パラレリこぼれ話

[パラレリ×4]

えいもん



再びパリからお届けする、ドルクス・パラレリピペドゥス(Dorcus parallelipipedus 俗称「パラレリ」)の話題です。 長い話ではありませんから、「またパラレリかぁ」なんて思わずに、どうぞお付き合いください。

(その1 パラレリの交尾)

パラレリは、オオクワガタが属するDorcus属の基準種だそうです。ちっちゃなクワガタのくせに、何だか、結構エライんですね。 でも、「基準種」ということが何を意味するのか、わたしにもよく分かっていないので、とりあえず「ふ〜ん、そうなんだ」と うなずきながら、先へ進みましょう。

パラレリは、日本語では、「ヨーロッパオオクワガタ」とか「パラレリピペドゥスオオクワガタ」とか、体のサイズに似合わず 立派な名前(和名といいます)が付いていたりします。それならばオオクワガタくらい貴重だったり採集が難しい種なのかというと、 どうやらフランスでは日本のコクワガタ並みに繁殖しているありふれた種のようで、どうも名前負けしている感じが否めません。

このように、わたしはパラレリを少しバカにしていたのですが、辛抱強いパラレリ君も、そんなわたしにさすがに一言言いたく なったようです。

ある夜、いつものように「ミヤマはいないかなぁ。パラレリはもういいから」などと呟きながら、樹液が出ているポイントに 近づいていくと、そこにはやっぱりパラレリしかいませんでした。樹液のそばにいる♀と、少し離れたところにポツンといる♂です。 それを懐中電灯で確認し、「しょうがないなぁ。まあ元気で暮らしていなさいね」と言い放って立ち去ろうとしたのですが、 そのとき、♂がするすると♀の方へ近づいていくのに気が付きました。普段なら、ライトから逃げるように遠ざかるはずなのに、 何だか変だなと思って様子を見ていると、何と、懐中電灯をスポットライトのごとくに浴びながら、これ見よがしに交尾を始めたのです。 しかも、それは、オオクワガタを彷彿とさせる、鮮やかなV字型の交尾なのでした。

「ほら、よく見てよ。ボクたちもちゃんとオオクワガタなんだからね。エライんだからね」という、強烈なメッセージだったの かもしれません。

[パラレリ♂♀1]

パレレリ♂が♀に近づいて…

 

[パラレリ♂♀2]

おやおや、交尾を始めてしまいました

 

[パラレリ♂♀3]

オオクワガタと同様の、V字交尾です

でも、単に脚が短いだけなんじゃないの?
 

(その2 パラレリの飛翔)

パラレリは、夜行性もオオクワガタ並みに強いのか、曇りの日も含めて、日中に活動しているところを今まで見たことがありません。 それでも、森の中の歩道でときどき轢死体を見かけるので、きっと夜の間は結構地面の上を歩き回っていたりするのでしょう。

歩くことはあっても、飛ぶことは、めったにないような気がします。そもそも、パラレリを灯下で見かけたことがありません。 棲み家にしている木と発生・産卵場所との間の交通手段は、もしかしたら専ら徒歩だったりするのかもしれません。なんだか貧乏臭い クワガタだなぁ、なんて思ってしまいます。

ところが、パラレリ君(♀だから、さん、かな)は、そんなわたしに黙っていられなかったようです。

別のある夜、いつものように「ミヤマはいないかなぁ。パラレリはもういいから」などと呟きながら、ポイントに近づいていくと、 そこにはオオカミキリ(Cerambyx cerdo)と、いつものようにパラレリしかいませんでした。「しょうがないなぁ。パラレリはどうでも、 オオカミキリの画像でも撮っておこう」とカメラに手をかけると、ふと「ブーン」という小さな羽音がするのに気が付きました。 「コガネムシか何かかなぁ。ハチではなさそうだなぁ」と思いながら、飛んでいる虫を片手で掴まえようとすると、 うまくいかずに空振り。飛んでいた虫は、木の幹の上に上手に着地しました。よく見ると、びっくり。パラレリの♀だったのです。 遠くから飛んできた様子ではなく、人間の気配を察して幹から転げ落ち、地面に落ちる前に拍子で飛び上がった、そんな感じでした。

いえいえ、もしかしたら、「ちょっとちょっと、今のよく見てくれた? ワタシたちもちゃんと飛ぶんだからね」と、 しっかりアピールしようとしたのかもしれません。

[パラレリ♀飛翔直後]

飛んだ直後の♀。わずかに羽が閉じ切っておらず、赤い腹部が覗いています

またまた別の夜、ミヤマを拾ったことがある街灯の下で、「ミヤマはいないかなぁ」(ちょっとしつこい)と探していると、 絶対にミヤマと見間違えることのないサイズの♀のクワガタが落ちているのを見つけました。ミヤマではないとすると、答えは一つ。 パラレリの♀です。これまた、びっくり。街灯の下でパラレリを見つけたのは、これが初めてで、今までこれっきりです。 街のど真ん中近くなので、徒歩でやって来たとは、さすがに思えません。

「ほら、ご覧なさい。ワタシたちだって、飛ぼうと思えばこうやって遠くまで飛べるのよ」と、またまたたしなめられて しまったようです。

[歩道上のパラレリ♀]

歩道の上に落ちていたパラレリ♀

それにしても、パラレリは沢山いるはずなのに、灯火に引き付けられる確率は、コクワガタと比べると非常に低いようです。 たぶん、そもそも、「飛ぶ」こと自体があまり多くないからなのでしょう。

最後に、パラレリへのお詫びとお願い。

パラレリの紳士淑女の皆さん、「ありふれている」とか「貧乏臭い」とか言って、ごめんなさい。貴方たちがいるからこそ、 せっかくの採集がボーズとならずにすんで助かったことが、これまで何度あったことか。これからも仲良く付き合っていって くださいね。

パラレリをめぐる小さな話題でした。


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