5G帯 無線LAN/インターネットアクセスの拡大に注意を!!

JF1TPR 熊野谿

jf1tpr@jarl.com

無線LAN拡大の動き

 この数年で無線LANやインターネット接続が広がってきました。これは確かに便利そうですが問題も多くあります。これらは、ISMバンドである2.4Ghz帯を使ったものですが、2.4Ghz帯でのアマチュアの通信は妨害されて困難になっています。特に「スピードネット」等のインターネットアクセスの場合には、被害が大きいようです。無指向性のアンテナを持ったハイパワーな基地局が200m程度の間隔で設置されてしまうのです。ローカル局がアンテナにスペアナをつないだら全バンドにわたって-40dBmを示したそうです。(だいたい受信限界の弱い信号は-130dBm程度です。)これではアンテナにPAをつけたら何ワットでも出そうです。

 ところが、2.4GではOFDMを使っても20Mbps程度の速度しか出ないこともあり、より高速な無線LANとして40Mbps程度の速度を5G帯でやる動きが広がってきました。でも、この5G帯は、5.2G帯あたりに気象レーダー、その上には防衛関係や航空管制のレーダーなどがあります。そこで数年前には、「5Gの無線LANでの、屋外通信は、レーダーに障害を与えるので認めない」と決まりました。

 ところがアメリカでは、5G帯の全域(5.0-5.9Ghz)を無線LANでの屋外通信にも認める方向を決めました。ヨーロッパもこれよりは少ないものの、5G帯の使用を拡大しようとしています。

 そこで関連企業、族議員などが総出で、「日本もアメリカと同じく、5G全域を無線LANに開放しろ」という圧力を総務省にかけだしたのです。今年の9月からは、5G帯の下の方を(4.9G−5.1Gあたり)暫定的に無線LANで屋外も含めて使えるようにしよう、との事になりました。が、これらの人たちは「これでは狭い、レーダーなんてジャマだ。アメリカと同じにしろ」と声高に、圧力をかけ続ける動きを広げています。

問題はアマチュアだけではありません!!

 私たちアマチュアは5G帯に二次業務ではありますが、割り当てを受けて、5.6Gバンドを使っています。その数は決して多くはないかも知れませんが、様々な通信実験や異常伝搬などのアマチュアでなければわからない通信実験を、日夜繰り返しています。しかし、もしも本当に社会的に必要だというならば、バンド幅が減ってもやむを得ないかもしれません。確かに現状では200Mものバンドをフルに使うことは、今のアマチュアでは困難です。それでも、5760Mの周辺で40M−50M程度は遠距離通信やEMEとデジタル通信やATV、リピーターの共存を考えると必要です。

 しかし、「5Gの全域を無線LAN/インターネットアクセスに開放しろ」というのでは、もっと別の問題が出てきます。

 5.2G帯には、全国的な気象レーダーが配置されています。これはレーダー観測網の中心となっているだけではなく、どうしても他の周波数のレーダーとは替えられない特性を持っているのです。

 5Gは私たちがRS(レイン・スキャッター)で通信できることでわかるように、レーダーによる雨の分析に向いています。雨での反射だけを考えると、10Gの方が強いのですが、10Gになると「降雨減衰」が激増します。このため、強い集中豪雨がある程度の地域に広がると、「5Gのレーダーでは見えるが、10Gでは減衰して見えない」という現象が起きるのです。ちょうどBS放送が集中豪雨の時に見えないことがあるのを思い出して下さい。そういう時でも5GはRSで遠方と通信できるのです。また、雲の中の細かい動きは、10Gでもつかめず、民間の予報会社などではミリ波レーダーをこうした目的のために使っています。
 ところで、この気象レーダーは「単に反射を見ている」というものではありません。全国のレーダーでの観測結果は、すべてが集められスーパーコンピューターで処理して、乱反射やノイズを処理しつつ、レーダー画像を作っているのだそうです。集中豪雨の場合、都市部での被害も大きいので、多摩地域にもレーダーがあり、雨雲や雨の細かい動きを監視しています。これかあってこそ、国民の生命と財産・安全を守ることができるのです。

 しかし、5Gの全域が無線LANやインターネット接続で屋外通信にも使われたらどうなるでしょうか。先にあげた「スピードネット」の事例を思い出して下さい。無指向性のアンテナで都市部と周辺部に強い5Gの電波が同時多発で出されたら、都市部での集中豪雨のレーダー観測は著しいダメージを受けることが予想されます。なにしろ広範囲で強い電波を無指向性で垂れ流すのです。航空管制にも影響があるかも知れません。
 繰り返して言いますが、5Gと10Gでは同じレーダーでも全く特徴が違い、日本のような天候の変わりやすい、集中豪雨のある地域では、5Gでのレーダーが絶対に必要なのです。「5G全域を無線LANに」等と言われる方々は、大陸であるアメリカやヨーロッパの気候と日本の違いを考えるべきです。無線LANの主体やインターネットアクセスは、無線でも近い距離での通信ですから、どの周波数でも使えます。でも、レーダーはそうはいかないのです。私たちは、毎日の5G/10Gの運用を通じて、こうした電波の特性を肌身に感じています。もしも、無線LANで災害への予報と対策が遅れたら、「推進派」の人たちは損害賠償でもしてくれるのでしょうか。

ネットワークの発展のためには??

 ブロードバンドの流れで、より高速なLANやインターネットアクセスを求める動きが広がるのは理解できることです。しかし、40Mbpsでの無線LANやインターネットアクセスで、いったい何年の間、使えるのでしょうか。だいたい、インターネットアクセスに5Gで無指向性のアンテナを使った場合、ETCでも問題となりましたが、反射によるマルチパスで効率の悪化は避けられないのではないでしょうか。5Gは想像以上に反射する周波数なのです。無線アクセスとはそういう弱点もある方法であり、インターネットアクセスの上では、限定的な方法にすぎないのではないでしょうか。より高速な回線が本当に必要なのであれば、光ファイバーがやはり基本になるのではないでしょうか。さらに、100Mbps程度の速度を考えるのであれば、5Gではなくもっと上のミリ波での開発がすすめられているはずです。いったん5G全域をつぶして使ってしまったら、その時代が去っても機材は使われ続けて、5Gの有効利用は困難となります。電波は、もっと長期的な視点から割り当てを考えなくてはならないのではないか、と思えるのです。

 PLCの危機はひとまず抑えられました。次は5Gの危機です。ハムの割り当てだけではなく、文字通り国民の生命・財産・安全とが問われる問題であることを、マイクロ波にかかわる者として一人でも多くのみなさんに知って欲しいと思います。

*2002年にハムフェア会場で配布した資料です。私は文字通りのシロウトとしてマイクロ波をいじっていますが、そんなに間違ったことは言っていないと思います。