用語解説

1)économie (エコノミー)

本文では経済策(12)と訳される。フーコーにおいては「経済」とは無縁で、権力関係などの複合体における「配分の法則」を示す。おそらく彼は「構造」「システム」といった用語を避けるためにこれを使用したと思われる。

2)pratique (プラティック):

 本文では実務と訳されていることが多い。『監獄の誕生』では、身体のテクノロジーをめぐる、もろもろの実践のことを指す。ただしpraxis (実践)と異なり、理論とは対立せず、権力と知の絡み合いによって織りなされているものであろう。ピエール・ブルデュー、ミシェル・ド・セルトー、ロジェ・シャルティエなど、社会学者や歴史家によっても使用されている。

3)装置 

本文ではappareil の訳語に使われている。133頁の下段の「仕掛け」がdispositif であるが、「知への意志」第四章「性的欲望の装置」の「装置」はdispositif である。ドゥルーズが論じているのもこれ。複合的な要素が斟み合わさってできる「仕組み」のこと。ドゥルーズの「欲望する機械」「リゾーム」などの概念と比較対照が必要であろう。

4)テクノロジー

本文では「技術論」と訳される。身体を取りまくさまざまな技術(テクニック)と、そのための「知」の両方を含むものであろう。

5)investissement

訳文では「攻囲」と訳されるが、多義的。1)砦などを取り囲むこと 2)投資すること 3)精神分析用語で、「備給」と訳され、心的エネルギーが表象や、身体の一部、対象などに結びつけられること。フーコーはこれらすべてを含めて使用しているようである。

6)イデオロギー

訳文では観念形態(33など)と訳される。社会経済的な下部構造によって規定され、それを反映する、意識形態や、制度、法律、道徳、宗教、哲学などをさす。フーコーはこの概念に対して批判的である。

7)観念学派(イデオローグ)(104)

 18世紀終わりから19世紀のはじめにフランスで活動した哲学者の一派。デステュト・ド・トラシやカバニスなど。観念(イデー)の発生と法則を、感覚や記号との関係で分析。さらにこれを社会・経済の分野にまで応用したため、構造主義や記号論の祖とされることもある。フーコー用語で言えば「表象」分析の代表者として、古典主義時代の終わりに位置づけられる。スタンダールなど、フランス小説にも影響を及ぼした。『言葉と物』の「表象の諸限界」の節を参照。

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