケンがリード。いきなり核心部のハング越えだ。アブミをかけ、フィフィで休みながらも乗り越えた。

ビレイする間、ガタガタと寒さで身体が震える。フォローするとハングの支点はすべてペツルだ。これならば安心してフリーでの挑戦も可能だろう。でも、このピッチは寒くて参り、ウエケンも「指がソーセージみたいになった。」とこぼしていた。

 

2P目 くまがリード。少し上がってから左にトラバース、そして凹角上を凹角状を直上する。一部でアブミを使い、残置シュリンゲのA0もしたが、実に快適な登攀だ。太陽の陽がすぐそこまでやってきて、気温も暖かくなってきた。

 

3P目 ウエケンがリード。ピッチの切り方がルート図とは違うようで、一部はかなり立っていて細かい。上部はやさしいピッチと思ったら、大きな岩が手を触れると動いた。

 

4P目 くまがリード。しばらく細かい凹角を登るとバンドに出た。トラバースの途中で一箇所だけ岩が突き出しかかえてイナバウアーしたが、中央稜に比べたら楽なものだ。小さなピナクルを回り込み、ドーム取り付きでビレイ。

だが、ここで確保の環境が大きく変わった。今までは全てペツルのハンガーボルトだったのが、今度は怪しげなリングハーケンが数本。仕方なく、これはセルフビレイ用に使って、後続の確保には岩角にシュリンゲを巻いた。

 

5P目 ウエケンがリード。「1P目が核心部と聞いたから、簡単だよ」と送り出すが、被った岩場で手強い。アブミで登攀していったが、あと一段という所で、「さらに被っていて、駄目そうだ」と言う。1P目で腕と手が疲れてしまったのだろう。途中だが小さなスタンスでピッチを切ってトップを交代した。

すぐ上にはハーケDAIDOSHIN1.JPG - 23,183BYTESン3本重ね打ちに切れたシュリンゲが下がっている。この穴に新しい3oシュリンゲを通そうとするが、なかなか通らない。切れたシュリンゲの先を通した輪に引っ掛けて通せた。しかし、その上のハーケンにアブミで乗ると、次がない。二段目、三段目、そして最上段に乗り込んでも同じだ。思わずバランスを崩してザイルに下がってしまった。よく見ると、リッジの右側にはスタンスらしき岩場がある。どうやら最上段からフリーに乗り換えるらしい。

少し息をととのえてから、アブミの最上段に立ち、なんとか岩に乗り移った。エイッ!!と数歩を一気に登ったら、アブミの回収をしそこなってしまったが、しっかりした終了点が目の前にあった。ウエケンに回収してもらい、12:45に登攀終了。

 

ザイルを巻いてから、広々とした大同心の頭で二人でくつろいだ。どこまでも見えるような晴天。朝が嘘のように風もない。水を飲み、のんびり食べて、厳しかった登攀を思い返した。無線機を取り出すと、1200Mhzで蓼科と長野の局が応えてくれた。

下りは大同心の鞍部からルンゼに踏み跡をたどる。やさしい岩場とガレを大同心の取り付きまで15分程だ。後は大同心稜を注意して下るだけ。もちろん、鉱泉では生ビールが待っている。今日は、初めての人工登攀ルートの完登に乾杯して、明日はのんびり温泉に入って帰ることにしよう。