パラレリ採集記 in 南イタリア

[ポジターノ]

えいもん



毎年クリスマスと新年の間の年末は、家族でパリから旅行に出かけることにしている。2006年は、 温暖そうな場所がいいだろうと、南イタリアを行き先に選んだ。宿泊したのは、ナポリから南東へ直線距離にして50kmほど 下ったアマルフィ(Amalfi)という海沿いの小さな町(トップ画像は、その近くのポジターノ(Positano)という町)。 その辺りは、海岸沿いに石灰岩の切り立った岩壁が続き、青い地中海と組み合わせた絶景を楽しませてくれる。 もちろん食事も海の幸を中心にたっぷりと堪能できる。

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アマルフィの町の教会

同じ宿に4泊し、アマルフィを拠点にカプリ島やポンペイ遺跡など、いろいろな観光地を忙しく回った。 そのため、採集のための時間を家族からもらうことは残念ながらできなかった。 重たい斧を密かにわざわざ携えてきたというのに。

パリに帰る最終日の大晦日は、アマルフィの町を朝10時のバスで出て、ナポリ空港へ向かうことになった。 採集のチャンスはその前のわずかな時間しかない。一人で早朝に起き出して、まだ日の出前で暗い6時台に宿をそっと出た。 とにかく、林のある場所へ行かなければどうしようもない。そのためには、町の背後にある険しい崖の道を登って いかなければならない。体はきつかったが、幸いなことにこの日も好天で、日の出前後の海の眺めは素晴らしかった。

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日の出前の眺め

小さなブドウ畑で、カミキリムシの脱出口がある材を見つけた。削ってみると、欲しかったゴマフカミキリが出たのだが、 残念ながらボロボロに朽ち果てた死骸であった。それで時間を取られ、残り時間は少なくなる。9時までには宿に戻って 出発の準備をしなければならないのだ。

やがて階段状の登り道は終わり、緩やかに上下する崖沿いの小道となる。そして、わずかな規模ながら、広葉樹が密生する 林に辿り着いた。ナラの木も、細めではあるが生えているようだ。ここで勝負するしかない。

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崖の小さな林

林の中の道に入る。かなり朽ちた樹種不明の切り株が見つかったが、クワガタ幼虫のものらしき食痕は出ない。この林で採集するのは ちょっと難しいかなと期待が下がり始めたときに、おあつらえ向きとは言えないものの、程よく朽ちていそうな倒木が見つかった。

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細めのナラの朽ち木

ここが日本であればコクワガタの幼虫が入っていそうな感じだが、欧州のコクワガタと言えるパラレリピペドゥス・オオクワガタ (Dorcus paralleipipedus:通称パラレリ)には少し細すぎる気もする。とにかく削ってみると、早速クワガタ幼虫の食痕 らしきものが出る。そして、程なく黒い成虫が出た。パラレリである。幼虫でなく成虫が出てくれたのは、旅行中の身としては 幸運であった。しかし、焦り気味だったのか、斧が深く入りすぎたようで、わずかに傷つけてしまっていた。わずかと言っても、 取り返しがつくものではない。何ということだ。

何とか気を取り直して削り続ける。やがて、再び♂成虫が出てくれた。ほっと胸を撫で下ろす。先ほど傷つけてしまった個体と同様に、 パラレリとしては随分と小型で、20mmに満たない。細めの材でもあるので、きっとこんなものなのだろう。次いで、♀成虫も出た。

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首尾よく成虫が出た

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小型の♂

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そして小型の♀

実は、恥ずかしながらこの時点ではムシモンオオクワガタ(パラレリとほぼ同形で、甲に艶がある)が出る可能性もあるのではないか と思っていた(注:後で分かったことだが、ムシモンはイタリア半島には分布していない)。結局、ムシモンは出る由もなかったが、 ラッキーなことに短時間のうちにパラレリ成虫を(傷つけた個体を除いて)2♂♂3♀♀計5頭採集できた。もっと探索したかったが、 宿へ戻らなければならない時刻が迫り、帰り道を急ぐこととした。下りは上りに比べてはるかに楽で、 とりあえず採集もできたことから、気分も軽かった。

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朝日の中のアマルフィの港

さて、この南イタリア産パラレリ、通説ではないながらも、亜種の可能性があるということだ。 しかし、パリ産の個体と並べてみても、顎の内歯の角度が心もち違うかという程度で、明確な違いは認められない。 まあ、サンプル数も少ないので、追究することは止めておこう。パラレリはフランスから遠く離れた南イタリアでも 普通種らしいことが分かっただけでも、旅の収穫である。

[南イタリア産♂] [北フランス産♀]
   
南イタリア産♂(19mm) 北フランス産♂(21mm)



パラレリに関する参考ウェブサイト: Paralleli(パラレリ)


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