ヨーロッパミヤマクワガタ採集日誌2006

[ミヤマ5♂♂]

えいもん



この夏のパリ近郊におけるヨーロッパミヤマクワガタ(Lucanus cervus)の採集は、残念ながら新たな進展に乏しかった。

まず街灯採集については、既知ポイントであるパリ郊外のO町のみに頼り、新規ポイントの開拓を 怠ってしまった。その理由の一つとして、緯度が高くまたサマータイムを採用しているパリでは、ミヤマの活動期である夏至前後には 午後11時頃まで待たないと十分に暗くならないという事情がある。夜を徹する覚悟でもない限り、異なるポイントを いくつかハシゴするという訳にはいかないのである。

樹液採集についても、この夏も念願を果たせないままに終わってしまった。パリに隣接する ブローニュの森で、樹液の出る2、3の有望そうなナラの木に焦点を絞ってみても、結局ミヤマが樹液に付くところに出会うことは なかった。欧州のウェブサイト上ではミヤマの画像をよく見かけるが、その中で樹液に付くミヤマの画像を 見たことがないので、ミヤマが樹液に集まるという光景は、日本と違い当地では必ずしも一般的に見られるものでは ないのかもしれない。

しかし、夜のルッキング採集においては、成果がない訳ではなかった。♀成虫を産卵活動の前後に狙う方法を、 ヒントなりとも掴めたような気がするのである。♀成虫を探すには、樹液の出ている木よりも、むしろ立枯れや 朽ちた切り株を丹念に見回る方が効果的であるというのが、この夏の新たな発見である。

以下、この夏の記録をまとめてみる。


6月9日

海外出張から帰ってくると、パリには夏の陽気が訪れていた。昼休みに職場の近くのブローニュの森を散策すると、 鳥に喰われたのであろうミヤマ♂の残骸を見つけ、ミヤマが既に活動期に入ったことを知った。そこで、街灯採集にご子息を 連れて行く約束をしていた友人I氏に連絡し、今シーズン初のO町での街灯ポイント廻りを試みた。月齢は満月に近く街灯採集には 不利な状況にあったが、フランスでは月がそう高く上る訳ではないので、影響は限られているようだった。早速、街中の不動産店の 白い壁に貼り付くミヤマ♂を発見。さらに、住宅街のとある壁に付くもう1頭の♂を見つけた。友人との約束を果たせてほっとする。

[不動産店全景]

O町の不動産店のポイント

[白い壁] [ミヤマ♂1]
   
早速、店の白い壁にミヤマが見つかる 網で採ると、52mmほどの♂

[ミヤマ♂2]

埃を被っている小型の♂



6月10日

幸先良いスタートが切れたので、O町へ連夜の出撃。自宅から車で25分ほどで着くポイントであり、特に苦労はない。この夜も、 不動産店の周り、住宅街の壁で計4頭の♂を採集(うち3頭リリース)。さらに、街中の公園内にある記念館の壁の高い所に 止まっているミヤマ♂を発見。大きい個体に見えたので5mの長網を伸ばして採集。測ってみると、期待していたほどではなく 55mmであった。それにしても、真夜中に街中で長網を振るう姿を他人から不審がられていなければよいのだが。

[ミヤマ♂3] [住宅街のポイント]
   
車道に出たら危ないよ 住宅街の中のベスト・ポイント
   
[ミヤマ♂4] [ミヤマ♂5]
   
その壁に貼り付く小型の♂ さらに小さな♂が飛んできた

[ミヤマ♂6]

住宅街の壁の隙間にいた♂

[記念館の壁]

公園内の記念館の壁にポツンと黒い点

[網とミヤマ] [ミヤマ♂7]
   
長網を伸ばして御用 立派そうに見えても55mm


6月16日

気温の高い有望そうな夜だったので、O町に出撃するも、ボーズ。どういう条件でミヤマは飛ぶのだろうか。 街灯採集もけっして易しくないものだと思う。なお、O町で夜回りすると路上でネコによく出会うが、ミヤマ採集のライバルは ネコたちなのかもしれない。

[ネコ1]

街灯下を歩き回るネコ


6月23日

海外出張から帰ってきた夜、疲れているにもかかわらず、O町へ。首尾よく4♂に出会った。最大個体は54mmどまり。 他の小さい個体は皆リリースした。

[ミヤマ♂8] [ミヤマ♂9]
   
不動産店の前の歩道 同じ場所にもう1頭
   
[ミヤマ♂10] [ミヤマ♂11]
   
時間をおいてさらにもう1頭飛来 記念館の脇の小さな♂


6月24日

日本のA氏からの依頼があり、ミヤマを採集して日本へ送るために再びO町に出撃。住宅街で2♂を拾う。今シーズンは ここまで何と13頭連続して♂ばかりである。ミヤマは日本でも♂の方が♀より早い時期から街灯に集まる傾向にあるが、 それにしても極端ではないか。そう思っていると、車道の上を歩いている♀を遂に発見。なお、この夜採った♂の一方は56mm。 56mmを採集したのはこれで3度目で、小さいながらも当地でのこれまでの自己最高記録。何故か56mmの壁を破れないでいる。

[ミヤマ♂12] [ミヤマ♂13]
   
不動産店前 住宅街の街灯下

[ミヤマ♀1]

今季初の♀


6月27日

当地訪問中のマサやん氏よりメールで接触があり、初めてお会いする方であったが、ご要望によりミヤマ街灯採集にお連れすること になった。今シーズンはミヤマが既に結構飛んでいたので、そろそろ難しい頃かと危惧したところ、まさにその通り。街灯下のミヤマの 影は早くも薄い感じだった。それでも、不動産店の前で♀を拾う。♂ではなく残念だったが、ボーズよりは全然ましであろう。 後日談になるが、マサやん氏はその♀から50頭近い幼虫を得たそうであり、♀の採集がかえって良い結果を 導いたようだ。なお、その夜はワールドカップ決勝トーナメントでフランスがスペインを破り、パリは深夜まで気勢を上げる 人々で騒がしく、マサやん氏をホテルにお送りするのが一苦労であった。

[ミヤマ♀2] [シャンゼリゼ通り]
   
撮るところを撮る 勝利に酔って練り歩く人々


7月6日

気温が高く良い夜かと思ったが、ボーズ。早くもミヤマのシーズンは終わりかけているのか。しかし、路上にミヤマの死骸すら 見つからないのは、やはりネコがミヤマを拾っているからだろうか。

[ネコ2]

ライバルのネコは街灯下で目を光らせる


7月10日

パリ在住の日本人O氏から接触があり、O町のポイントにお連れする。めずらしいことに街灯下でパラレリを見つけたが、 ミヤマについては残念ながらボーズ。このままでは帰れないので、パリに戻ると深夜にかかわらずそのままブローニュの森へ。 すると、ナラの立枯れの根元を潜ろうとするミヤマ♀を運良く採集できた。あきらめが悪いというのも、たまには良い結果を もたらすものである。

[立枯れの根元のミヤマ♀] [ミヤマ♀3]
   
立枯れの根元を潜り込んでいた♀ 正真正銘パリ産である


7月21日

O町に出撃。さすがにもう難しい頃かと覚悟していたが、パラレリを見ただけにとどまり、案の定ボーズ。手ぶらで帰るのも悔しいので、 パリに戻ってブローニュの森へ。樹液ポイントのそばの切り株には時折ミヤマの鞘翅が落ちているので、その切り株も狙い目の ポイントではないかと以前より思っていたのだが、この夜その切り株の上を歩くミヤマ♀に遭遇。切り株とはいえ、樹上を歩くミヤマの 姿を見たのは当地では初めてのことであった。その♀は手に持ってみると非常に軽く感じたので、おそらく切り株の根元で 産卵した後に上に出てきたところだったのだろう。

[パラレリ♂] [ミヤマ♀4]
   
O町ではオオクワ(25mm)しか見つからない 樹上を歩くミヤマを見たのは初めて


結局、この夏は13♂♂4♀♀という結果であった。6月は海外出張が2度もあったので、成果としてはこんなものであろう。 なお、O町の街灯ポイントでは、7月に入るとミヤマを思うように見ることができなかった。今年は季節の進行が早く気温の高い 6月だったので、ミヤマの最盛期は6月中に終わってしまったのかもしれない。

それにしても、パリ近郊で見られるミヤマ♂のサイズは最大でも中クラスの域を出ない。やはりフランスでは南へ下らなければ 大型個体に巡り会うことは難しいのだろう。

最後に、O町のポイントにおけるミヤマ採集は、赴任前に子連れ狸氏から頂いたご示唆の賜物であり、改めて氏に感謝申し上げたい。



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えいもん:eimon HP



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