丹沢から明日が見えてくる??

丹沢・表尾根での放射線量計測

 

6月26日 天気 曇り(山では霧の中が大半)

 

 天気が今ひとつだがヤビツ峠行きのバスは満杯だった。怪我からのリハビリ山行だが、今回は無線機一式十数kgを置いてきたので、歩くのはずいぶん楽だ。「一人だと寂しいから、かわりに・・・」となんとなく気になって、直前に放射線量計をザックに忍ばせた。

ロシア製ドスメーターPOISK-M、標準のウランガスで精度を確認したとの事でオークションにて5月初めに入手した。職場(学校)にてグラウンドや各場所を測定して、「問題ない」事を確認して回った。「こんな時に外で体育祭をやって大丈夫か」等と横やりが生徒諸君に入らないように。そしてもちろん、「金銭上の利益を目的とせず、もっぱら技術的な関心と自己訓練・・・」をいつでも求める“アマチュア”精神からだ。

 ヤビツ峠でバスを降り、支度をしてから、トイレ前の植え込みで測定を始める。地表1cmにて36秒モードで3回を測定して、後に平均値を出すことにした。バスに乗り合わせた人たちはすっかり出発してしまったが、歩き出すとすぐに追いついた。富士見山荘も営業していた。そう言えば、この前ここに来たのは山荘の親父が急死された直後だったから、もう十数年前か。小屋前のトイレと登山口横のしげみで測定した。茂みの方がやや高いが、こんな値だろう。

 

 しばらく歩いて登山道にはいると保育園の子ども達を取材するテレビがいた。追い抜いて歩き、二の塔まで35分ほどで登った。荷物が軽すぎたかなぁ、と思いつつ、ベンチに座って、地表を測定した。少しだけ高いかなと思いつつ、なにげに高さ1mの大気を測って驚いた。0.20μSv/hに近い値が最初に出た。いつも職場で測定しても、地表0.11μSv/h・大気0.10μSv/h程度が普通の測定値だった。今日は、霧がただよい、風が吹き付けるとピッピッと線量計が音を立てる。これはちゃんと測ってみよう、と心に決め、ベンチ横の樹木も50cm高で測った。

 

110626SANNOTOU1.JPG - 21,961BYTES ひさしぶりの三の塔の山頂は、以前の東屋が中は土間ながら立派な避難小屋になっていた。山岳展望を示す標石近くの地表では、やはり高いと0.20μSv/hも出る。うーん、やはりはげ山だから地表にもろに降り注いだのだろうか。山頂横の小さなツツジの木も最高0.20μSv/hとなった。

110626SHINDAINICHI1.JPG - 15,770BYTESこの先、久しぶりの鎖場の通過は雨で濡れていることもあってやや緊張したが、烏尾山、行者岳、新大日小屋前、木の又小屋前、塔ノ岳山頂と各数分間をかけて測りながら歩いた。中でも驚いたのは、新大日小屋の前だ。小屋前のベンチで地表から最大0.21μSv/h1m高の大気でも最大では0.21μSv/h、小屋横の木の幹で0.22μSv/hと計測された。幸いにもここをピークに、樹林の中にある木の又小屋前などは落ち着いた数値となった。また、塔の岳山頂も日の出山荘の表尾根側地表がやや高いものの、これ以上に高くはならなかった。

山頂で昼食を取り、無線機を取り出して2局と交信してから、大倉尾根を下ると、測定値はもっと落ち着いた。花立山荘前、堀山の家前など大気は通常の平地に近づいたし、地表の計測値も低くなった。花立山荘は三の塔よりも標高は高いので、標高差による宇宙放射線の増加とは別の原因であることが推定できそうだ。今日は荷物が軽いこともあり、ストック一本を使ったが、測定と休憩をはさんで山頂から大倉まで2時間で下れた。さて、もう少しで大倉だ。今日も生ビールとラーメンにしよう。

 

丹沢の自然はいつも私達の明日を示してきた。大気汚染と酸性雨・乾燥化等の中で南面を中心にブナの木々は枯死してきた。枯死した木が静かに「つぎはみなさんの番ですよ」と語りかけている、とかつてブナ集会では語られていた。

今回の山行で計測された数値は、決して何かすぐに危険という様な値ではない。また、数値を評価する上では丹沢の地質的環境等についても検証する事が必要だろう。しかし、年間1mSvを超える放射線量が丹沢で観測される現実は、「今後の自然生態系はどう変化していくのか」と考えさせられる。そして、何よりも私達が山から見下ろした下界の現実を、しっかりと見つめ直す必要性を改めて示している様に思った。

 

要注意な付記**9月11日にセドの沢・左俣を怪我から初めての沢登りとして登った。その際、新大日に出るので気になって放射線測定を再度行ってみた。

すると・・・ カイサク新道横断地点の少し下 0.13μSv/h

              セドの沢左俣をずっとつめて表尾根に出た地点 0.13μSv/h

       新大日小屋前(前回と同じ場所) 0.13μSv/h

 ・・・と下界と基本的に変わらない値となった。(各5回を測定して最大・最少を捨てて平均)職場では雨の直後でもこんなに変化はなかったので、「なんでこんなに違うの??」というのが率直な印象である。

 

この9/11の測定値と以下の測定値を比較すると、条件で最も異なっているのは「天候」である。山の上で霧がただよっていた場合に、大気中の自然に存在する同位体も福島から出たものもひっくるめて、雨の核はチリなので放射線量が増えるという事があるのかも知れない。山の上での測定にあたっては、霧・霧雨等の気象条件は避けた方が良いのだろうか。知りたい所である。

 

6月26日の測定結果 (単位 :

TANZAWARAD110626.JPG - 158,886BYTES

 

考察

*宇宙からの放射線は、海面にて0.03μSv/hが標高2000mにて0.1μSv/h程度に増加するとされる。標高1300m付近では単純計算すると0.045μSv/h程度の影響が考えられる。しかし、ほぼ同一標高の花立山荘と新大日で大きな違いがあるため、標高によるものとは考えにくい。

*表丹沢では、書策新道はかつての大日鉱山の鉱山道を使ったものである。この鉱山は、マンガン鉱を採掘していた。(丹沢だより 428号 2006/3「丹沢の鉱山跡を探る」)しかし、マンガン鉱は、放射性物質が10Bq/kg程度であり、この影響は小さいと考えられる。(放射線医学研究所データーベースによる)

*尾根の位置関係から考えて、大倉尾根は都心・福島からみて表尾根の影になると思われる。

 

            このコースの標高変化(秦野市観光協会サイトによる)

 

*コース概略 (秦野市観光協会サイトによる)

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