07/02
土曜日。旭山動物園を見る。シロクマ、アザラシ、ペンギンなど、話題となっている施設を見る。想像力によって可能性を追求し努力すれば成功するということの見本である。札幌へ行き、友人宅でご馳走になる。この友人は、パリ生活社という、パリ在住の人々の生活を支援する会社の主宰者で、パリに行った時に、わたしもお世話になったし、長男もいろいろとめんどうをみていただいた。その頃はパリ在住だったのだが、実はいまは札幌にいるのである。で、奥さまの手料理で旧交を温める。
07/03
日曜日。ニセコのあたりまで行く。途中、小樽を通ったが、日曜なので賑わっていた。カムイ岬では海の色の青さに感動した。
07/04
三宿に戻る。
07/05
空海に集中したいところだが、一日中、学生の宿題を見ていた。いいものがいくつかあったので、気分はいい。全体のレベルは4年前より下がっている気がするのだが、受け持っている学生の数が多いようにも思うので、ダメな作品が多いのは仕方がない。ダメなものが100あっても、1篇の佳作に出会えれば、すべての労苦は癒される。
07/06
大学。「空海」第3章、ようやく終わる。すでに中国に着いて長安の手前まで着ているので、4章は唐滞在だけでなく、帰国後のクスコの変までは描けるので、そこに短いエピローグを付ければ完成となる。8月中にはすべての作業が終わるだろう。できれば早めに仕上げて次の仕事に突入したい。
07/07
第3章が始まったところだが、その前に、遣唐船が出発する前に追加。伊予親王との別れを描くのを忘れていた。親王が難波津まで見送りに行くというのは考えにくいので、空海が京の愛宕山荘を訪ねることにした。数行の短いやりとりをする。伊予親王は、もしかしたら最後の別れになるのではないかと思っている。鑑真の例のように渡航は命がけだし、留学生は二十年以上の在留を義務づけられているからだ。空海の方は数年が帰るつもりでいる。根拠はないが、仏の加護があると思いこんでいる。実際には、空海は二年で無事に戻ってくるのだが、伊予親王の方が謀殺されてしまう。結局、これが最後の別れになるのだが、あまりしつこく書くとメロドラマになるので、可能な限り簡潔に書く。
大学。第二文学部は、一仕事してから出かけられるので、いい気分転換になる。とはいえ、大量の作品を学生に返す仕事をしなければならない。作品をほめるのは楽しい。しかし大部分はダメだと言わないといけない。生まれて初めて小説を書いた学生だし、それなりに努力して書いていることはわかるのだが、幼稚園ではないのだから、褒めて育てるなどということをやってもしようがない。この程度ではダメだということを伝えることによって、やる気が出ることを期待する。
帰ってまた仕事。来週のテレビにそなえて本を読む仕事もあるが、食事しながら「電車男」の第一回を見る。二回目以後は見なくてもいい。オタク男を笑いものにしながら、最終的には心温まる話になるのだろう。同情するのではなく、笑いものにしながら、最終的には心温まる結びにする。これは小説を書く上でも基本原理といっていいだろう。学生の宿題の多くは、オタクやネクラやニートを笑うことができない。笑えないので、作品そのものが引きこもってしまう。逆に笑ってしまうと、対象を突き放しすぎて心が温まらない。一度突き放してから、最後に引き戻して温める。ということは、笑う時にも、悪意ではなく、思いやりをこめて笑わないといけない。そのために意図的にギャグっぽくする。テレビはこの鉄則を守っている。
07/08
文藝家協会の理事会。今日はいつもの文春ビルの会議室がとれなかったようで、食料会館というビル。古びているがいくつか会議室があるようだ。「空海」の4章は動き始めた。まだ手探りだが、もっとピッチを上げたい。
07/09
土曜日。今日は公用はないが、女優の姉が来るので疲れる。女優さんはトーンが高いので、外出するよりも疲れる。
07/10
日曜日。何事もなし。学生の宿題。これで前期は終わりだろうと思う。最終日に宿題を提出されても、返せないので指導ができない。
07/11
安房鴨川へ行く。なぜ鴨川へ行くことになったのか。話せば長いことになるが、去年の8月、次男が結婚した。結婚式は次男夫婦がプロデュースして費用も自分たちで負担した。それで親であるわれわれ(私と妻)もお祝いを贈った。で、お返しとして、ホテルのクーポン券をくれたのである。このクーポン券は有効期限が1年間なので、そろそろ消費しないといけないということで、それで鴨川に行くことになった。これではなぜ鴨川かの説明になっていない。クーポン券に付随したガイドブックには、全国のホテルの紹介があったのだが、自宅、または浜松(三ヶ日町はついに浜松に吸収合併された)の仕事場から行けるところという条件がある。が、今月になると、浜松には行けないし、一泊できるのも本日だけという、ぎりぎりに追いつめられた状態であった。で、西の方は、仕事場への往復でよく通るし、軽井沢の周辺もよく行くので、日光、鬼怒川、那須、といった東北自動車道を考えていたのだが、先週、旭川の動物園に行って、アザラシのうるわしい姿に感動したので、突然、鴨川シーワールド、というプランが浮かんだ。前述のガイドブックに、鴨川シーワールドの向かいのホテルが入っていたのが記憶に残っていたのだ。というわけで、本日は九十九里浜をドライブして鴨川のホテルに到着した。7階の部屋で目の前が海。今週、テレビの書評番組に出演するのだが、まだ読んでいない本が一冊あった。早めについたので、晩ご飯までに一冊読み終えた。これで本日の仕事は終わり。
07/12
ホテルの部屋の窓から海が見えていたのだが、その海の手前に駐車場の入口があった。それがシーワールドの駐車場で、そこに入れると駐車代金をとられるという、ホテルのフロントのアドバイスがあって、ホテルの駐車場に車を置いたまま徒歩でシーワールドへ。イルカ、シャチ、アシカ、白イルカの順番でショーを見る。結局、最初に見たイルカが一番印象的だった。帰りは海ホタルに寄る。寒かった。と思ったら東京も寒くなっていた。千葉は晴れて暑かったのだが、海ホタルの手前で別世界に入ったみたいだ。さて、鴨川にいる間に、「空海」について考えた。長安に着いてから、少し話を急ぎすぎていた。アラスジだけになっている。これは一つ一つ、シーンを書いていかないといけない。唐の高官と政治的な話をするシーン、交代する留学生とお茶を飲みながら(日本人で初めてお茶を飲んだのはこの留学生ではないかと思われる)人生について語る。それから、西明寺の高僧と議論する。こういったシーンを積み重ねていきたい。というようなことを考えたので、今夜からその線に沿って追加シーンを書いていく。あとは恵果という偉大な導師と出会うシーン、ここがこの作品の最大の山場になる。その後も山場はいくつもあるのだが、とにかく導師と出会ってから、密教の世界観が確立する幻想シーンに一気に突入するところが、この作品の最高の山場になるし、これが書けるかどうかでこの作品の意義が決まる。書けると思っているのでここまで書いてきたので、書けないと困るのだが、たぶん書けるだろう。
07/13
大学。帰りに青山の音楽出版社協会に寄って打ち合わせ。著作権の存続期間について。音楽出版社というのがどういう仕事をしているのか、正確には知らない。ビートルズの評伝を読むと、イギリスの音楽出版社は、著作権そのものを管理している。日本の場合は、テレビ局系の音楽出版社があって、ドラマの挿入歌などをプロモートしているようだ。文芸著作者と出版社の関係よりも、もっと密接な関係があるようだが、それだけ著作権についても真剣に考えている。
07/14
NHK衛星の「ブックレビュー」の収録。放送日は日曜日の朝8時から(誰が見るんだ?)。何度も出ている番組だし、今回は他の人か推薦した本も面白かったので、楽しく出演できた。一度、自宅に帰ってから、大学。前期の最終授業。4年のブランクがあるので、途中で疲れのピークが来たが、何とか持ちこたえた。ただし、昨日も今日も、大学の他にもう一件仕事があって、それが疲れる。明日も2件用がある。夜中は「空海」を書くので、1日に3つずつ仕事をすることになり、頭が疲れ気味である。
07/15
NPO日本文藝著作権センターの総会兼理事会。わたしが事務局長を務めるNPOの年に一度のイベントである。活動は順調であるので、問題はないが、文藝家協会の著作権管理部の活動なども報告しなければならない。ほぼ予定どおりに終了。会場を移して簡単なパーティー。この集まりは児童文学二団体との意見交換の場であるが、期待どおりに交流ができた。その後、岳真也さんの集まりに合流。岳さん主宰の同人誌「えん21」の合評会の二次会。今号は旧同人の普光江泰興さんの追悼号であるので、追悼の飲み会である。普光江さんは岳さんと同世代で、慶応大学在学中からの文学仲間。リラダン、ブルトンなどの影響を受けた一種のヌーボーロマンの書き手であったが、気さくな高知人で、飲み会では座を盛り上げる名手であった。その人柄と、作品の孤高な感じとの落差の大きさが印象的な人物であった。人々は三次会に移動したが、こちらは電車で帰る。四日市にいる次男が帰っていた。韓国出張から直接、成田に着いたとのこと。忙しそうだ。少し酔っていたが仕事をする。「空海」どんどん進んでいる。
07/16
コーラスの練習。何事もなし。
07/17
日曜日。次男と嫁さんが来ている。家の中が賑やかだ。
07/18
月曜だが祝日。何の日だ?
次男と嫁さんを八重洲まで送っていくというので、同乗。そのままお台場の大塚家具へ行ってダイニングの照明器具を買う。妻が暑いというので、蛍光灯に変える。帰って取り付ける。スイッチを入れると一瞬のタイムラグがある。老人はこういうものに、慣れるのに時間がかかるのではないか。セメスター制(前後期制)の第二文学部の成績をつける。成績をつけるのも4年ぶりだが、以前のように大教室の授業がないので、まあ、少しはましか。大教室は400人だから、レポートの評価を成績表に転写するのが大変だった。
07/19
大学へ行く。第二文学部の成績採点表を提出。セメスター制は今年から始まった制度のようで、わたしもこの時期に成績を出すのは初めて。その後、飯田橋で教育NPOとの打ち合わせ。暑い日々が続く。
07/20
本日は何事もなし。三軒茶屋まで散歩。暑さが少しましになったか。「空海」は般若三蔵という高僧との議論を書いている。最大の山場、恵果に会う直前である。この作品の山場が迫ってきたが、般若という人物も重要なので、ここで小さな山を設定したい。
07/21
福祉関係の集まりに出席。大切な会合ではあるがあまり進展はない。自宅に帰って少し仕事。三田和代さんの朗読劇。音楽が適度に入っていい感じの舞台であった。
07/22
取材一件。私立学校との協定について。大手予備校との協定も含めて、短い期間に協定がまとまったことに、記者は驚いているとのことであった。考えてみれば、そういう気もするが、やっている当事者は、必要なことを進めているだけだ。ポイントは、できることをやる、ということだ。多くの会議では、できないことについて、できないね、と話し合うことが多い。わたしは気が短いし、時間は貴重だと考えているので、実現可能なことしか話したくない。私立学校、および予備校関係者のご協力に感謝したい。で、「空海」は般若三蔵との議論が終わった。空海は夢を見ない。黙々と前進する。実現可能なことを粛々と実現する。そういうところがわたしは好きだし、学ばねばならないと思う。
07/23
土曜日。夕方、地震。いつも仕事をする座椅子の上でパソコンを叩いていた。かなり激しい初期微動の間もキーを打ち続けていた。打ちながら、これが初期微動だとほんとの振動はもっとすごいぞ、と考えていた。確かに急に振動がきつくなったが、ものが落ちるほどではなかった。あとで調べると二階の本棚で若干の落下物があった。今日と明日はたまっている雑文の在庫一掃をはかる。
07/24
日曜日。下北沢まで散歩。何事もなし。雑文の続き。「空海」も少し。まだ恵果のところまで行かない。来週は公用が多い。月曜、火曜と午前中の会議が続く。大学がないので、少しはましだが。
07/25
文化庁。裁定制度について。現行の状態をこのまましばらく続けるという結論にいちおうは同意したけれども、インターネットの時代の到来を考えると、近い将来、抜本的な改革が必要である。というようなことを冒頭に、かなり時間をかけて発言した。何人かの委員にご同意をいただいた。結局、今回の報告書には何の影響もないが、こういう発言は将来への布石になる。同じことを何度もくりかえし主張していると、周囲の人もだんだんわかってくるし、同じことを言われるとうるさいので、少しは改善しようという気になるものだ。
午前中の会議だったので、一日が長く使える。会議のあと弁当が出るので、自宅に帰ってから夕食まで、ひたすら仕事ができる。すでに外を歩いているので散歩に出かける必要もない。さて、「空海」。前から気にかかっていた「五筆和尚(ごひつわじょう)」のエピソードを書いた。空海が両手両足と口を使って五行の詩を王宮の壁に書写したという話。いかにも嘘くさい話で、小説の中に書くとリアリティーがなくなり、そこだけ浮いてしまう可能性がある。しかし、何となく滑稽なイメージで、名僧の逸話としてはふさわしくない。だが逆に、そこが空海らしくて面白いともいえる。使うかどうか迷っていたのだが、般若三蔵との難しい議論のあと、いよいよ青龍寺に乗り込むという、中ぐらいの山から最大の山に向かうポイントなので、息抜きに、こういうユーモラスな場面があってもいいかなということで、採り入れることにした。可能な限りコンパクトに書いたので、読み飛ばしてもらえばありがたい。
07/26
今日も午前中の会議。図書館との定例の協議会。固定したメンバーなので、論争をすることもない。昔は激しく論争をしたこともあったのだが。台風が接近しているので、行き帰り妻に送ってもらった。まだ雑文が残っている。土曜から毎日、夕方は雑文、夜中は「空海」というペースになっている。
07/27
近代文学館主催の夏の文学教室で講演。テーマは「愛」。結局、去年出した私小説の「犬との別れ」の宣伝と、「いちご同盟」を書いた経緯などを話した。語り慣れたテーマなので、きっちり1時間でまとまった。台風一過。猛暑だが空気が感想しているので気持ちがいい。
07/28
今日も暑い。もう一つ雑用が残っている。読んだ本について書く仕事で、書庫に入って調べてみたのだが昔読んだ本なので見つからない。引用なしで書くしかない。「空海」はいよいよ恵果と対面する。最初は静かに進めたい。
07/29
ペンクラブ言論表現委員会。猪瀬委員長は元気そうだった。シンポジウムについての意見交換。今年は上智大学でやることになった。井上会長の母校だ。うちの次男も上智だし、わたしは去年は上智で短期間の講師をしたから、何となくなじみの学校のような気がする。場所が恵まれている。「空海」は恵果が出てきた。雑用を片付けないといけないので、今日はあまり進まない。
07/30
土曜日。公用はない。私的な用がある。わが母の89回目の誕生日。ケーキを買いにいって、ローソクは何本、とか訊かれて、笑ってしまった。一昨日から取り組んでいる雑文、5人の作家で一冊の本を出すというもので、書きながらまだコンセプトがよくわからないのだが、とにかく明日までに仕上げたい。「空海」は恵果が出てきている。この作品の最大の山場で、武蔵と小次郎が出会うとか、そういうすごいシーンになっているのだが、少しこのまま置いておこうと思う。
07/31
日曜日。暑い。何ごともなし。雑文ようやく片付ける。いよいよ「空海」は山場となる。明日から仕事場に閉じこもる。