Q&A


ここではメールで頂いた質問の中から一部紹介したいと思います。
質問1 水槽のpHは何故下がるのか?炭酸塩濃度はpHと関係ないの?

これは、
1.炭酸ガスを添加するとなぜpHが下がるのか?
2.魚を飼っているとなぜ水槽のpHが下がるのか?
この2つの答えはまったく違うものになります。

まず1の質問の答えですが
炭酸ガスは水に溶けると一部は
 CO2 + H2O → H2CO3 のように水和します。H2CO3を炭酸といいます。
炭酸の一部は次のように解離します。
 H2CO3 → H+ + HCO3-
このように解離すると水素イオンが生成するのでpHが下がる(=水素イオン濃度が高 くなる)わけです。

  次に2の問題です。
魚がアンモニアを排泄することはみなさんご存じかと思います。
これが濾過によってどう変化するかを化学式を使って表示します。
まず1つめはNitrosomonasによる亜硝酸への酸化が起こります。
 NH3 + 3/2O2 → NO2- + H2O + H+ 
  △G=-66.5kcal
2つめはNitrobactorによる亜硝酸の硝酸への酸化です。
 NO3- + 1/2O2 → NO3- 
  △G=-17.5kcal
1つめの反応では1分子のアンモニアに対して1つの水素イオンが生成しており、 この反応がpHを下げる原因といえます。2つめはpHの変化にはなにも関与して いません。
すなわち、NitorosomonasによってpHが下げられているといえるでしょうか。 余談ですが△Gというふうに書いたのは反応前後の自由エネルギー変化の値 でこれが負に大きいほどこの反応で取り出しうるエネルギーが大きいという ことです。
これらの細菌はこういった反応でエネルギーを得ており、そのエネルギーで CO2を炭素化合物に変換し自らの細胞を作っていきます。

炭酸塩とpHの関係は?
亜硝酸が生成する時に生じたH+のことを考えてみましょう。
もしも純水中で100のNH3が全て酸化されたら100のH+が生成します。
それでは炭酸水素イオンが溶解している水ではどうでしょうか?
 H+ + HCO3- → H2CO3
の反応が起こって発生したH+の殆どは炭酸に押し戻されてしまいます。
HCO3-の溶けている水では発生するH+の一部が消費されるのでpHが下がりにくい といえます。

具体例で考えてみましょう。
炭酸ガスとpH、KH(炭酸水素イオン濃度)の間には次の関係があります。
  [H+][HCO3-]/[H2CO3]=4.2×10-7
[ ]で表したのはmol/Lであらわしたイオンの濃度です。

1ppmのNH3が酸化された場合を考えてみます。
アンモニアの分子量は17、硝酸の分子量は62です。
1ppmのNH3は0.1/17=0.059mmol/Lで、当モル(3.7ppm)の硝酸を生成します。 このときH+濃度も0.059mmol/Lとなります。
水のなかにNH3以外に何も溶けていないと仮定してpHを計算しますと、
-log(0.059*10-3)=4.23
4.23まで下がることになります。

ではkH3に相当する炭酸塩を含んだ水ではどうでしょうか?
当初 [HCO3-]=1.068*10-3mol/L溶けています。
もともとpHが7だったとすると、
 [H+][HCO3-]/[H2CO3]=4.2×10-7
ですから炭酸ガス濃度は
 [H2CO3]=[H+][HCO3-]/4.2×10-7
     =1.0*10-7*1.068*10-3/4.2×10-7
     =2.54*10-4mol/L (=16.5mg/L)
となります。
ここで、上記の濃度のH+が生成してそのうちxのH+が
  H+ + HCO3- → H2CO3 の反応をしたとしますと
   [H+]=1.0*10-7+0.059*10-3-x
   [HCO3-]=1.068*10-3-x
   [H2CO3]=2.54*10-4+x ですから
(0.059*10-3-x)(1.068*10-3-x)/(2.54*10-4+x)=4.2×10-7
が成り立ちます。これでxを求めると
発生した水素イオンは殆ど全て消費され、pHは変化しないことがわかります。