2004 さらば東京ヒラタ

[ヒラタ2♂コクワ1♂]

えいもん




前置き

ここのところ毎年続けてきた東京でのヒラタクワガタ観察も、本年6月下旬からの海外転勤によってしばらく 途絶えることとなった。したがって、2004年の採集メモは、5月から6月中旬にかけての2ヶ月もない観察期間を基に 書かざるをえず、内容がますます乏しくなってしまうことに、まずは申し訳なく思う。いずれにしても、これが自分として、 当面の間の最後の東京ヒラタ観察記録となる。昨年同様、樹液採集にまつわるトピックスのみ紹介させていただく。

最早個体

昨年の繰り返しになるが、「もはや」と読むのではなく、最も早い時期における樹液でのヒラタの観察記録のことである。 今年は、昨年の5月7日という記録を一週間ほど更新し、4月30日であった。これは、実はヒラタ♂がヤナギの浅い洞の中に 潜んでいたところを見つけたものであり、樹液での観察記録とは言い難いのであるが、ヒラタ成虫の野外活動を確認した ことには変わりないであろう。洞から引きずり出すと、脚の符節がいくつか欠けており、明らかに越冬済みであると 分かる個体であった。

4月におけるヒラタ採集は、「物は試し」に狙ってみたものであるのだが、4月から夜回りを始めるなんて、 いくら東京が温暖化しているとはいえ、我れながら呆れた所業と言うほかはない。

[越冬ヒラタ♂]

4月30日、洞の中で成虫を確認

最大個体

6月12日、平日の夜20時過ぎという、自分にしてはめずらしく早い時間帯にポイントへ突入した。すると、いつもチェック しているクヌギの洞に、大型の黒いクワガタが頭を突っ込んでいるのが目に飛び込んだ。写真を撮ろうという余裕も瞬時に吹き飛び、 無我夢中で右手を伸ばして掴む。体が大きい分、引き剥がされまいとする足の踏ん張りも手ごたえ十分だ。 何とか掴み上げると、53mm。近場での自己記録の更新である。

[ヒラタ♂53mm]

ヒラタ♂53mm

しかし、率直に言って、ヒラタ♂としては依然としてたいして大きなサイズではない。実は、自分と同じ地域で採集に 廻っている友人のF氏は、この夏、何と61mmと58mmを採集したそうである。大型個体の発生源となりそうな場所がない訳では ないが、それにしても60mmオーバーとは、この地域のものとしては驚くべきサイズである。それに比べると、自分の採集は 全く威張れたものではない。単に巡り合わせが悪いというだけでなく、自分の採り方には、大型個体を狙うための何かが 欠けているのかもしれない。

なお、上記大型個体が採れた同じ幹の上に、鞘羽がたいそう傷ついた30mm台の小型のヒラタ♂も見られた。状況からすれば、 上記大型個体に傷つけられたものと見てまず間違いなかった。野外でのヒラタ同士の「闘い」の跡をこれほどはっきりと確認したのは、 自分にとって初めてのことであった。

[小型ヒラタ♂]

傷ついた小型のヒラタ♂

樹種

周知のとおり、平地でクワガタが採集できるのは、何もクヌギ、コナラ、ヤナギの木だけに限らない。 およそ広葉樹で樹液を流している木であれば、サクラ以外は先入観を捨てて採集の可能性を探ってみる価値があるように思える。 サクラでさえ、樹液で採集できたという話を何かで聞いたことがあるが、地域によってはありうるのだろうか。

自分は今年のテーマの一つとして、ある場所で見つけたニレの木でヒラタを採ることを密かに狙っていた。情けないことに、 その木がハルニレなのかアキニレなのか樹種の同定ができていないのだが、ニレであることには間違いない(おそらくアキニレか)。 何かの幼虫が穿孔した跡なのか、幹にボコボコと穴が開いていて、細いけれども雰囲気十分の木である。ニレでの採集は、関西では わりと知られているようであり、実際に自分も経験をした。しかし、ここ関東では、ニレでクワガタが採集できることなど、 あまり知られていないのではないだろうか。

今年の樹液採集シーズンが始まって以来何度かのトライを重ねた後に、6月20日、海外赴任の日程が迫る中、運良くその目標を 達成することができた。頭上の高い枝に、コクワよりも横幅のある黒い個体を見つけ、暗い中を慎重に木登りして何とか掴み取ると、 紛れもなくヒラタ♂だった。ニレにおける採集という希少性に加えて、都区部での採集というプレミアム付きの貴重な個体となった。 ただし、そのポイントは、6月になると背丈ほどの草の中を藪漕ぎして行かなければならず、ヒラタに出会える確率の悪さから、 他人にはけっしてお勧めできるものではない。もしかしたら、採集の神様からの特別な餞別だったのかもしれない。

[ニレ] [ニレで採集したヒラタ♂]
   
狙っていたニレの木 ニレで採集できたヒラタ♂(40mm)

外道

樹液採集シーズンに入ってまもなく、ヒラタを観察しているいつものポイントで、オオクワガタ♂を2頭採集してしまった。 1頭目は洞の中に潜んでいるところを見つけたもので、ピンセットで時間をかけてようやく引きずり出し、 おかげでオオクワ採集の醍醐味の一端を味わうことができはした。しかしながら、いるはずもないポイントでのオオクワ採集には、 同様の経験をされた方もおられると思うが、実に後味の悪いものがある。それが後日見つけた2頭目のように、幹に付いている ところを何の苦労もなく見つけた時などはなおさらであり、嫌悪感さえ覚えた。他にも、同じポイントで知人が別のオオクワを 発見したところを目の当たりにしている。いずれも小振りな個体であり、放虫個体なのかその子孫なのか不明であるが、 東京の都市近郊でオオクワがたびたび採集される事態には、全くもって困ったことであると言わざるをえない。

[オオクワ♂]

ヤナギの洞から引きずり出したオオクワ♂

最後の戯言

全国の名だたる「くわ馬鹿」な人達に混じって、自分はいったい何をすることができるだろうかと考えた末の結論が、 「都区部在住の家族持ちサラリーマンとして、身の丈に合った採集馬鹿になろう」というものであった。その線に沿って追求してきた テーマが、この「東京ヒラタ採集」であり、この題で「くわ馬鹿」に4年連続して投稿させていただいたところである。この投稿を 通じて、東京周辺に様々な友人や知己を得ることができ、おかげでそれなりに楽しい「近場採集」生活を送ることができた。 その生活も、今般の海外赴任を機会に断念せざるを得なくなったわけであるが、一方で、東京での近場採集そのものに 行き詰まりを感じてきたところでもあり、採集生活を変えるにもちょうど良い頃合だったのかもしれない。

ところが、ここパリに来てからも、採集に出る機会は大きく減ったものの、採集スタイルは変わらないようで、いつの間にか パリの近場採集を追求している自分自身に気が付く。ここでは残念ながら大好きなヒラタを見つけることはできそうにないが、 東京のヒラタとともに培われた自分の採集経験が、異国の地でも生きてほしいものと願うばかりである。
 

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