北岳バットレス中央稜 報告

2009.8/18-8/20 くま ウエケン

 

8/18 甲府0900のバスで広河原を11:00に歩き出す。天気晴れでバットレスが空に映える。白根御池小屋には13:15着で、小屋にテントの手続きに行くと、「センセイ!!」と…ふと見れば受付にはなんと三年前の卒業生と現役高三生のお姉さんが座っていた。山岳部に入ったとは聞いていたが、世の中は狭い。

 テント設営後、14:00に取付確認に出かける。二俣まで30分弱は花が美しい。二俣から大樺沢をつめると30分ほどでバットレス出合として知られる「大岩」があった。さらに、その先には、岩には黄色いペンキで「バットレス」と横文字で大書きしてあり、D/C沢出合にも岩にC沢・D沢と書いてあった。C沢は水がゴーゴー流れていたので、D沢を少しだけ入ってみて、小雨がぱらついてきた事もあり、よさそうなのでテントに戻った。夜、少しばかり雨が降ったが、日付の変わる前には満天の星空となっていた。

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8/19 朝2:30起床・4:00出発。D沢の手前で日の出に染まる鳳凰三山を眺めた。もうヘッデンは不要だ。D沢を30分ほどツメ、最後の枯れた木を左手の塔み跡から巻くと、バットレスの取付が目前だった。五尾根支稜かDガリー大滝を登ることにして、そのままつめると、五尾根支稜取付付近だけは雪渓で埋まっていた。ここには0545着。

 見たところ行けそうなので、五尾根支稜の向かって左側側壁から右上に登ってリッジに出たらどうだろうか、と議論した。支度をして0614ウエケンのトップでスタート。ところが残置ハーケンに導かれてウエケンが登ったルートは、左側に向かう。2P目はくまリードとなったが、左側の涸滝に向かうルートは立っていて、残置ハーケンはあるがルートはハングしている。早くもここで悪戦苦闘。一時は退却も考えたが、A0も駆使しハングを越えてザイルを伸ばして、支稜のリッジに出てビレイした。本来の終了点の直前だったようなのだが、ここでピッチを切ったので、ウエケンがさらに10m程ザイルを伸ばして五尾根支稜の終了点に出た。7:30終了。五尾根支稜だったら40分もかからなかったと思うので、一時間近くロスした計算だ。

4ONEROOT.JPG - 39,136BYTES 次にバンドを探るがどうも入口に草が茂っていて、わかりにくい。「落石もあるので、ビレイして行くこと」と廣川さんの本にはある。ウエケンが先行して1Pでバンドの灌木まで到達した。くまが2P目で四尾根下部取付に行くはずだったが、行きすぎてC沢に出てしまった。遠回りしつつ、C沢からの踏み跡で四尾根下部取付のテラスに出た。8:30頃着。

再度確認してから、くまリードでスタート。2P目ウエケンリードで右から回り込んで、本来の取付に出た。ここからは四尾根の快適な登攀だ。下には大樺沢と雪渓、遠くには鳳凰三山が青空に映えている。もっとも困った事には、アブがやたらと多く、身体の周りがアブで雲のようになっている。ザイルの色が違うくらいにアブがたかるのには参った。

さらに4P程進んで、マッチ箱の頭の懸垂地点に出た。上の懸垂地点からリッジ横への懸垂に入る。ここで、ロープ一本のみを使ったのだが、ズリズリと下ろした時に、結び目が一番下でなく途中にあったために、最初に降りたウエケンが結び目でひっかかる事になってしまった。ATCガイドを使っていたため、結び目とは反対のザイルを流して懸垂できた。しかし、不注意で時間を無駄にした。

懸垂地点からは、くまがザイル一杯までリードした。しかし、かなり下からだったため50mローブでも枯れ木テラスまで届かずに、10m弱を残してピッチを切った。ここで昼前だったので、行動食をとった。

枯れ木テラスの右下の懸垂地点へは、浮き石が多く足場も悪い。懸垂地点でザイル2本をつないで、一本ずつに巻いて投げるとストンと落ちた。1P目は途中から空中懸垂。下に降りるとガレがひどく、2P目はもろくて落石が多い。2P目はザイル一本で足りるはずだったが、念のために二本を使った。しかし、このためウエケンが本来のテラスよりも下の段に降りすぎてしまった。また、このためザイルが流れないようだ。くま が二番手で降りてテラスで止まり、「ここが目的地だよ」と気がついたが、この後のザイル回収を含めて時間がかかってしまった。その間に岩場はすっかりガスの中となった。一時間はロスしたと思われる。ウエケンは、周囲がガレガレで取り付きらしくないので、もっと下だと思ってしまったらしい。

Cガリーは21年前にも感じたとおり「岩の墓場」のような場所だった。一足でも歩くと落石が起きる。そろり、そろりと中央稜取付に向かった。ハーケンがありすぐに上を見ると、岩がかぶって立っている。どこから登るかしばし検討した後に、ハーケンよりも手前から登ることにした。こうして登攀開始は14時になった。

少しあがると見覚えのある残置ハーケンがあった。容易なリッジ状を登ると、すぐにハングに頭を押さえられた棚に出る。ここには残置ハーケンと古いシュリンゲがあった。横にも一本、少し新しいシュリンゲがあった。ここが核心部のトラバースだ。A0も交えてトラバースしたテラスで確保したいが、支点がない。少し探って上に自分でハーケンを打って確保支点とした。本来の支点は、リンネに一段上がった所にあったが、屈曲するのでここの方が確保には良かったと思う。

CHUOROOT.JPG - 37,626BYTESウエケンもかなり怖かったようだが、なんとか上がってきた。2P目はV程度のリンネで、この出口で2P目を切った。3P目はハング越えの第二の核心部で、再びくまリード。一段上がってトラバースしてハングに取り付くのだが、この下でピッチを切った方が流れがよかったと思われる。

第二ハングはシュリンゲのぶら下がっている所から取り付いた。しかし、この右側の方が登りやすかったらしい。リードではA0も使ってしまったが、第二・第三ハングを越えたら、ザイルの流れが極度に悪くなって、引き落とされそうになりながら、やや右によった支点で確保した。一本が完全にどこかにひっかかってしまい、あがらないので、ウエケンに一本でハング下まで行ってもらった。岩角にはさまっていたザイルを外して、二本での確保体制に戻れた。

これで核心部を終えたはずだが、目の前の岩は完全にかぶっている。4P目ウエケンのリードは、途中で休憩こそ入れたもののこれを越えたが、くまのフォローでテンションをかけてしまった。察するにもっと早くリッジに出ると、階段状になっていたのだと思われる。中央稜も多数のハーケン・ルートが設定されており、トポ図以外にもいろいろな場所を登っているのだ。だから、岩を読みルートを見極める力がやはり大切なのだと思う。

流れが悪いのでウエケンがピッチを切り、いったんくまが5P目を左方向に向かった。しかし、これはどうも違うので明瞭なバンドを右のリッジに戻った所でいったん切った。これが四尾根にもつながるバンドなのだと思われる。その上はザイルを引くと落石が落ちるような浮き石だらけの岩場だったが、基本的にはリッジにそってウエケンのリードで登攀した。小石がアメアラレと降り注ぎ、腕にもあたった。いったんピッチを切って、くまが終了点についた。ただ、先が心配なので(記憶から飛んでいる)念のため、踏み跡の山頂への道まではザイルをつけたままに向かった。北岳山頂の直下は美しいお花畑の中を踏み跡が続いていた。足を出すのが申し訳ないような花の中を歩くと、そこに山頂が現れた。山頂の標識3193m17:30到着した。

あとは登山道だから安心だ。装備を解いて行動食を食べ、荷物をまとめて17:55に山頂を後にした。肩の小屋を通過して、草すべりに入り、だんだん無口になりながら、19:25に白根御池小屋に戻った。小屋に行くと、すでに生ビールは片づけが終わっていたが、テントの手続きをしてビールを売ってもらった。

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8/20 ヘリが07:00に来るという事で、5:00起床して朝食をとり、撤収。06:50に出発した。8:20に広河原小屋に到着してアイスを食べた。その後は10:20発の乗り合いタクシーにて帰途についた。入浴と生ビール、甲府駅のとんかつと続いたことは言うまでもない。

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反省点

・五尾根支稜をそのまま雪渓から登るべきであった。あるいは、ルートを決めたら残置にとらわれずに登攀するべきであった。

・四尾根については、登攀そのものは大きな問題はなかったが、ピッチの切り方によって効率的でない登攀となった面がある。また、懸垂における結び目の扱いなど、基本的なところでのミスが行動全体を大きく遅らせた。

・中央稜への懸垂については、以前は1pで懸垂した記憶であった。そのため2p目のイメージがあまりなかった。2p目が一本で行ける程度であることは確認していたが、ルート経験のあるくまが先行するべきであった。または、ザイルを引き寄せて落して、1p目から継続で降りていればトラブルはなかったと思われる。

・中央稜での登攀については、1p目が核心部であることはわかっていた。ただ、こうした登攀のためにはより様々なルートを登りこまないと、せっかくの存分に登攀を楽しむというレベルにはなれないと感じた。また、上部には多数ルートがあり、早めにリッジに出ていればよかったと思われる。このあたりの研究とルート読みが難しいところだと思う。

・今回、くまは初めて足にインナー靴下を履いてみた。しかし、やはり感覚が大きく異なっていたように思う。長時間行動で足が痛くならないなどの効果はあったが、ゲレンデで試してからやるべきだったなと思う。

・全体として、トレーニング不足は否めず、その点での課題を多数残した。岩トレの回数もさることながら、総合的・実践的な訓練をつむ努力が必要だと感じた。しかし、それにもかかわらず、21年ぶりに中央稜を登ることができ、核心部のリードをできたことは、大きな達成感があった。次はより楽しめるだけの余裕をもってホンチャンに向かいたい。