アメリカ虫事情
− PART II −

by 虫キチコージ

さてはて、前回に続いて今回は、アメリカでの昆虫採集について解説しよう。
と、その前にある奇怪なカミキリムシの話を聞いたので、ここに紹介しておこう。前回紹介したゴミムシダマシそっくりな黒いカミキリムシが南西部に生息している。当然、このカミキリムシはゴミムシダマシを擬態しているといわれているが、面白いのはその幼生時代にある。卵はサボテンの根元の砂地に産まれ、孵化した幼虫は自力でサボテンまで這ってたどり着く。その後幼虫はサボテンの内側の葉肉を食べて育つというもの。まぁ、ガセネタである可能性もあるが、こんなカミキリムシがいても面白い思う。

アメリカでの採集

アメリカでの採集は、ちょっとメンドウなところがある。まず最初に気をつけなければならないのは、「Park(公園)」とつく敷地は多くの場合採集禁止となっていること。ParkといってもNational Park(ナショナル・パーク:国立公園)、State Park(ステート・パーク:州立公園)、County Park(カウンティ・パーク:郡立公園?)など色々なレベルがある。そして、州や郡によってその規則が変わってくるのだ。例えば、ある州ではCounty Parkでの採集はOKだが、カリフォルニア州は駄目とか、その都度確認しなければならない手間がかかる。こういった採集禁止の場所で採集していると、レンジャーがやってきて注意を受けることとなるので気をつけよう(経験者(笑))。
一方、National Forest(ナショナル・フォレスト)という国有林もあり、オレゴン州では、勝手に入って採りたい放題であったが、カリフォルニア州ではパスを購入する必要があり、このパスがなければ、国有林での駐車も許されないことになっている。ちなみに国有林は自分にとって、いつも好採集地となっている。

カリフォルニア南部で発行されているナショナルフォレストのパス。
採集で気をつけなければならないのはPrivate Property(プラベート・プロパティ:私有地)である。個人の土地、もしくは企業の土地で、企業の土地の場合、勝手に入って採集をしていると、警察に連れて行かれる場合がある。もし間違えて入ってしまったりして見つかった時は、とにかく謝ってすぐに立ち去るのが無難。アメリカ人は感情を表に出す人が多いので、怒鳴りながらくることが多い。
私有地の場合は更に気をつけなければならない。まず、田舎に行くとライフルを持っている家庭があり、泥棒と間違われ、撃たれる事がある。もし、私有地敷地内で良さそうな採集場所があれば、地主に話してみるのも手。この場合、日本でもそうだが、あたりはずれがあるのでリスクが伴う。快く承諾してくれる人もいれば、いやな顔をされるときもある。また、土地を買い上げに来た不動産屋と間違われ、いきなり罵声をあびたり、居留守を使われたりする。もっともいやな思いをするのは、やはり人種差別をする人に出会った時などである。いやな思いで済めば良いが、怖い思いすることもあるので気をつける必要がある。
これらPrivate Propertyは、必ずと言って良いほど柵が張られていて、「No Trespassing(ノー・トレスパッシング:立入禁止)」のサインがあちこちあるので、一目瞭然である。これらの場所での採集は、とにかく避けよう。また、Private Propertyでなくても、住宅地の近くの森など、土地の所有者が明らかでない場合も気をつけておいたほうがいい。アメリカではNeighborhood Watch(ネイバーフッド・ウォッチ)という、地域の住民が、怪しい人物を見かけたとき警察に通報するというシステムが時折あり、多くの場合は住民に先に声をかけられるが、稀にいきなり警察に通報される事がある。よって、住宅地近辺での採集は、その地域の様子を見てから判断する必要がある。

「No Trespassing」は立ち入り禁止という意味。
さて、ようやく見つけた無難な採集地で網などを振っていると、時折ハイキングなどしている人たちに出会う。人によっては、何をしているのか興味を持って色々と聞いてくることがある。中にはやはり「逃がしてあげるんでしょ?」とか、「放っておいてあげなさい」など余計なおせっかいをやいてくる人もいるので、それぞれ適当に対応することとなる。自分の場合、多くの人が単純に興味をもって聞いてくることが多かったので、あまり警戒する必要はないと思う。


西海岸に多いバッタの一種。色々と種類がいて、
後羽の模様が黄、オレンジ、緑などある。
ギチギチと大きな音を出して飛び、目立つので
蝶を採集しているときは良く間違えて紛らわしい。

図鑑・資料について

アメリカの昆虫採集で最も苦労するのが、おそらく種の同定であろう。この原因は主に二つある。
@人によって種が細分化される。マニアックな方が交尾器のちょっとの違いを見つけて違う種にしてしまう。(特にアメリカに特定されたことでもないが)
A図鑑がない!あったとしてもとても専門的で高価な本か、あまりにも簡単すぎて役に立たない本ばかり。これでは次世代の昆虫少年は育ちません。
@については、混乱を生じさせているだけで、Aについては、甲虫の場合、本当に困ることが多い。ある意味、これらの情報が皆無に近いので、今ひとつ採集に気合が入らない。例えば今まで自分が採集した甲虫たちを見てみると、


肩に赤い点があるおしゃれなハムシ(サンディエゴ)
毒ビンなく、写真だけ・・・


トウワタにいた大きなハムシ(サンディエゴ)
多分写真は卵を産んでいるところ?
英名:Blue Milkweed Beetle
学名:Chrysochus cobaltinus
和名は学名からしてコバルトルリハムシ?


おぉ!アカガネサルハムシ!・・・みたいな不明ハムシ(インディアナ州)
なんか写真と標本の色が違う・・・

ちなみにこれが日本のアカガネサルハムシ。
やっぱ違う・・・


逆立ちして威嚇中の不明ゴミムシダマシ(サンディエゴ)
あまりいじめると、なんともいえない臭い液を発射する。
毒ビンに入れたものの、しばらく臭くて取り出せなかった (T-T)


何これ?ツチハンミョウ・・・の仲間・・・かな?
毒を持ってそうで、採集せず。(サンディエゴ)


お?ハナカミキリ・・・だけど種類が分からない。
飛んで逃げられ、採集できず・・・(インディアナ州)


これは知っている!日本のマメコガネです。
マメの大害虫で英名はジャパニーズ・ビートル。
日本から帰化したコガネムシで、俗称「ジャップ」(^^;。
きれいと言えばきれいなんだけどなぁ・・・(インディアナ州)


夜、家の明かりに飛んできたコガネムシ。
すごく普通種っぽいけど、不明。
多分May Beetleと呼ばれているやつと思うんだけど確認できず。
(サンディエゴ)


ハナノミの一種。
ハナノミは標本にするのがメンドウ・・・
(サンディエゴ)

こんな調子なので、採集に熱がいまいち入らないわけです・・・。採集した虫たちが、どんな虫で分布がどうなっているなど情報があれば、そこからまた色々なことに興味を持ち発展していくわけだが、分からないと「はい、おしまい」という感じで終わってしまう。しかも、調べようとしても、普通はどこから手をつけるべきなのかも分からないので、たちが悪い。
さて、本腰を入れて同定を目指す人は、近くに自然史博物館があれば、そこに問い合わせてみることをお勧めする。展示はしていないが意外と裏に昆虫標本を大量に保管している場合がある。以前ハワイクワガタの記事で紹介したようにハワイのビショップ博物館も大きな標本室があった。時折アポが必要となる場合や、特定の曜日にしか標本室を開放していない場合があるが、とにかく行って話をしてみるといい。たとえそこで求めている情報が入らなくても、他の場所や人を紹介してくれる場合がある。標本を見せてもらってそこで同定することも可能だ。サンディエゴ自然史博物館も、ゴミムシダマシの生体展示があり、裏には標本室もある(右写真)。サンディエゴ自然史博物館の様子については、ぷてろんワールド(右下「番外編」から)でも紹介しているので、興味がある方は参照されたい。実はロスアンゼルスの標本室にも入ったことがある。いずれの博物館も親切・丁寧に対応してくれた。
あと、試したことは無いが、大学の昆虫学部の教授などもコンタクトすれば、色々と教えてもらえるはずである。彼らも数少ない虫屋に会えれば喜ぶはずである。

危険動物・植物

ここでは、採集するにあたって気をつけなければならない、危険動物・植物を紹介しよう。サンディエゴを中心とした情報で、ほかの地域の危険動物については触れていない。たとえばアリゲーターとかワニガメとか・・・(^^;。ホントは自分で本でも書いてみようかな?なんて思って集めていた情報である。
ガラガラヘビ
サンディエゴの公園などで
よく見られる警告サイン

南カリフォルニアはガラガラヘビの生息地であり、その中に人間が生活しているといっても過言ではない。当たり前のことなのだが、蛇を発見したとき、蛇に近づかなければ噛まれる事はない。多くの事故は、蛇を捕まえようとしたり、近くで見ようとしたときに、噛みつかれるケースがほとんどである。

ガラガラヘビは夏の間日中は日陰などの涼しい場所に隠れているので、モグラの穴や枯草の中など、日陰や見えない場所に手をむやみに突っ込んだりするのは危険なのでやめよう。また、夕方涼しくなってから動き出すので、暗くなってから歩く時は特に注意が必要である。蛇を発見したときは、邪魔せず放っておく。大抵の場合、蛇は逃げたいわけであり、こちらがヘビを追いつめない限り、すすんで噛みついてくることはない。

ガラガラヘビは威嚇する時、尾の先の発音器を動かし独特の「ガラガラ」という音を出す事で有名だが(時にはシャーとしか聞こえない)、老いたものや、怪我したものなどは、この発音器が無くなって音が出ない個体がいる。よって、音が出ないからといって油断してはいけない。また、ヘビを踏んでしまったりした時は、ヘビも威嚇する間が無く噛み付いてくるので、音がしないから大丈夫と言う事ではないので注意しよう。

採集に出かける時は、長ズボンとしっかりした靴等を履いていくのが好ましい。ジーパンなどしっかりしたズボンであれば、万が一ヘビに噛みつかれたとしても、牙が皮膚に届かない事がある。何れにせよ、暑いから短パンというのは、どこの国でもあまりよろしくないのである。

ヘビはネズミなどを捕食する、生態系にとって必要な存在であるから、むやみに殺したりするのも考えものである。見つけたら、放っておくべきであるが、住宅地など人に危害が与えられる可能性がある場所で見つけたときは、その近所の人間などに通報するのが良いと思われる。この場合、ガラガラヘビはまず処理されてしまうのが残念なところではあるが・・・

南カリフォルニアで見つかる毒蛇はガラガラヘビの仲間で、現在6種類が確認されている。和名は勝手に命名しているので、ご注意を。
1.パシフィックガラガラヘビSouthern Pacific Rattlesnake (Crotalus viridis helleri): 海岸沿いとサンタ・カタリナ島に生息。
2.セイブダイヤガラガラヘビWestern Diamondback Rattlesnake (Crotalus atrox): サンディエゴ郡東部、リバーサイド郡、サン・ベルナルディノ郡、インペリアル郡に生息。
3.アカダイヤガラガラヘビRed Diamond Rattlesnake (Crotalus ruber): メキシコが主産地で、サンディエゴ郡の海岸沿い及びメサ地区に生息。
4.マダラガラガラヘビSpeckled Rattlesnake (Crotalus mitchellii): 山地と南東の砂漠に生息。
5.サイドワインダーSidewinder (Crotalus cerastes): 砂漠に生息。
6.モハビガラガラヘビMojave Rattlesnake (Crotalus scutulatus): モハビ砂漠のみに生息。
【噛まれた時は・・・】
ガラガラヘビに噛まれたときの症状は、ヘビのサイズや噛まれた場所、毒の量などによって違う。モハビガラガラヘビ以外はほぼ同じ毒で、噛まれた箇所の損傷、血液凝固に問題が起きる。モハビガラガラヘビの毒は神経に作用するといわれているので、よりタチが悪い。約20%ほどの確率でヘビは噛み付いたときに毒を出さないことが知られており、これを「Dry bite(ドライ・バイト)」と呼ぶ。

主な症状は
・ 噛まれた後がつく。(あたりまえ?)
・ 痛み、腫れ、噛まれた周囲が白くなる。
・ 口の中で金属やゴムのような味がする。またはヒリヒリ・チクチクする。
・ 吐き気・嘔吐。
・ 脱力感、目まい。
・ 発汗、悪寒

【手当て】

ガラガラヘビに噛まれて死亡する例は非常にまれで、病院などで処置をしてもらえれば大抵助かるので、焦る事はない。最も重要なのは血清(Antivenin:アンチベニン)処置を病院でしてもらうことである。蛇に噛まれた場合は、大至急病院へ行くことが最も重要である。あまり効果の無い応急処置をするよりも、出来るだけ早く病院に行くことが最も重要とされている。噛まれた場から車などまで長距離を移動しなければならないときは、出来るだけゆっくり動いて移動する。

【してはいけない事】
・ パニック。手を噛まれた時は、指などが腫れ始める前に指輪などの装飾品をはずす。
・ 噛まれた箇所を氷などで冷やしてはいけない。
・ 布キレなどで血を止めない。
・ 西部劇よろしく噛まれた箇所を切って、毒を吸い出すことはダメ。噛まれた箇所は触らず放っておくこと。
・ 患部に電気などでのショックを与えると治るなどの迷信があるが、これはしない。
・ 種類同定の為にヘビを捕まえる必要はない。種類を特定できなくても病院で処置は出来る。ヘビを捕まえるために再度噛まれたり、無駄な時間を費やす事の方が危険なのである。

家の近くで発見したガラガラヘビ。
普段から子供には上に説明した通り、「手を出してはいけない!」、
と教えてあったので、子供らの前で引きずり出して撮影できず(^^;
マダニ(ライム病)
マダニは体長5mmほどもある、大きなダニである。これに噛まれると、ライム病という厄介な病気にかかることがあり要注意である。ちょっとマニアックな話になるが、概要は以下の通りである。
【ライム病とは?】
ライム病、あるいはライムボレリア症はIxodes属マダニを媒介節足動物とするスピローヘータの一種Borrelia burgdorferi感染に起因する細菌感染症。細菌は何年も体内にとどまることがある。

− ちょっとわき道:ライム病の歴史 −
20世紀初頭、北欧でマダニ刺咬につづいて奇妙な紅斑を生じた症例が報告され、その後もヨーロッパを中心として多くの症例が発生、マダニ媒介性の細菌感染症である可能性が示唆されていたが、その病因は全く不明であった。米国におけるライム病は1975年にコネチカット州オールド・ライム地区で子供のリウマチ様関節炎が多発したことが発端。1982年についに、米国で病原体であるボレリアがマダニより、さらには患者より分離された。
ライム病は現在報告されているだけで、ヨーロッパ、南アフリカ、北米、オーストラア、中国、及び日本で存在が知られ、特にヨーロッパ、北米では年間数万人の患者が発生し、「もしエイズがなければ、これは現在我々が面している新しい疾病のNo.1であろう」と言われるほどの社会問題となっている。日本では1986年に最初のライム病の症例が長野県より報告され、それ以後北海道、長野を中心に約80例の報告がある。
カリフォルニア州で確認されている48種類のダニの内、ライム病を媒介するのはThe Western Black-legged Tick (Ixodes pacificus)一種のみとされている。体長は成虫で3〜5mmほどであろうか。血を吸うと腹部が大きく膨らむ。主なホストは野ねずみで、トカゲ、鳥、鹿、犬などにも寄生する。成虫は比較的湿度の高い10月から6月にかけて見られる。メスは赤茶色で黒い脚をもち、オスは全体的に黒褐色をしている。ダニは飛んだり、はねたり、落下する事は無く、獣道などに生えている葉の先に止まり、動物が触れたときに乗り移る、「ひたすら待ち続ける」型のとても辛抱強い生き物なのである。カリフォルニア州では58郡の内55郡で生息が確認されており、湿度の高い海岸沿いやシエラ・ネバダの西側に多く見られる。

【症状】
色々な症状を引き起こし、中々厄介な症状である。

主な症状は:
・倦怠感(Fatigue)
・発熱と悪寒(Fever and chills)
・頭痛(Headache)
・関節痛(Muscle and joint pain)
・リンパ腺の腫脹(Swollen Lymph Nodes)
・遊走性紅斑(Erythema migraines)皮膚が赤くなり、その後徐々に中心が白くなり、赤いリング状になる。60〜80%の患者に発生する。咬着された場所とは限らない。
などがある。具体的には、以下のようなステップを踏む。
・第1期 マダニ咬着より 3〜32日後に遊走性紅斑、リンパ節の腫張やインフルエンザ様の症状を呈す。
・第2期 感染より数日〜数週間後に生ずる二次性遊走性紅斑、耳たぶに形成されるボレリアリンパ球腫、さらには髄膜炎、多発性神経炎等の神経症状、不整脈等の循環器症状、関節痛、関節の腫張等の関節炎症状を呈す。
・第3期 1〜数年後に慢性萎縮性肢端皮膚炎、慢性関節炎、慢性髄膜炎、脳炎、角膜炎を生ず。

【治療】
治療には感染初期では、経口抗生物質としてドキシサイクリン、テトラサイクリン、アモキシシリンが、幼児にはペニシリン、エリスロマイシンが用いられる。この治療により紅斑は数か月以内に消失するが、その他の頭痛、筋肉痛等の症状の回復にはやや時間を必要とする。また、感染後期ではセフトリアキソン等の静脈内投与、並びに対症療法が行なわれる。

【手当て】
万が一、マダニの吸着に気が付いた場合は、つぶさすにピンセットなどで取り去る。取り去ったマダニは出来ればプラスチックの容器などに保存し後の同定に備える。万が一、咬着部位の紅斑や、リンパ節の腫張、発熱、倦怠感を認めたときは直ちに皮膚科を受診し、抗生物質の投与を受ける。このとき保存したマダニを持参することをお勧めする。マダニの種の同定はライム病感染の可能性を判断するための重要な証拠となるためだ。とにかく早くマダニを取ることが、感染しないコツ。ライム病に感染するのはマダニに咬着されてから24〜72時間後とされている。そのほか対処するときの注意点としては:

・ 指を使わなければならないときは、ティッシュなどで指を保護する。マダニがつぶれると体液が出てそこからライム病が感染することがある。
・ 出来るだけマダニの頭部の皮膚に近いところをつまむ。
・ ゆっくり、まっすぐマダニを引き出す。ひねったりするのは禁物。
・ マダニの牙などが皮膚に食い込んだまま、取れてしまった場合は、医師に相談すべし。
・ 手と噛まれた場所を石鹸などでよく洗い、噛まれた場所を消毒する。

【対策】
・ ズボンの裾を靴下の中に入れたり、シャツをズボンの中にいれ、侵入を防ぐ。
・ マダニがついたとき発見しやすい、明るい色の服を着る。
・ マダニに効くと記載されている虫除けスプレーなどを利用。
・ 出来るだけ草むらの中を歩いたりしない。
・ 頻繁にマダニがついていないかチェックする。
【ライム病にかかったかなと思ったときは】
とにかく早期の処置をすることが大切である。現在のところ、殆どのケースは抗生物質の投与で治るが、放っておくと、そうもいかなくなる。心当たりがあり、相談したい場合は以下(当然英語のみだが)に連絡してみるといい。

California Department of Health Services(CDHS)
Vector-Borne Disease Section
601 North 7th Street, MS 486
P.O. Box 942732
Sacramento, CA 94234-7320
(916) 324-3738

毒クモ

クモはどの種類も毒をもっているが、カリフォルニア州では2種が人に害を与えるとされている。

<セアカゴケグモ>
日本でも一時発見されニュースなどでご覧になった方も多いと思う。セアカゴケグモ(Black Widow)は静かな場所を選んで網を張っている、比較的おとなしいクモである。サンディエゴ群とインペリアル群で毎年50〜75件の被害報告がある。噛まれて危険なのは子供や高血圧や心臓疾患をもつ老人である。噛まれた場所を石鹸で洗うほか有効な応急処置は現在のところないが、噛まれた人全てが緊急処置を必要とするわけではない。クモは噛み付いても毒を出さない場合もあるので慌てずに。セアカゴケグモに噛まれた場合、以下に連絡を取り処置が必要かを確認する。

California Poison Control System - San Diego UCSD Medical Center
200 West Arbor Drive
San Diego, CA 92103-8925
緊急 Emergency Number: 1-800-876-4766(携帯電話に登録しておくと便利?)

<カッショクイトグモ>

カッショクイトグモ(Brown SpiderまたはThe Brown Recluse Spider (Loxosceles reclusa))は現在のところカリフォルニア州で発見はされていない。その近縁種であるサバクイトグモ(Loxosceles deserta)は南カリフォルニアに生息しているが、サンディエゴ郡では報告例がない。これは、この種がソノラ砂漠やモハビ砂漠に分布が限られているからである。夜行性で非常に臆病なクモなので、人間などが来ると隠れてしまうのが殆どだが、稀に長い間使われていない倉庫などを住処とする場合がある。また南米原産のオオドクイトグモが1969年ごろからロスアンゼルスで発見されている。現在のところSierra Madre、Alhambra、El Monte、San Gabriel、Monterey Park、Highland Parkなどで生息していることが確認されている。

【症状】
ドクイトグモ類に噛まれた場合、いろいろな症状が発生する。ドクイトグモにかまれても痛みは感じず、噛まれた事も分からない場合が多い。噛まれてから8時間の間に患部が痛みだし、痣のような輪が出来る。殆どの場合、症状はこれで終わり回復するが、まれに水泡・潰瘍などが出来、吐き気や倦怠感が続き、しばらく治らないことがある。ひどい場合は潰瘍が4cmほどにもなり、発熱を伴う。この場合、手術が必要となる場合がある。
【対策】
とにかく、知らないクモなどはうかつに触らないことである。また、マダニ同様、採集のとき服装には気をつけるべき。

南カリフォルニアには日本のスズメバチの様に毒の強いハチはいない。最近注目されているのはアフリカミツバチ(Africanized Honeybees)で、見た目は普通のセイヨウミツバチと同じなのだが、非常に攻撃的なミツバチで危険とされている。1匹のアフリカミツバチは、セイヨウミツバチ同様危険と言うことではないが、大群で襲ってくる習性があり、下手をすると命取りとなるので馬鹿にしてはいけない。

5〜6cmもある綺麗なベッコウバチの一種。
網をかぶせたら、なんと下にもぐっていってしまった。
大きいだけに刺されたらいたそ〜(サンディエゴ)
アメリカ人の多くは裸足で歩いていて刺されている。また、蜂が缶ジュースなどの中に入り、それを飲もうとした時に、口の中などを刺される例も多くあるので、キャンプなどで缶ジュースを飲むとき、念のため注意しておいたほうが良い。服の色も多少影響するといわれており、青い服は被害が多いとされている。巣の近くで騒いだり、近づいたりした場合は当然刺されるリスクが大きくなる。

<アフリカミツバチ>
アフリカミツバチは非常に攻撃的な蜂で、一度刺されると刺された場所に他の蜂に攻撃を促す成分をつける。よって、1回さされた人はその後多数のアフリカミツバチにかなり長い距離を追いかけられる事になるのである。


【対策】
アフリカミツバチの被害を避ける方法は「注意する事」のみである。特に沢山の羽音が聞こえる巣があるような場所には近づかない事。アフリカミツバチはあまり早く飛べないので、ほとんどの人が走って逃げ切る事が出来る。あわてる必要はない。ただし、逃げる時は他の人に向かって逃げる事は、その人も危険にさらす事になるので、出来るだけ人のいないほうへ逃げるのがベスト。襲われた場合は、腕で顔を隠し、巣、または蜂が来る方向の逆の方向へ走り、車の中など安全な避難場所へ非難する。少し蜂が車に入ってしまった場合は、エアコンの温度を出来るだけ低くして車中温度を下げ、蜂の動きを鈍らせるといい。もし誰か襲われているところを発見した場合は、決して近寄らず、襲われている人を安全な場所へと誘導する事。蜂の数が多い様であれば911通報(日本の110番)する必要がある。
アレルギー体質を持たない人でも、多数の蜂にさされた人は大至急病院で処置を受ける必要があるので注意。50箇所以上さされた人は呼吸困難や意識不明になる事もあり、緊急医療(Emergency Room)を受ける事になる。

【処置】
・ 針が残っていれば、爪やクレジットカードなどで針を取る。
・ 刺された場所を石鹸と水で洗う。
・ 氷などで5〜15分刺された場所を冷す。
・ アレルギー症状を起こした場合は救急通報(911)する。
・ 刺されて腫れた場合は、刺された箇所を可能であれば心臓より高い位置にしておく。

【やってはいけない事】
・ 毒を搾り出そうとしたり、土や泥で洗ったりしない。逆にばい菌などが傷口に入ることになる。
・ ベーキングソーダなどをかけない。アメリカではこのような迷信が結構ある。


エメラルド色に輝く、ミツバチのようなハチ。
オレゴン州でも見かける。(サンディエゴ)

サソリ
南カリフォルニアに生息するサソリは、刺されると痛みを感じるが、特に危険ということではない。通常刺された場所を石鹸と水で洗い、氷などで数分冷やしておけば治まる。アレルギー反応(湿疹、腫脹、呼吸困難など)が出ない限り、救急処置は必要ない。
一方、アリゾナやメキシコには毒が強いサソリも生息しているので、これらの場所で刺された場合は前述CDHSに電話して相談するのがいいであろう。

ポイズンオーク(うるし)
 
ポイズンオーク。左写真のように樫(かし)などの木にまきついている。
右写真が葉の様子。(サンディエゴ)
ポイズンオークはカナダ西部からメキシコまで広く分布している漆(うるし)の仲間である。特徴は3つごとについている葉で、カシワなどの樫の葉に似ており、またその周囲に生えている事が多いので注意が必要だ。秋には紅葉する紛らわしい植物である。

ポイズンオークはウルシオールという成分をほぼ全ての部位(根、茎、葉、花、実)に含んでおり、人によって差があるが炎症やかゆみが発生する。50〜85%の人がポイズンオークに対してアレルギーを持つといわれ、ひどい症状が現れる。 ウルシオールは水などに溶けないため、洗っただけでは落ちず、また、長い間皮膚に付着する事が知られている。実験では、18ヶ月間放置されたポイズンオークの枯れ枝、水中に16ヶ月漬けられた枝、1年以上洗わなかった服などから、成分が検出されている。

【症状】
ポイズンオークの症状は人によってまちまちである。目、唇など敏感な場所ほど症状がひどくなり、接触部分の赤み、腫れ、水泡、かゆみなどが24〜48時間後に現れるのが普通だが、人によっては30分後、若しくは2週間後に出る人もいる。通常最初の5日間がひどく、7〜10日ほどで治まることが殆どである。ひどい場合は3週間以上かかる例もある。

水泡が出来た場合、水泡の中にウルシオールはないので、つぶれて液が出たからといって、その液から炎症が広がる事はない。むしろ爪の間などに付着しているものが厄介で、爪を良く洗わないままあちこち掻いていると、体中に広がっていくので、よく爪などは洗っておくこと。また、一度体などを良く洗って、服を着替えた人からウルシオールが他の人に移る事はない。基本的に被害を受けるのは直接ポイズンオークに触れた場合のみである。ただし、服を着替えていなかったり、まだ患部などを洗っていない人から移る例はあるので注意しよう。ポイズンオークに触れたキャンピング用具やガーデン用具から被害を受ける事や、ペットなどの動物から被害を受けるケースもあるので、ポイズンオークが自生している場所は、特に色々と注意することが必要だ。

【対策】
一番の対策はポイズンオークを知ること。子供にも出来るだけ実物を見せて(写真では、どうしても分かりにくい)、ポイズンオークに近寄らないように注意すること。アメリカでは「Leaves of three, let it be(三つの葉があるものは、そのままにしておけ)」という言葉で覚えさせているようである。
犬などのペットについても、ポイズンオークの中を走り回らないよう注意すること。服装はやはり長袖長ズボンが無難である。ポイズンオークは分布が広く、昆虫採集の場合、中々それが無い所には行けないので、よく勉強しておいたほうがよい。

【処置】
万が一触れたりしてしまった場合は、すぐに冷たい水と石鹸で洗う。水は沢山使って、温かいお湯などは使わないように注意。温水などは成分を肌に浸透させる働きがあるとされている。
・ 大量の水とアルコール液(イソプロピル)で洗うとかゆみを防ぐ事が出来るといわれている。
・ ウルシオールは肌に付着する力が強く、15分間洗っても落ちない。
・ 服を着替えて、着ていた服はビニール袋などに入れて被害の拡大を防ぐ。
・ 着ていた服は、もう一度着る前に何度か洗濯をする。
・ ポイズンオークは燃やさない。燃やした時の煙にウルシオールがふくまれ、これを吸い込むと目、気管、肺などでアレルギー症状が出る事もあり、大変危険である。山火事の時、このために命を落とした消防士の例がある。
・ 炎症部分は冷やすこと。温かくするとかゆくなる。
・ アメリカでは漂白剤が効くという迷信があるが、これは炎症をひどくするだけでなく、その他健康も害するのでやらない。
・ 市販されているヒドロコルチゾン(Hydrocortisone)や経口抗ヒスタミン剤(Oral Antihistamines)などの薬を事前に用意しておくのもいい。
症状がひどい場合は、病院へ行き、ステロイドなどの処置を行うこともあるが、程度が軽ければ近くのドラッグストアへ行き、薬をもらうことで解決される。このとき、「ジフィンヒドラミン(Diphenhydramine)」が入っている薬はこの成分が体に蓄積することもあり、避けたほうがいいとされている。
蚊(西ナイルウイルス)
サンディエゴは殆ど「砂漠」なので、蚊を見ることは滅多にないが、それでも水があるところには稀に蚊が発生して、西ナイルウイルスも報告されているので、注意が必要だ。
西ナイルウイルスは1937年ウガンダの女性から発見されたのが最初で、今ではアフリカ、西アジア、東ヨーロッパ、中近東に広がっている。アメリカには1999年の夏に東海岸で最初に発見され、徐々にその分布を広げ、2003年には西海岸に到達している。
西ナイルウイルスに感染すると、発熱や頭痛などの症状が発生し、また稀に脳炎も起こし、人格が変わったり、混乱状態に陥ったりして死にいたる場合もある。ウイルスに感染しても多くの人はなんら問題ないことが多いが、年齢が50歳以上の場合、症状がひどくなる傾向にあり注意が必要である。2004年11月現在でアメリカ国内では2,344人の感染が確認されており、うち81人が死に至っている。若いからといって大丈夫というわけでもない。西ナイルウイルスが原因と確定されたわけではないが、サンディエゴでは今年10月に5歳児が脳炎になり、同ウイルスも検出されていることから、西ナイルウイルスが原因ではないかと話題になっている。
主な人間への感染ルートは蚊とされている。ウイルスは多くの鳥類に発見されており、渡り鳥などが長距離にわたってウイルスを運び、そこから蚊を経由して犬や猫、人に感染するとされている。
【対策】
蚊に慣れている日本人であれば、蚊対策はここに書く必要もないと思うが、念のため。
・水溜りなど、蚊が発生するような場所には近づかない。
・長袖長ズボンをはく。
・虫除けスプレーを使う(昆虫採集するのに矛盾するが・・・)
マウンテン・ライオン
山火事の発生した後などに、ウサギやネズミなどの数が極端に減った場合、普段人を避けるマウンテン・ライオンが人を襲うことがある。これは、今年日本で台風の後、熊が多く出没して被害を与えたのと同じである。今年は20〜30代の大人がロスアンゼルス近郊の山で襲われており、力があるはずの男性も一人死亡している。5〜6歳児も襲われた例もあり、彼らの生息地に入る場合はそれなりの注意が必要である。通常石を投げつけたりすると逃げていくので、バッタリ会ったとしても恐れることはないが、アフリカ王国よろしくブッシュなどからいきなり襲われたら野生の力にはかなわないときがあるようである。
【対策】
複数人数で行動するか、ラジオなどをかけて音を出し、マウンテン・ライオンを「怖がらせる」ことが必要。ただし、山火事の後などで、彼らが空腹の極致にいる場合は逃げない可能性もある。山火事があった後などは虫も少ないことだし、その山には出向かないことである。
ゴミムシダマシ
今まで見たゴミムシダマシとちょっと形が違う
ゴミムシダマシ。

毒をもっているわけではないが、森などで2〜5cmほどの黒い甲虫によく出会う。触るとお尻を上げてユニークな威嚇ポーズをとるのだが、あまりいじめると最後に悪臭を放つのでご注意を・・・
こうやって見てみると、アメリカは危なくて採集しにくいように勘違いされそうだが、これら災難に見舞われる確率はひじょ〜に低いはずである。とにかく予備知識とし、万が一の時に冷静に対応できるようにしておくのがいいと思う。あと、自分もまだ実行していないことだが、採集地の周りにある病院の場所などを確認しておけば、万が一のときパニックすることがないであろう。備えあれば憂い無しである。

おわりに

いろいろと虫に関係ないことをグダグダと書いてしまった。しかも医者でもないのに医学用語を使っているので、正直言って内容に自身がなかったりして(おぃおぃ)。とにかく、アメリカ大陸の甲虫たちもなかなかバラエティに富み、面白いところがある事が分かっていただいたであろうか。しかもまだ未開発といったところが、パイオニア精神をくすぐるハズである。いつかこの資料が少ないアメリカで、甲虫類の分類・生態解明に望むチャレンジャーが出てくることを願っている。日本並みの図鑑など出来たら、さぞかしすごいだろう。こんな寄稿でも、今後アメリカに来る人たちの参考にでもしてもらえば幸いである。

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(c) Kojiro Shiraiwa 2004
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