1.輝くタマムシを逃す7月中旬の好天の日、スイス・アルプスの観光地グリンデルヴァルトへ車で向かう途中、道路のわきに土場(材置き場)が見えた。 そこは車の一時待避所になっていたので、すかさず車を停め、同乗している妻に断りを入れて、早速土場で虫を探してみる。
すると、別の甲虫が飛んできて、材に止まる。トラハナムグリだ。トラハナムグリはパリ近郊の平地でも見られるが、 それとは黒紋の模様が異なる別種のようである。 ![]()
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Rosalia alpina:ルリボシカミキリ | 欧州の乾いた気候に似合う水色をしている |
次に土場の傍らのセリ科の白い花を見て回ると、また色鮮やかなカッコウムシがいた。先ほどのものと比べてやや大きく、
赤と濃紺の縞模様も少し違う。どうやら別種のようだ。
ここで目にする甲虫は、なにもパリ近郊で見ることのできないものたちばかりではない。自分にとってなじみ深い
トラカミキリも、材の上に顔を出している。
その他にも、よく見ると色鮮やかな昆虫たちがじっと息をひそめている。
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濃い青が美しい蛾 | 青と赤に輝くセイボウ(青蜂) |
残念ながらその後はもうタマムシは飛んで来ず、妻をあまり待たせてもいけないので、いったんは諦めるしかなかった。
観光を続けるため、当初の目的地であるグリンデルヴァルトへと車を走らせた。
グリンデルヴァルトでアルプスの壮大な眺めを堪能した後、帰りに再び同じ道を通る。すでに16時頃であったが、
タマムシを諦めきれずに土場のところで停車。夕方近いせいか、虫の飛来状況は昼過ぎほどはよくない。
残念ながら、しばらく待ってもタマムシは姿を現さない。しかし、そうしているうちに、ふと材の陰にカミキリの影を発見。 そこは手を伸ばせるところではなかったので、材の表面に出てくるのを息を殺してじっと待つ。 そして出てきたところを一も二もなく手で捕らえる。すると、それは淡い水色が美しい上品な趣のカミキリであった。 ヤツボシカミキリの近縁種、いや学名からすればヤツボシカミキリの本家なのかもしれない。貴重な種であると直感した。 ここはスイスだが、後で調べてみると、少なくともフランスでは希少種のようである。
これに気をよくして、土場を後にしてその日の宿へ向かう。しかし、タマムシが心残りであることに変わりはない。
翌日は、別の場所でロープウェイに乗ってアルプス観光を続ける。幸いこの日も天気が良く、絶景に酔いしれることができた。
その後、さらに別のロープウェイに乗るために、昨日訪れたグリンデルヴァルトへ再び向かうことにした。
そうすると、昨日の土場をまた通ることとなる。それを意図した訳ではけっしてなかったのだが、この際妻を拝み倒して、
タマムシに再度チャレンジだ。
日差しの強い昼下がり、タマムシが飛来する条件は整っているように思えたが、簡単には来てくれない。 すると、黄色いカミキリがフワっと飛んで来た。急いで追いかける。運良く材のそばの繁みに着地してくれた。 黄色と黒が織り成す模様がたいへん美しいカミキリムシであった。
この土場には昨日以来、様々に彩られた甲虫たちが集まってきている。赤、青、水色、黄色等々。
他方、パリ近郊で見られる普通種でも、ここで見ると新鮮に思える。
あとは、タマムシを待つばかりである。
そして、そのタマムシがついに飛んで来た。もはや躊躇することなく手をかぶせる。ついに手の中に確保し、撮影することに成功した。
思えば、最初にタマムシを逃したばかりに、何度か通ったこの土場。そのお陰で、様々な昆虫たちと出会うことができた。
これらスイスの昆虫たちとの縁は、タマムシがもたらしてくれたと言えるだろう。
けっして昆虫探索目当ての旅ではなく、純然たる観光旅行であった。それでも、雄大な自然の下、道沿いのちょっとした場所でも、
きらめくような昆虫たちとの出会いがあった。どれも、眩しい陽光の中で宝石のように輝く虫たちだ。
合計して1時間半もいなかったこの小さな土場が、この夏における最も目映い思い出を自分に残してくれた。
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