「夢と現実」

 

顧問 熊野谿

 

今年は、機関誌への全員の「お題」を「夢と現実〜わたしの野外活動」とした。

多分、野外活動部という名前、それも文化部 と聞けば、思い浮かべるのは、オートキャンプに毛が生えたようなものなのではないかと思う。快適な車ででかけて、自然の中でゆったりと遊び、すてきなキャンプ地でバーベキューでも…なんて思っているかも知れない。

が、これが入ってみると、どうやら違うことにたいてい後で気がつく事になる。乗る電車がたいてい青春18切符で乗れる各駅停車ばかりなのは、まだ慣れれば楽しいようだ。時々は特急や急行、さらには夜行バスなんてのに乗ることもあるのだから。

だが、顧問の私としては、実に軟弱な計画しかたてないのだが、「ちょっと歩けば岩魚が釣れる場所に行ける」と出かけてみると、部員どもは「こんなのは道じゃない」「死にそうだ」などとぬかす。彼らは、どうやら道幅3m以下の道は、建築基準法ではないが道として認めないのかもしれない。我が家では小学校に入る前の子どもだって、自分の着替えとシュラフ・水くらいは持って、北アルプスの稜線を6時間以上は歩いたんだけどねぇ。

さらに、キャンプ地について飯を作る段になると、次なる問題が露呈する。「ほ、包丁でイモの皮が剥けないだとぅ!?なに〜!?」「なんだって、飯をたいたことがないだとぅ〜!?」という具合である。そのくせ人が作る飯には文句をたれるので、この数年、顧問の私は「顧問別食」を実践している。なんてことはない、私は自分でとっとと飯を作って、腹を減らしている彼らの横で、ニコニコしながら、うまそうに食べてしまうのである。

もっとも、顧問たる者、食事時に何もしないのではない。野菜を切るのか、指を切るのかわからないような奴にあれこれ教えたり、作る一方で片づけをするように指示したり…といろいろとやることはあるのだ。だから、腹が減って短気にならないように、食べておいた方がよいという事もあるのかも知れない。それに同じ鍋などを争った場合、未だに争奪戦で負けたことはないので、その方が部員諸君の平和に貢献できるのだ。

が、多分、部員どもに言わせると、顧問の「仕事」の一番は、コワーイ「ノルマ喰いの強制割り当て」であろう。オートキャンプ場ならともかく、山のキャンプ地では一切、ゴミを残してはならない。従って、「食べれば資源、残せばゴミ」というワンゲル以来の格言が脈々と生きている。「野菜がきらいだ」なんて理由は「理由」とはならない。なにしろ、特に夏場に腐った生ゴミを担いで帰るほど嫌なことはないのだ。腐った食べ物の汁が二重にしたビニールからしみ出すと、それはそれはとてもよい香りがしみつくのだ。だから、「そばアレルギーだ」などのことがない限りは、「残さないように割り当てる」、すなわち「ノルマ」が課せられることになる。盛りつけの少ない奴、食器の大きい奴、いや、小さな食器でノルマを逃げようとする奴など、要するに目に付いたが最後、ノルマがやってくる。たいてい「食料が足らないと悲惨だよな」と買い出しの時に考えて、売るほど余ることが多いので、勢いノルマは過酷となる。そして、野菜の山を前にふくれっ面していると、誰かさんみたいに、デジカメでパチリと撮られて、あとあと展示物として笑われることにもなる。

もっとも、部員どもも相当なメンツが集まっていることは違いない。荷物を割り当てると「重い、重い」と言う割には、テントサイトについて荷物から出てくる物は、MDやらCD、そしてなんと外付けスピーカー等である。そして、今年の春合宿ではなんとテント全員で「×××大戦」の主題歌(?)を熱唱。あまりに何度も歌うので、節回しを覚えてしまって、顧問の私は合宿の後にレンタルビデオで「×××大戦」をながめてみることになってしまった。こんな具合なので、我が部の「コモンセンス」には、ガンダム・エヴァなどが含まれることになってしまった。さらに危ない話題も多いのだが、まさかそれは活字にできるような内容ではない。

また、確かに結構大変なこともやらないわけではない。

今年の夏合宿では、東北まででかけたのだが、なぜか天気がばか悪く、ずっと大雨だった。さらに山頂近くにある避難小屋付近の水場は枯れているので、登山口まで水くみにいくはめになった。特に二日目は、大雨洪水警報が出ていて、登山口でも水は濁流。結局、水くみ部隊は、さらに下の集落まで水をもらいに行ってきた。まあ、別に危ないことはないのだが、二日目はなかなか帰ってこないので、様子を見に行く準備をしていたら、戻ってきた。雨にうたれて山を歩くというのは、やってみるとそんなに悪くもないのだが、まあ、多分、普通の彼らの生活ではやらない事だろう。

あるいは「火おこし」というのも、実は結構、技が必要なものである。我が部では、七輪が最高の火器として愛用されている。七輪と言っても、セラミック七輪なので割れる心配はない。が、これに火をおこすのにどうしたら効率がよいかをご存じだろうか??「ウチワで扇ぐ」というのは、答えとしては△である。正解は「火吹き竹」なのだ。これほど、効率的に火がおこせる道具は、そうあるものではない。ちなみに、たき付けに新聞紙ばかり入れたりするのは最悪であり、そこら中が灰だらけになってしまうだろう。まあ、こんな事は日常では使わない知恵かも知れないが。

逆に言うと、確かに野活で経験することは、あまり普通でないことが多いのかもしれない。特にドツボにはまるような経験 というものが私は結構、人間としては大切だと思うのだが。そうすると、「快適なキャンプ地」で「快適な食事」「快適なテント」なんて合宿は、おもしろくもなんともない、という事になるのかもしれない。ただ、せっかくのそういうチャンスに、もっとどん欲にいろいろなことをやってくれないかなぁ、と言うのが顧問としての不満である。「雨だから出かけないでいいよ」なんてフツーに思ったら意味がない。山だって雨の日もなかなかすてきな場所もあるのだ。生命にかかわる安全には、配慮が必要だが、「俺は雨でも釣りはするんだ」というようなガッツが、どうも部員どもにかけているようなのが、嘆かわしく思うのである。