イオン交換樹脂とは
【イオン交換樹脂とは】
イオン交換樹脂というのはどんなものか?
簡単にいいますと網目状をした長〜い炭素の鎖(これが樹脂)にイオン
を捕まえる手(専門的には官能基と言います)がついた物ということが
出来るでしょうか。この官能基の違いによって化学的性質の全く異なる
ものになります。
【イオン交換樹脂の種類】
イオン交換樹脂にはその化学的性質から分類すれば主な物は4種類があ
ります。
1)強酸性カチオン交換樹脂
2)弱酸性カチオン交換樹脂
3)強塩基性アニオン交換樹脂
4)弱塩基性アニオン交換樹脂
この他にも特定のイオンを吸着するキレート樹脂とかいろいろな種類が
あるのですが、アクアリウムで有用なのは1)と3)です。
(捕捉:【用語】カチオン=陽イオン、アニオン=陰イオンのことです)
【強酸性カチオン交換樹脂】
強酸性陽イオン交換樹脂の手はSO3-です。この手に何を持っているかで
何々型カチオン交換樹脂と呼びます。H+(水素イオン)を持っていれば
H型、Na+(ナトリウムイオン)を持っていればNa型と言うわけです。
陽イオン交換樹脂のイオンの選択性は次の順番になっています。
H+<Na+<NH4+<K+<<Mg2+<Ca2+
右のイオンほど樹脂に吸着しやすく、左のイオンほど樹脂から
離れやすいということです。
ですから、H型やNa型の樹脂はCa++やMg++を含む水が流れると、H+やNa+
を放出してCa++やMg++を吸着する訳です。
用途としてはGHの低下ですね。ADAのソフナイザーはNa型の樹脂です。
H型を使うこともできますが、単独で使用するとCa++イオンが当量の
H+イオンに置き換わりまして、水素イオン濃度が上昇してpHが下がり
ます。
【弱酸性カチオン交換樹脂】
弱酸性カチオン交換樹脂の手はCOO-です。普通はH型(COOH)になっています。
弱酸性カチオン交換樹脂のイオンの選択性は強酸性樹脂と異なり、
Na+<K+<Mg2+<Ca2+<H+
です。ですから、H型の弱酸性カチオン樹脂で硬度を下げることはできません。
Na型にして置いても水が酸性になればNaを放出してH型になっちゃい
ます。水が酸性の時はH+がありましてイオン交換能力はなく、何とも交換
しませんので、何にもなりません。
【強塩基性アニオン交換樹脂】
強塩基性アニオン交換樹脂の手は-NR3+という形をしております。
Rというのは有機化学でアルキル基といいいまして、メチル基(CH3)だとかエチル基(C2H5)といったものです。
この樹脂は通常Cl型(塩素イオンのついた-NR3Cl)のものが売ら
れています。これは何故かというと、OH型の樹脂はアルカリ性が強いので
樹脂自身がこのアルカリ性に耐えることができず、分解しやすい為です。
Rの種類によっては耐性のよいものもありまして、OH型でも販売しているようです。
分解するとメタノールとかアミンといった生物に好ましくない物質を発生します。最高使用温度はOH型で40℃、Cl型で60℃と言われています。
イオンの選択性は
OH-<HSiO3-<HCO3-<Cl-<NO3-<SO42-
でありまして、OH型の樹脂は硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、ケイ酸塩、
硫酸塩等全ての陰イオンをOH-に交換することができます。
ここで注意したいのは単独で用いた場合、陰イオンは全てOH-に交換される
訳ですから、pHは上がります。
pHが上がっているところに炭酸ガスを通じますと
OH- + CO2 → HCO3-
となってKHは下がりません。
カチオン交換樹脂と組み合わせて、発生するOH-と当量のH+を
発生させ、純水にすべきだと考えます。
【弱塩基性アニオン交換樹脂】
弱塩基性アニオン交換樹脂の手は-NR2という形です。特に陰イオンを持って
いる訳ではないので何型というのはありません。
イオン選択性は
HCO3-<Cl-<SO4--<OH-
でしてアルカリ性では交換能力はありません。アルカリ性ではOH-があるので
何とも交換しないってことです。
HCO3-を放出することはできても吸着しませんから、KH下げる訳でなし、こいつ
は役に立ちそうもありません。
強いて言えば弱酸性カチオン樹脂と組み合わせてやればpHが安定しますね。
【樹脂の再生】
これまで、樹脂のイオンの選択性についてお話しましたが、選択性というのは濃度の低い場合に成り立つものであります。
選択性の低いイオンでも、濃度が高いとさすがに逆の交換も起こっ
てしまいます。これを利用して再生を行います。
強酸性カチオン交換樹脂:Ca型になってそれ以上吸着できなくなった樹脂は塩酸で洗うとH型、食塩水で洗うとNa型に戻すことができます。
強塩基性アニオン交換樹脂:OH型にするには水酸化ナトリウムを使用します。
ただ、有機酸による汚染を受けると再生できないという問題点があります。
植物の腐植酸(フミン酸)といったものは大きな分子であり、樹脂と複雑に
絡み合うので再生できなくなっちゃう訳です。
ですので前処理用に使うのはいいですが、水槽のフィルター等に入れて使う
場合、再生はできないかもしれません。
前処理に使う場合でも、ピート等で同時に処理してはいけません。再生でき
なくなります。
こういった有機酸による汚染を防ぐためには活性炭の前処理が有効です。
再生は酸、アルカリを使用するため危険です。使い捨てにするのが無難かと思います。純水での換水の効果を試してみたいという方にお薦めします。長くやってみたい方は迷わずRO(逆浸透膜)に走りましょう。
【実際の商品名とお値段、入手法など】
イオン交換樹脂は試薬屋で入手可能です。タウンページで化学工業薬品覧を探
せばあなたの町の試薬屋が見つかるでしょう。下表に参考価格(97年の価格 現在かなり値上がりしているようです)を載せておきます。他にもいろいろ出ていますので探してみるとよいでしょう。
参考価格
樹脂の種類 | メーカー | 商品名 | 値段 |
強酸性カチオン | 三菱化成 | ダイアイオンSK1B | 500mL ¥1500 |
強酸性カチオン | オルガノ | アンバーライトIR-120B | 500mL ¥2500(Na型) |
強酸性カチオン | オルガノ | アンバーライトIR-120B | 500mL ¥3400(H型) |
強塩基性アニオン | 三菱化成 | ダイアイオンSA10A | 500mL ¥2200 |
強塩基性アニオン | オルガノ | アンバーライトIRA410 | 500mL ¥3780(OH型) |
【樹脂の処理能力】
処理量は原水の水質によってかわります。
イオン交換樹脂の処理能力はmeq/mLという単位で表されます。
これは樹脂1mLあたり何ミリ当量のイオンと交換できるかというもので、
例えばアンバーライトIR-120が1.9meq/mL、IRA-400が1.4meq/mLです。
IRA-400を基準にしますと、500mLで700ミリ当量(0.7当量)の処理が
可能ですから、食塩にして28g、Ca(HCO3)2にして56.7g、CaOにして
19.6gの交換が可能です。
GH=10の水(CaO100mg/L)を処理するならば、196L、GH=5ならば倍の
392Lです(Ca,Mg以外にNa等も入っているでしょうから、実際にはもっと
少なくなるはずです)。
【水草水槽でのイオン交換樹脂の使い方】
水の前処理用として純水を作るのに使うのが望ましいと考えます。
水槽内のフィルター等に入れると各種養分となるイオン種がイオン交換によって
失われてしまいます。ADA社のソフナイザーという商品はこのタイプですが、カリウムとか鉄が欠乏したりしないのか?私は疑問に思っています。
私の経験では30cm水草水槽にカチオン(H型)アニオン(OH型)の樹脂を混合したものを少量(10cc程度)使用しましたところ、水草(エキノドルスラティフォリウス)が白化しました。もちろんすぐに撤去しました。
換水にイオン交換処理した純水を使用してやると、藻類の発生防止に効果があるかなと感じています。
硬度の低下にはNa型のカチオンを使用するよりも、安価なゼオライトを使用するほうがお得です。ゼオライトについてはらんだむさんのページの「よしみ」さんのお話が参考になります。
私のイオン交換処理水槽を見る