比較構文は様々な慣用句も含めて、理解・暗記の両面において学生にとって難しい分野の一つである。しかし、英語の比較構文の世界は実は非常に数学的に整合性のとれた世界で、これから説明する基本と応用を理解し記憶すれば、必ず克服できる分野である。
基本
A is more beautiful than B. = A is not less beautiful than B. → A>B (AはBよりも美しい) |
A is less beautiful than B. = A is not more beautiful than B. → A<B (AはBほど美しくない) |
上の表の A is more beautiful than B という例文は、中学校で習う非常に基本的な比較の構文である。この英文が不等式の A>B の意味になることは容易に理解できる(それ故に名称も優等比較と呼ばれる)。そして、その否定文が A<B(正確にはA≦B)であることも理解できるであろう。notによる否定は意味が逆転するという通常の理屈で考えればよい。問題は、中学校では教えられない A is less beautiful than B という例文の方である。この表現が教えられない最大の理由は文章体で堅い表現であるということだが、同時に、同じ意味を表す簡単な表現があるからである。
A is less beautiful than B. = A is not so (as) beautiful as B.
中学校で教えられる同等比較の構文の否定文が同じ意味を表す。中学生が最初に、この否定文を習ったときによく「AはBと同じではない」と訳して間違うのだが、もちろん、この2つの同じ意味を持つ英文はA<Bの意味になる(劣等比較と呼ばれる)。比較とは当然、相対的なものなのだから、AがBより上か下かということになる。そうすると--erやmore+原級で表される優等比較(AがBより上)の世界だけでは不完全である。そこで、less+原級で常に表される劣等比較(AがBより下)の世界が必要となる。実際には、同等比較の否定形で代用されることの多いこの劣等比較の世界を理解することで、慣用句として強制的に暗記させられるlessがらみの表現を、明確に理解して覚えることができる。たとえば、上の表の A is not less beautiful than B. という表現は「AはBに勝るとも劣らず美しい」とイディオムとして教えられるが、「AはBより下ではない→AはBより美しい」と大ざっぱに考えてほぼ間違いない。応用編で扱う様々な慣用句も、この劣等比較をまず理解することでかなりわかりやすいものとなる。
応用
A is much more beautiful than B. | A>B(差は大) |
A is a little more beautiful than B. | A>B(差は小) |
A is no more beautiful than B. | A=B(差はゼロ・否定的な意味で同じ) |
A is no less beautiful than B. | A=B(差はゼロ・肯定的な意味で同じ) |
A is a little less beautiful than B. | A<B(差は小) |
A is much less beautiful than B. | A<B(差は大) |
クジラの公式と呼ばれる no more --- than というイディオムは、本当に暗記するしかないのか。上の表を注意深く理解すれば、そうではないということがわかる。そこで、比較の基本をもう一つ確認しなければならない。
Taro is two years older than Keiko. (差は2歳)
Taro is much older than Keiko. (差は大)
Taro is a little older than Keiko. (差は小)
上の3つの例文を見てもらえばわかるように、英語では比較級の直前に程度の差を表す具体的な数値や副詞類を置くことができる。基本編でも述べたように、比較とは2つの物を相対的にどちらが上でどちらが下かを比べるものなのだから、その2つの物には程度の差があるわけである。その差を具体的に、あるいは詳しく表現する必要がある時に、上の例文のような語句が比較級の直前に添えられる。そして、何よりも大切なことは、否定語の no は比較級の直前に置かれるときは、これらの程度の差を表す語句の仲間だということである。その表す程度の差は no=ゼロ である。つまり、差がゼロなわけだから、2つの物は同じなのである。このことをよく理解してもう一度上の表を見てほしい。A is no more beautiful than B. も A is no less beautiful than B. も、美しさの面でAとBが同程度だということを意味している。ただし、ここでどうしても記憶しなければならないことは、no moreには否定的な意味が残り、no lessは、lessの否定的な意味とnoが打ち消し合って結果として肯定的な意味になるということである。前者は「AもBも同じように美しくない」の意味になり、後者は「AもBも同じように美しい」の意味になる。特に、後者は A is just as beautiful as B. と同じ意味になり、同等比較に相当する表現である。
さて、これでクジラの公式は暗記物ではなくなったのではないでしょうか?!
A whale is no more a fish than a horse is. 「鯨が魚でないのは、馬が魚でないのと同じだ。」
とは言うものの、暗記物としては次のように覚えたらどうでしょうか。
no more than = でないのが同じ
no less than = であるのが同じ = just as as
not less than = 勝るとも劣らず , 負けないくらいに
例題1
I can no more help loving Collin than I can help the rain falling or the trees bursting into leaf.
(訳)雨の降るのや、木々がいっせいに若葉になるのを止められ ないのと同じように、コリンを愛さずにはいられない。
例題2
I dare say when he is as old as I am he'll have no more hair than I have.
(訳)おそらく、彼だってわしの年になれば、今のわし同様髪の毛などあるまい。
例題3
We can't escape the past in our lives any more than we can in our faces.
(訳)我々は顔においても、生活においても過去から逃れられない。
私たちが英語で発信していくとき、そしてまた英語を受信していくとき大切なことは、標準的で自然な英語の構造を理解し、使いこなせるように身につけることである。大学受験で言えば、センター試験レベルの英語を直読したり、2次テストの英作文に取り組んだりするときに、私たちが目指すべきものは標準的で自然な英語の文体である。Rの授業で最初に説明したように、そのような文体の基本は次のようにまとめることができる。
@ 単文(基本5文型) | S +V+・・・. | |
A 語・句・節の並列(等位接続詞) | A and B / A, B, C(,) and D | |
B 重文(等位接続詞による文の並列) | S+V ・・・(,) and S+V ・・・. | |
C 複文 |
(従属接続詞による従属構造) |
<接 S+V ・・・>(,) S+V ・・・. 副詞節 S+V ・・・ <接 S+V ・・・>. |
S+V+[接 S+V ・・・]. 名詞節 | ||
(関係詞による従属構造) | S (関 v+o ・・・)+V・・・. 形容詞節 |
ところが、Rの読み物を読み始めて、私たちはいきなりつまずくことになった。2次テストの高度な英文解釈に対応し、大学進学後は様々な原書を読みこなしていかなければならない私たちは、複雑な節・句・並列構造や不自然な連結を読み解く力をこのRの授業で身につける必要性がある。
そこで、まず第1番目の課題が分詞構文である。文章体である分詞構文は、表す意味が曖昧になる傾向もあるので、英作文などで使用することは避けなければならない。が、読解面では、分詞構文も含めた「分詞の連結関係」を徹底して追求することが大切である。
|
|
|
|
|
最初の図のCの複文構造で、副詞節に相当する部分を圧縮してコンパクトな副詞句にしたものが分詞構文である。それでは、分詞構文の表す意味と形態を下にまとめてみる。
時 |
従属接続詞when/while/after/as soon asなどが導く副詞節を分詞が導く副詞句にする |
< <Walking in the forest>, I met a mysterious girl. |
|
理由 |
従属接続詞because/as/sinceなどが導く副詞節を分詞が導く副詞句にする |
< < <An innocent boy>, I couldn't make out what she meant. |
|
条件・仮定 |
従属接続詞if/even ifなどが導く副詞節を分詞が導く副詞句にする |
< <Going down this road>, you will find the bus stop. |
|
譲歩 |
従属接続詞thoughなどが導く副詞節を分詞が導く副詞句にする |
< <Admitting what he says>, I still think he's made a mistake. |
ここで、分詞構文の諸形態をまとめてみると次のようになる。 (beingは省略されることが多い)
|
|
|
|
|
されに、分詞構文にはもう一つ別の用法がある。それは付帯状況で、最初の図のBの重文構造が圧縮された形態である。
付帯状況 |
同時 |
同時的な付帯状況で、副詞句の部分が「〜しながら」の意味になる |
He came to the party, He came to the party, <wearing a blue tie>. |
||
連続 |
連続的な付帯状況で、副詞句の部分が「そして〜する」の意味になる | |
This train starts at five, This train starts at five, arriving in Osaka at eight. |
この用法では、分詞句が後置された形態をとることが多い。
|
|
|
分詞も含めて準動詞とは、動詞が形を変化させて文の述語動詞(SV... のV)以外の位置に現れる形態である。となると、お決まりの名詞句・形容詞句・副詞句のいずれかのかたまりとして文に組み込まれることになる。前置詞句なども副詞句・形容詞句として文に組み込まれているのだが、準動詞が導く句には、他の句表現と区別して重視しなければならない点がある。
|
|
|
準動詞が動詞に準ずるものである限り、それが導く句が表す動作の主体(意味上の主語)を常に意識しなければならない。たとえば、次の例文は分詞を意味上の主語とどう連結するかによって、2通りの解釈が可能である。
She got Tom's letter(,) saying that he was ill.
@ She got Tom's letter (saying that he was ill).
A She got Tom' letter, <saying that he was ill>.
@のsayingは分詞の形容詞的用法でletterを後置修飾している。つまりsayの意味上
の主語はletterである。
「彼女は、トムが病気であると書かれた彼からの手紙を受け取った。」
Aのsayingは分詞構文で、意味上の主語はSheである。
「彼女はトムから手紙を受け取った。そして彼女は、トムが病気であると言った。」
このように、分詞の意味上の主語をどう捉えるかによって意味が大きく異なり、そのことが用法の差の根拠になっているのである。ここで、分詞構文に関して大切な基本原則を示しておく。
|
|
そして、意味上の主語が主文の主語と異なる場合の分詞構文では、分詞の直前に異なる主語を残すことになる。それが、独立分詞構文と呼ばれる形態である。
独立分詞構文 |
< <My mother being sick>, I stayed home. cf. Being sick, I stayed ho |
関係代名詞は代名詞と接続詞の働きを兼ねる語であると、通常の文法書では説明される。しかし、この英語においてもっともやっかいな道具を正確に理解して運用するための基本は、やはり英文の構造上の特性である。
基本 (特に制限的用法において)
日本語においては、名詞の追加情報はすべて名詞の前に置かれる(前置修飾)。たとえば、次の日本語を分析してみよう。
「私たちを湖へ乗せていった観光バスが、途中で故障しました。」
「私たちを湖へ乗せていった」という情報と「観光(のための)」という2つの情報が名詞の前に並べられている。ところが英語ではどうなるか?
The sightseeing bus which took us to the lake broke down on the way.
sightseeing は名詞の前に置かれているが、which took us to the lake は名詞の後ろに置かれている。英語では名詞の説明をする語である形容詞は日本語と同様に名詞の前に置かれるが、名詞の説明をする2語以上の句や節は名詞の後ろに置かれる。これが英語の構造上とても大切な「後置修飾」という特性である。そして、関係詞は名詞に対して文という構造を持つ情報(節)を付加するための道具である。中学時代、関係代名詞はまず最初に2文を1文にするという作業の中で理解し学習したものである。関係詞とは、主文の中のある名詞(先行詞)に対して、その説明をする別の文(形容詞節)を接合するための接着剤のような働きをするものである。したがって、基本5文型をベースにして語順と句・節によって構成される英語の基本構造を理解して学習していく上で、この関係詞が導く形容詞節をかたまりとしてうまく処理していくことが、全く異なる言語構造をもつ日本語を母語とする日本人にとってとても重要な課題となってくるのである。次の分析を見て欲しい。
The sightseeing
bus (which took us to the lake) broke down on the way.
S
V
だいたい、最初に与えた日本語は、ある意味英語の影響を受けた日本語と言えるかもしれない。普通、「観光バスに乗って湖に向かっていたら、途中バスが故障したんだよ。」と日本人なら言う。しかし、英語では、関係詞という道具があるから「観光バスが途中故障した。」という文の主語に情報を付加してしまうのである。そして追加情報の部分である形容詞節が、基本5文型と語順が肝要な英語における基本構造 S→V という連結をわかりにくくしている。僕は授業では、形容詞節を丸括弧( )で括り出すように指導している。そうすることで、基本構造 S→V が明確に意識されるようになる。何も将来にわたって英語を括弧だらけにして扱えと言っているのではなく、学生の初歩の段階で英語の構造的特性を徹底的に叩き込むために、括弧付けによる分析的精読を勧めているのである。そこで、基本レベルでの関係詞の扱いの鉄則を2つ列挙しておく。
この2つの鉄則にしたがえば、関係詞を含む複雑な構造の英文も8割くらいは読解できるであろう。ただし、100%の正確な意味に至るためには、もう一つ重要な鉄則が必要である。しかも、それは関係詞を実際に運用する(英作などで少し必要な力)ためにも必要である。それを応用のほうで解説しよう。
応用 (非制限的用法も含めて)
いきなり文法的なことを言うが、上の英文の which は「主格の関係代名詞」である。「目的格の関係代名詞」でもないし、「関係副詞」でもない。そして関係副詞は「形容詞節」を導く。このへんで、生徒たちは形容詞や副詞や格という訳のわからない文法用語に惑わされて、「文法なんて嫌い!」「文法なんかより会話したい!」と騒ぎ出すのである。ちゃんと文法は納得するように simplify して説明してあげないといけない。基本の方で説明したように、関係詞は形容詞節を導く。特に制限的用法での話だが、関係詞は名詞(先行詞)の後ろに置かれた、その名詞の付加情報のかたまりを導く目印である。名詞の説明をするかたまりだから、形容詞節と呼ばれる。これに対して、関係代名詞の「代名詞」や関係副詞の「副詞」という名称は関係詞自体の、付加された節内での働きを表す。つまり、主文にの構造に関わるのではなく、先行詞の付加情報として接合された別の文の中での位置づけを表すのである。次の2文を見て欲しい。
The sightseeing bus broke down on the way. + It (= The bus) took us to the lake.
中学時代を思い出して、上の2文を関係詞を用いて1文にしてみよう。The sightseeing bus を先行詞とすると、後ろの文の主語が先行詞と共通項だから、It(= The bus)を関係詞化する。It(= The bus)は主格の(代)名詞で物だから、which を用いることになる。つまり、関係詞とは接合される節のまとめ役となると同時に、接合された元の文でまさに代名詞や副詞として機能していた痕跡を表す道具なのである。冒頭の文での which は、the bus の代わりをする代名詞であり、took に対する主語になっているということまで認識することが、関係詞を含む文を正確に読解したり運用したりするためには不可欠である。
次の関係副詞を含む英文の読解はそれほど難しいことではない。
There are some cases where honesty does not pay. → There are some cases (where honesty does not pay).
「いくつかの場合がある。」に対して「誠実さが割りに合わない」という情報が付加されている。 cases という先行詞を後置修飾するのが where 以下の形容詞節である。
「誠実さが割りに合わない場合がある。」
しかし、この英語は There are some cases which honesty does not pay. では、どうしてだめなのだろうか?読解面では、形容詞節の範囲を正確に見抜けば、ほぼ正しい意味に至れる。しかし、表現していく面では、どうして which がだめで where が正しいのかがわからなければならない。
There are some cases. + Honesty does not pay in those cases.
もしこの2文を1文にするのに関係代名詞を用いるなら、those cases を which に置き換えて1文にすることができる。
There are some cases (which honesty does not pay in ). or There are some cases (in which honesty does not pay).
which は in に対する目的格になる関係代名詞なのである。これに対して、in those cases という副詞句を関係副詞 where に置き換えて1文にすると次のようになる。
There are some cases (where honesty does not pay).
where は、「その場合には誠実さが割りに合わない。」という日本語の、「その場合には」という部分にあたる副詞なのである。この第3の鉄則は、特に非制限的用法(継続用法)の関係詞を取り扱う場合に注目に値する。次の英文を見て欲しい。
He changed his mind, which made me very angry.
継続用法の関係詞を含む文では、第2の鉄則はあまり重要ではない。それは、付加された別の文の範囲はカンマで区切られて明確化されているからである。つまり、継続用法の関係詞を含む文は、完全に2文を1文化しているものではない。接続詞が消えて、通常の代名詞が関係代名詞にかえられて中途半端に2文のまま放置されたみたいな感じの英文である。だから、元の2文として読めばよいのである。
He changed his
mind, and it made me very angry.
上の文で and を取り消して、前文の内容を受ける it を which にかえれば、関係詞の文ができあがる。it は made に対する主格の代名詞である。
「彼が気持ちを変えた。そして、そのことが私をひどく怒らせた。」
which は、前文の内容を先行詞とする、made に対する主格の関係代名詞である。鉄則の1と3が確認できれば、継続用法の関係詞を含む英文は簡単に理解できる。