「アトムへの不思議な旅」創作ノート1

2008年9月

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09/01
9月になった。まだ『マルクスの謎』を執筆中だが、ノートのタイトルを変えることにする。『アトムへの不思議な旅』。このタイトルは仮題である。アトムとは鉄腕アトムのことではない。デモクリトスが考えた、物質の最小単位である原子、すなわち、これ以上分割できないという意味のアートムのことである。人間は知性を持って以来、物質の根元について考え続けてきた。もちろん、目に見えているものはすべて夢のようなもので、あれこれ考えても仕方がないという考え方もある。しかし自然現象には何らかの法則性があるはずだと、知性のある人間の多くは考えるようになった。そのうえで、ターレスは「万物の元は水である」と言い、アナクシメネスは「空気」であると言い、ヘラクレイトスは「火」であると言い、エンペドクレスは四元素説を唱えた。そういう状況の中で、デモクリトスは物質の最小単位はアトムだと述べた。しかしこれは単なる思いつきにすぎない。言ってみたけれども実証することはできないただの仮説だ。しかしやがて人類は、アトムの正体をとらえることに成功する。そこに到る長大な科学の歴史を、まるで謎解きのミステリーのように、ドラマチックに語ろうというのが本書のコンセプトである。わたしは科学者ではないので、厳密に語ることはできないが、ドラマチックに語ることはできる。多くの若者の本書を読んでもらって、科学の面白さを知ってもらいたい。中学や高校の理科の先生が、生徒に勧めたくなる本、といったものを目指しているし、わたし自身、このテーマで語ることが楽しくて仕方がないので、その楽しさを読者に伝えることができれば、この作品は成功すると思っている。
ということなのだが、まだ書き始めるだけの準備は整っていない。実は出だしの文章はすでに書いてあるのだが、作業を続けるためには、とにかくいまやっている仕事を終わらせないといけない。当面は『マルクスの謎』だが、まだ単発の仕事が割り込んでいて、そちらを片づけないといけない。堺屋太一さんに頼まれた、「東京タワー」をめぐるオムニバスの短篇。すでに予定の枚数に達しているので、あとはキリッとしたエンディングに仕上げるだけだ。本日の明け方までにその作業を終え、明日からは「マルクス」のエンディングに向けて作業を進めたい。予定では今月半ばの完成を目指している。それまでの間、少しずつこのノートで、「アトム」についての構想を語ることにしたい。
ところで本日は河出書房の担当者来訪。『西行 月に恋する』がある程度のところまで売れたので、第2弾を出すことになった。もともと2巻か3巻の構想で始めたので、「月に恋する」という副題をつけ、青春編とした。その後の西行の活躍を、「風にさすらう」という副題で書く準備はしている。ただ時期が問題。新書3冊書いてから、ドストエフスキー論、児童文学の第2弾を書く予定で、西行の続篇はその次ということになる。来年の夏までに執筆、年末までに出版というくらいのスケジュールなら何とか書けそうだ。すると来年のスケジュールがほとんど埋まってしまうことになる。
さて、明け方になった。東京タワーの小説は完成した。明日、最初から読み返して、誤字をチェックする。それで手が離れる。テレビをつけると福田首相の辞任がくりかえし伝えられている。いまの日本経済は、誰が首相になろうと救いがない。ではどうすればこの日本は元気になるのか。それは『マルクスの謎』の最後のあたりで書くつもりだ。とにかく短編小説が完成したので、一人で祝杯をあげている。冷蔵庫にプレミアムビールが残っていた。わたしはふだんは糖質ゼロの発泡酒を飲んでいる。健康のためだ。スペインから帰ってきた長男に、発泡酒を飲ませると、こんなまずいものを飲んでいるのかと言われた。それでプレミアムビールを買って飲ませると喜んでいた。その残りのビールだ。ビールのにがみに、夏の想い出が残っている。喧騒の夏だったが、いま思えば懐かしい。

09/02
昨日完成した東京タワーの短篇を、文字をチェックした上で送付。折り返し担当者から返信があって、入稿するとのこと。これで手が離れた。さて、『マルクスの謎』。短篇のために作業が途切れたので、最初から読み返すことにする。出だしはうまくいっている。これは大切なこと。出だしさえうまくいっていればそれでいい。本来なら草稿がいちおう完成してから読み返すところだが、それをいまやっている。文字のチェックを兼ねているので、ここから先の文字チェックをそのつどやっていけば、草稿が完成したらただちに完了ということになる。

09/03
マルクスについての説明。うまくいっている。ちゃんとした説明にはなっていないのだが、論理に勢いがあるので読者をひっぱっていける。それでいいのだ。気になっていたのは、アダム・スミスについての説明が充分ではないこと。そこのところまで進めば、大きな山を越えることになる。

09/04
ついにアダム・スミスのところまで来た。説明を書きかえる。だが、説明を書きかえるだけではその先につながらないことがわかった。わたしの文章は読みやすいと多くの人に言われる。それは表面的な読みやすい文章の下地のところに、綿密な論理展開があるからだ。論理の展開に沿って、文章を構築していく。すっぽりと読みやすい文章でカバーするので、中心にある理屈っぽい部分は読者には見えない。で、アダム・スミスの説明を変更すると、論理のメカニズムが崩れて、次につながらないのだ。この作業はたいへんだ。最初から書き直した方が早い気もするが、そうもいかない。何とか修復してつながるように論理展開そのものを改善したい。

09/05
金曜日。何事もなし。妻と三宿のピザ屋に行く。三宿というか、下馬のあたりで、いい散歩になった。これまで書いた原稿を、一定のスピードで読んでいる。マルクスの謎は深い。しかし何が問題かということが、理路整然と語られているので、読みやすい本になっている。このテーマは、わたしの青春時代と関わっているので、冷静に客観的に語るのが難しいのだが、よくもちこたえている。もう少しセンチメンタルにした方がうけるのではという気がするほどだが、あとで恥ずかしくなるので、還暦の老人らしい冷静さを保ちたいと思う。
この作業をあと十日ほどで片づけたい。次は『アトムへの不思議な旅』だ。「不思議」を「ふしぎ」と表記するかどうかは最後まで迷うと思うが、いちおうこのタイトルで行きたいと思っている。『聖書の謎を解く』『アインシュタインの謎を解く』『般若心経の謎を解く』のシリーズは好評だった。実は第4弾として、『宇宙の始まりの小さな卵』という本を書いたのだが、これは売れず、文庫にもなっていない。タイトルがよくなかった。で、『アトムへの不思議な旅』というのも、その意味ではよくないと思う。『アトムの謎』の方がよくはないか。鉄腕アトムの謎かと思って、まちがえて買う人がいるかもしれない。しかしアトム(原子)というテーマそのものが、あまり人の興味を惹かないだろうと思われるので、ただの謎解きではなく、やや文学的なアプローチがあって、そこに面白さがあるというふうに考えたい。ということで、いまのところこのタイトルで行こうと思っている。
『堺屋太一伝』については、編集部からチェックの入った文書が届いているのだが、読み返しているひまがない。いずれにしても、堺屋さんにもう一度お目にかかって詰めの取材をしたい。ということで、先にアポをとってもらい、取材を進めてもらうことにした。忙しい人なので、取材はずっと先のことになるだろう。これは時間かせぎという意味合いもあるが、まず『マルクスの謎』を書ききってしまいたいという思いがある。できれば『アトム』も書き始めて、文体が確立するところまで行きたい。心に引っかかりのない状態で取材をしないと、せっかく堺屋さんに時間をとってもらっても、頭が回らないということになってしまう。 夜中はテレビでアメリカン・フットボールを見ていた。今年のスーパー・ボウル。奇跡の逆転勝ちをしたニューヨーク・ジャイアンツを、今年も支援したい。開幕戦、相手はワシントン・レッドスキンズだが、ジャイアンツの楽勝だった。しかし今年のスーパー・ボウルに到るジャイアンツの連勝は神がかりみたいなもので、実力が上のチームはある。ジャイアンツのQBのイーライ・マニングの兄、ペイトン・マニングのいるコルツや、スティーラーズ、カウボーイズなど、同じカンファレンスに強敵が多い。つまりスーパー・ボウルへの出場も難しいだろう。だから面白い。これから年末にかけて、ハラハラすることになる。日本の野球は、一時は13ゲーム差あった阪神と、3.5差になった。これもまあ、面白いのだが、自分の仕事に集中しないといけないとも思う。

09/06
土曜日だ。既存の草稿のチェックをほぼ終えた。ここまでかなり修正したので疲れたが、これで大丈夫だ。明け方、サッカーを見る。バーレーン戦。初戦なので日本はチームワークに問題がある。バーレーンは2位になった時にライバルとなるチームで、しかもアウェイということで、負ける可能性があり、引き分けでもいいという感じだったが、3点とって楽勝ムード。しかも相手にレッドカードが出ていた。そこから2点を返されて、最後はひやひやしたが、とにかく勝てばいいのだ。わたしは国粋主義者ではないが、ワールドカップを楽しむためには、やはり日本に参加してほしい。バーレーンごときに負けるわけにいはいけない。本日の試合を見て思ったのは、やはり中村、遠藤など、個人技のある選手がいないと、チームワークだけでもちこたえるのは難しいということだ。どんなにがんばってもわずかな綻びで2点もとられる。得点の3点は、いずれも個人技に頼ったもので、ぎりぎりまで追い詰められると、結局は個人のがんばりということになる。当たり前のことで、能力のない人間が徒党を組めば何とかなるというのは、旧い発想だし、日本人が陥りやすい錯覚だ。個人の才能を認め、個人のがんばりに期待するということは、とても大切なことだ。

09/07
日曜日。これまで書いた原稿を読み返す作業を続けてきたが、チェックが終わった。ここまでの論理の流れもつかめたし修正も終えたので、ゴールへの方向性が見えてきた。あとは一気にゴールに向かうだけだ。予定どおりあと一週間ほどで完了できるだろう。ただし明日と明後日は公用あり。それでも夜中は仕事ができるので集中したい。

09/08
ウィークデーが始まった。本日はひさしぶりに1日に2件の公用がある。まずは国会図書館にてデジタル化及び利用に係る関係者協議会。国会図書館に入るのは初めてだが、自民党や民主党に陳情に行ったことがあるので、このあたりの地理もわかっている。会議は文化庁の小委員会の下のワーキングチームで議論したことの続きなのだが、新規に加わったメンバーもいるので、もう一度、最初からの議論をやり直す。まあ、少しは議論を深めることができた。風邪の後遺症で咳が出るし声もかれているのだが、発言しないわけにはいかないので疲れた。それからペンクラブの言論表現委員会へ。ここでは発言することはないだろうと思っていたのだが、明日のデジタルコンテンツ利用促進協議会についての説明を求められたので、かなり長くしゃべった。声はいよいよかれてきたが、その後も大阪でのシンポジウムの話があり、また発言しなければならなかった。疲れたが、最後の方になると、かえって声が元気になってきた。今日も暑い日だったが、夜になるとぐっと涼しくなった。これで秋になるのであればありがたい。

09/09
デジタルコンテンツ利用促進協議会設立総会。ここは著作権を無視して新たな法律を作ろうとしている自民党知財戦略本部の流れをくんだ組織で、著作権者にとっては「敵」の牙城なのだが、敵情視察のために文藝家協会は参加することにした。自民党国会議員の空疎な挨拶が延々と続いてうんざりしたが、どういう雰囲気の会かがわかったので、まあ、よしとしよう。こんなもののために自分の執筆時間が削られるのは惜しい気もするが、散歩の時間を少し延長したくらいのものだから、大きな影響はない。さて、今週の公用は終わったので、週末まで、「マルクス」に集中する。とにかくゴールまで一気に進みたい。

09/10
水曜日。本日から週末までは公用はない。「マルクス主義」の最後の追い込み。バブルがなぜ弾けたかといった話を書いているのだが、熱が入ると話が長くなる。エンディング目前なのでここは語りのテンポを上げなければならないところ。ところで、突然、何かをインストールせよという指示が出たので、何かの更新だろうと思ってやってみると、ネットのブラウザがグーグルのものになってしまった。「お気に入り」の押しボタンがない。あわててもとのインターネット・エクスプローラーに戻したのだが、何するねん、という感じだ。IEでも最初にグーグルが出るようになっているので、ちゃんとグーグルは使っている。勝手にひとのパソコンをいじってほしくない。深夜にサッカーのウズベキスタン対オーストラリア戦を見たが、ウズベキスタンはけっこう強い。以前、フランス大会の予選のころは、ウズベキスタンは強敵という印象があった。まあ、もう一つの最終予選リーグの韓国、イラン、サウジアラビアというのもなかなかハードだが、日本のいるリーグのオーストラリア、カタール、ウズベキスタンというのも強敵だ。うっかりすると4位になってしまうぞ。

09/11
涼しい。ありがたいことだ。ただし、明日はまた暑くなるそうだが。3章の終わり、この本の最大の山場を書いている。誰も描かなかったことを書いている。この本はシンプルだがエキサイティングなものになる。「マルクスの謎」なんて、けっして解けないだろうと思って読んでいた読者が、びっくりするような瞬間がある。ところで、今日は9・11。ニュースにはグラウンド・ゼロで涙を流す犠牲者の姿が映し出されていたが、イラクやアフガニスタンで米軍の誤爆で死んだ人々の恨みはもっと深いのではないか。不思議なことに、原爆を落とされた日本人で、アメリカを恨んでいる人はめったにいない。「あやまちはくりかえしません」といった文言が広島の慰霊碑に書いてあるらしいが、これは日本人の自己批判なのだろう。日本が世界に訴えなければならないのは、原爆の悲惨さではなく、この「自己批判」の精神ではないだろうか。

09/12
金曜日。いよいよ週末。タイムリミットだが、まだ3章が終わらない。このあとは短い終章をつけるだけなのでゴールは見えているのだが、着地の方法が見えない。やってみないとわからないというところだ。この本は新書なのだが、まるで小説のような論理のドラマがある。どんな終わり方をするのか先が見えない。

09/13
土曜日。週末だ。この週末は月曜まである。来週は公用がずらっと並んでいるので、休日の間に完成させたい。3章が終わった。いよいよ終章。短いパラグラフが序章が4、1〜3章が6ある。終章は2でいいと思っていたが、バランスをとるためには4ということにしたい。これを2日で書くのは大変だが、とにかくゴールはほぼ見えているのでこのまま突っ走っていきたい。夕方、床屋へ行く。いつも散歩の途中で床屋の前を通り、中をのぞいていた。おやじが一人でやっている店だから、客がいれば待つことになる。サンパツはいつでもいいので、ここ何日が通りすぎていた。で、本日も客がいたので通りすぎようとすると、おやじが店から追いかけてきた。すぐにできるから店に入れという。奥さんが出てきてもう一つの椅子に座っているうちに、おやじの作業が完了した。三宿に引っ越して20年、このおやじの世話になっている。わたしより年上であるので、いつかこの理容店がなくなるのではないかと心配である。

09/14
日曜日。終章の半分が終わった。あと1日。ぎりぎりでゴールインできるか。

09/15
月曜日だが祝日。何の祝日だ。敬老の日。わたしも老人だから、敬ってもらえるのだろうか。とにかく自分の仕事をする。終章の最後のパラグラフに突入。だが時間切れ。残念。ゴールに到達できず。まだ文字のチェックも終わっていないので、手が離れるのは明日ということになるだろう。

09/16
連休が終わってウィークデー初日。今週は多忙だ。本日はジャスラックで打ち合わせ。往復徒歩。少し涼しくなったが歩くと汗が流れる。「マルクスの謎」。草稿ほぼ完了。ほぼというのはエンディングの決めぜりふがまだ決まっていない。少し手前から文字チェックを兼ねて読み返し、エンディングへの流れを検討したい。

09/17
長男の誕生日だ。35歳になったはず。妻がスペインに電話したので、こちらも1分ほど話す。まあ、元気そうだった。ピアニストとして、高等音楽院の教授として、3人の娘の父親として、よくがんばっている。
文藝家協会理事会。ものすごく長くしゃべって疲れた。明け方、『マルクスの謎』完了。ただちに『アトム』に取り掛かろうと思ったが、雑文一件の締切が迫っている。テーマは「仏教と私」。と思ってとりかかろうとして、いまPHP文庫で出している文春ネスコから出した「謎を解くシリーズ」のことに触れようと思い、これらの本はいつごろ出したかを確認するために、自分のホームページの著作リストを参照したら、リストが2000年くらいで止まっていることに気づいた。「新刊」というページを作ったので、リストには書き込まなくなっていたのだ。少し手間がかかったが、リストも現在まで整理した。ひまな人は見てほしい。最初のホームページの下の方に「三田誠広の著作リスト」というのがある。

09/18
文化庁小委員会。その後、教材出版社と打ち合わせ。1日に2件公用があると疲れるが、本日は午後からなので問題はない。午前中の会議からスタートすると疲れが残る。雑文一件、半分ほど書く。

09/19
雑文を仕上げてからメンデ協会へ。サロンコンサート。作曲家の佐藤慶子さんと対談。演奏をまじえながらメンデルスゾーンについて語る。佐藤さんとは初対面で、ぶっつけ本番だが、こちらの質問と佐藤さんの答えとがかみあって、何となくまとまった感じになった。最大40名しか入らないサロンなので、くつろいだ感じで、メンデルスゾーンを話題に、ひとときをすごせた。サロン例会については、インデックス(ホームページ)の一番下にある「メンデルスゾーン協会」のホームページから「理事長の日記」のページに進んでください。

09/20
土曜日。さて、「アトム」である。いよいよ本格的に執筆を開始する。出だしの部分はこれまで、公用のあいまにメモ帳(ウィンドウズのメモ帳ではなく本物のメモ帳)に書き込んである。会議の席に少し早くついた時とか、会議中どうでもいい文化庁の説明などが続いている時に、ひたすせメモした。ただメモに文字で書いているのと、キーボードに打ち込むのとは違う。活字にしてしまうと、こちらのメモが恣意的で客観性に欠けることがわかる。それを修正し、これは本になるのだという覚悟を決めて書いていく。本日はまだメモ帳の文字を打ち込んでいる段階。そこから先に進んだところから、本格的な執筆が始まる。
ところでここでは「アトム」とは何かということを書いておこう。言うまでもなく「アトム」とは、ギリシャのデモクリトスが、万物の元として、「分割できないもの」という意味で、小さな粒子のごときものを想定した。これは単一の粒子ではなく、さまざまな物質を分解していくと、これ以上分解するとその物質ではなくなるという、物質ごとの最小単位があるはずだということで、だからアトムは何種類もあることになる。これは近代科学でいう元素の最小単位の「原子」に近い。実際に原子はアトムと呼ばれ、日本で用いられる原子はアトムの訳語にすぎない。しかし厳密にいうと、原子はアトム(分割されないもの)ではない。第二次世界大戦中に、ドイツのオットー・ハーンはウラニウムがバリウムとクリプトンに分割される現象を観測し、そこから原子爆弾の可能性を洞察した。しかしハーンの助手のだったユダヤ人女性のリサ・マイトナーがアメリカに亡命したために、アメリカの方が先に原子爆弾を作ることになった。そういうことはどうでもいいが、要するにいま「原子(アトム)」と呼ばれているものは、分割されるわけだから、本物のアトムではない。すべての原子は、陽子と中性子でできている。その周囲に電子が分布しているのだが、電子はほとんど質量のない粒子だし、たやすく原子から引きはがされるので、これは原子の衣みたいなものと考えていい。つまり原子の核の部分を構成しているのは原子と中性子だが、この中性子は原子核の外に飛び出すと、たちまち原子にベータ線と反ニュートリノを放出して陽子になる。ベータ線というのは高速の電子で、これはオマケみたいなものだ。つまり、中性子は陽子にオマケ(原子核内ではパイ中間子と呼ばれる)がついているだけのものだ。ということは、最終的に分割できないものとは、陽子だということになる。
ということで、「アトムへの不思議な旅」というわたしの本は、「陽子」の発見に到る人類の歴史の物語だということになる。この本のどこが面白いかというと、わたしが面白いと思っているので、それは語り口に反映されるだろう。つまり語り口を味わってほしい本だ。

09/21
日曜日。アメリカン・フットボールも始まったことだし、日本の野球のことは忘れていたのだが、忘れているうちに巨人は阪神に3連勝して、13ゲーム差あったゲーム差が0になった。まだ並んだだけだし、引き分けが一つ多いので、まだ微妙に負けている感じがする。しかし直接対決があと2試合あるので、それに2連勝するしかない。明日から巨人は調子の出ている広島と4連戦、阪神はビリの横浜と4連戦、おそらく阪神は3勝1敗くらいだろう。並んでいくのは大変だ。そんなことより自分の仕事だ。『アトムへの不思議な旅』。どうも前書きが必要なようで、そこから始めたい。ここはコンセプトを書くべきだろうが、全部書いてしまうと意外性がない。難しいところだ。

09/22
月曜日。ジャスラックで創団協の総会。創団協というのはわたしが議長を務める「著作権を考える創作者団体協議会」のこと。著作権に関する問題は山積である。議長なので司会をしなければならず疲れるが無事に総会を終えることができた。創団協のポータルサイトの実験が来年にも実施できる見通しが立った。これで一歩前進だといえる。ジャスラックまではいつもどおり徒歩で往復。いい運動になった。さて、巨人も阪神も勝って、野球も面白いが、何といってもNFLだ。ジャイアンツは開幕3連勝。しかしカウボーイズも3連勝なので、激しいデッドヒートが続きそうだ。しかもこの地区は他の2チームも2勝1敗なので、ワイルドカードも厳しい闘いになる。同一地区同士の対戦がカギになる。『アトム』は「まえがき」が完成し、序章も動いている。このまま前進していけば文体が確立されそうだが、少しでも油断すると、説明しすぎになる。くどくなると読者が離れてしまうので、テンポよく語る必要がある。詳しい説明はあとまわしにして、とくに出だしの部分はテンポを何よりも重視したい。

09/23
火曜日だが祝日。書庫のある別棟の屋上の排水口がつまったようだ。十センチくらいの縁があってその上に手すりがある。ここに水がたまっている。以前にもそんなことがあって、つまりをとると水圧で樋が壊れたことがあった。それ以後は、短いホースをサイホンにして水を抜いてからつまりをとるようにしている。ホースを水につけて片側を折って水を止めてから、縁の外に出す。これはコツのいる作業で、何回目かに成功した。水が音を立てて流れ落ちる。半日流していたがまだ半分くらい残っている。夜は音がうるさいのでストップ。

09/24
日本点字図書館で本間賞の選考。高田馬場の点字図書館はいつもはJRだが、本日は行きは妻の車、帰りに副都心線に乗った。すいているのが何より。副都心線に乗るのは初めて。渋谷の乗り換えも簡単だ。出発前に前日途中で終わっていた別棟屋上の水抜きを再開。夕方4時、水音が途絶えた。上がってみるとまだ水は少し残っていたが、排水口をつついてみると、水が流れ始めた。本格的な作業は屋上が完全に乾いてからにする。

09/25
メンデ協会運営委員会。事務局は「集&YU」というサロンに置かれているのだが、本日はサロンで催しがあるので使えない。入口の前まで行くとメンバーが道路に立ち尽くしていた。近くの喫茶店に移動。手頃な個室があって、生ビール500円とのこと。焼酎やウイスキーの飲めるし、オードブルもある。喫茶店の姿をした飲み屋だ。必要なことを話し合い、解散したあと、何となく飲み足りない3人で焼酎の店へ。ここも焼酎が500円均一。つまみは400円均一。何杯飲んだか記憶がない。

09/26
本日は公用なし。ひたすら仕事。『アトムへの不思議な旅』第一章完了。いい感じで動き始めた。できる限りエキサイティングに語るということをこころがけている。誰でも興味をもつというテーマではない。何とか語りの魅力で読者を引き込みたい。今朝の明け方の気温が27度。これはテレビの報道で、明らかに熱帯夜だが、わたしの仕事スペースは涼しかった。不思議なのだが、なぜかわたしのスペースは涼しい。窓の外は隣の家との間の塀がある。隣の敷地の方が高いので、壁は隣の地下に接しているので、井戸水が冷たいように、壁に冷却効果があるのではないかと思う。いつも壁の方から、ひやっとして風が吹き込んでくる。明日は冬の寒気が来るとのことで、この窓を開けているのも、今日が最後かもしれない。

09/27
土曜日。コーラスの練習。昔、八王子めじろ台に住んでいたころの仲間。本日はいつもの北野の公民館ではなく、横浜線の片倉駅前の由井市民センター。京王線の京王片倉からも歩いていけるのだが、本日は横浜線の片倉から行くことにした。これにもいくつか方法があって、京王線で多摩センターの先の橋本まで行く方法と、下北沢から小田急で町田に行く方法がある。しかし今日は、とりあえず三軒茶屋から田園都市線に乗ることにした。ところでいまはガリレオ・ガリレイが慣性の法則を発見する場面を描いている。頭の中に物理法則がとびかっていて、ずっと考え続けているうちに、溝ノ口で下りて南武線に乗っていた。本当は長津田まで行かないといけないのだが、同じJRだから、体が自然に反応して、気がつくと立川行きの電車に乗っていた。そのあたりでようやく、この電車は片倉には行かないと気づいた。それでもまだ選択肢はあって、稲城で橋本行きに乗り換えるか、分倍河原で京王線に乗り換えるか、しばし考えたが座席に座っていたのでそのまま立川まで行った。高尾方面のホームの電車に飛び乗ったのだが、どことなく悪い予感がして、あわてて確認したら青梅行きだった。反対側に大月行きなどという変な電車が来て、とにかく八王子に行き、そこで横浜線に乗った。大旅行であった。頭の中に物理学がある時は気をつけないといけない。めじろ台で飲んで帰ると、韓国旅行に行っていた妻が帰っていた。

09/28
日曜日。寒い。一昨日の明け方は27度の熱帯夜だったのに。巨人は負けて、試合のなかった阪神にマジックが出た。マジックが出たということは自力優勝がないということ。気持がすうっと引いていく。こういう時、わたしはニューヨーク・ジャイアンツに期待をかける。今年のスーパーボールの大逆転はいまも目にやきつけられる。何度もビデオを再生しているからだが、今年も開幕3連勝で、イーライ・マニングは快調だ。兄のペイトンは絶不調。さて、今日は日曜日だ。そろそろ第四戦の結果が出そろっていることだ。

09/29
ウィークデーが始まった。本日からしばらくの間、月曜日は著作権の講義に出かける。本日は初日。まあ、楽しくしゃべれた。

09/30
公用なし。矯正協会の仕事をする。自由を拘束されている人々の作文。毎年思うことだが、読んでいて心を洗われる思いをすることが多い。


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