まぼろしのコンフキウスノコギリクワガタ
2006.10.16
KAY



画像の個体は,ネット昆虫業者から,コンフキウスノコギリクワガタProsopocoilus confucius(ミャンマー・カチン産)と称するF1二令初期幼虫を,筆者が購入・飼育して羽化させたものである。購入日は2004年4月頃で,山口きのこ製の大夢B菌床ブロックをブロー容器1.5L(径100mm×高さ200mm)に詰め替え,容器を横に寝かせて飼育した。最終交換では,蛹室作成前のいわゆる徘徊行動(あばれ)を極力抑えるために,マットを堅詰めにした。この交換時の幼虫の体重は43gで,同種としては特大であった。2005年5月に羽化,暫し後に体長をノギスで計測すると108mmであった(画像参照)。『BE-KUWA』誌にて,当時の同種の飼育ギネスサイズを確認すると,大幅に上回っていた。

ところが,本個体を良く見れば見るほど何か合点がいかない。コンフキウスノコギリクワガタの標本および生体写真を可能な限り入手して比較してみるが,基部の内歯の位置や大あごの反り具合がおかしい。一種の変異個体なのであろうか。本件に関して,『まちかね神奈川支部』でもお馴染みのP. kawadai氏,きー氏に率直な意見を求めることにする。両氏からは,『むし社』の土屋利行氏に見てもらうことを勧められる。さて,同年5月某日に,飼育ギネス登録なるかと内心ほくほくしながら同社編集部へ向かう。数多ある我が煩悩の一つである自己顕示欲がこの上なく浮上してきた瞬間でもある。編集室に入ると,軽い挨拶ののち,土屋氏に当該個体を見せる。同氏はしばし首をかしげると,営業部の飯島和彦氏を編集室に呼び,二人で検討。「ギラファとの交雑個体のように思われます。弊社ではハイブリッドのギネス認定はしておりません。」との回答を得る。また,この交雑に関しては,自然交雑・人為交雑のいずれかが考えられるという主旨のご意見を頂戴する。つまり,コンフキウスノコギリクワガタとギラファノコギリクワガタProsopocoilus giraffa giraffaはミャンマー北部では混生するので,自然交雑の可能性もゼロというわけではない。また,現地の採り子さんが出荷の際に両種を混ぜてしまった。あるいは,日本に到着後,業者さんが両種を混ぜたとする,3つの選択肢が考えられるということである。

この一件の後,コンフキウスノコギリクワガタの累代飼育には一向に触手が伸びなくなってしまった。ほんの一瞬でも大夢を見てしまうと,厳しい現実には直面できなくなると自己弁護しておこう。

 この発表に際し,日頃からお世話になっている『神奈川産クワガタムシ調査委員会』の会員諸氏に厚くお礼申し上げる。






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