オオクワガタの新分類(仮説)パート2 第1話

 Hero (1998/10/27)


 皆さん、こん○○は!

-------< 謝辞 >-------

 原稿依頼を受けて早3ヶ月、今回は頭部前縁眼上突起の無いDorcus( 狭義 )属に於ける種分類と言う事( 自分が振って自分に戻って来たお題(^^; )ですが、何分それ程得意な分野ではありませんので、視野の狭い内容と成ってしまいますが後述の方々の多大なるフォローを期待しつつ、またしてもいい加減な内容で書かせて頂きました。なにとぞ御了承願います。m(_,_)m

 また、前回の「頭部前縁眼上突起を有するDorcus( 狭義 )」に洩らしてしまった、Dorcus parallelipipedus,Dorcus musimon,Dorcus parallelus 等の非常に興味深い小型オオクワガタ達が多数居ますが、これらの分類については私の経験がこれらを語れるに至りませんので( これから勉強します )、その筋の達人にコメントを期待しつつまたの機会にでもと言う事で。( 前回は殺風景でしたので、今回は若干画像を入れました。)

-------< 本文 >-------

Dorcus schenklingi ♂ Dorcus schenklingi ♀
Dorcus schenklingi 台湾 ( 六亀 )産 ♂70mm Dorcus schenklingi 台湾 ( 六亀 )産 ♀46mm


 「頭部前縁眼上突起の無いDorcus( 狭義 )」にはその代表的存在である、Dorcus antaeus や Dorcus schenklingi 等の大型のDorcusから、Dorcus gracilicornis,Dorcus suturalis,Dorcus opacipennis,Dorcus ratiocinativus及びNipponodorcus montivagus,Macrodorcus rectusに至る小型のDorcusグループがあります。

 また、Dorcus miwai,Dorcus meeki等もDorcus( 狭義 )属として取り扱われている図鑑等もありますが、個人的な意見を述べさせて頂くと、Dorcus( 狭義 )属とSerrognathus属の外見上の違いは大腮に発現する1対の内歯のみでは判断出来ず、頭楯の形状や大腮先端の返しの形状及び胸部と頭部の長さ的バランス等も重要な要素だと考えています。従ってこれらの種に付いてはSerrognathus属でありDorcus( 狭義 )属では無いものと勝手に決め込んで、更には、私は虫屋ではありませんので、上記「頭部前縁眼上突起の無いDorcus( 狭義 )」属全ての標本を所有しているハズも無く、しいて言うならば、大型種のみであれば何とか適当に怪説出来るレベルですので、第1話ではantaeus種とschenklingiに特化した考察とさせて頂きました。

 今回の新分類(仮説)は何を分類すればよいのか?私自身も非常に困惑しております。結論から申しますと、上記 Dorcus antaeusとDorcus schenklingiは紛れもなく別種であると考えます。( 当然かな。(^^; )

 また、個人的には、この2種を前回の「オオクワガタの新分類(仮説)頭部前縁眼上突起を有する。」と同属として分類する事に非常に疑問を感じますが、皆さんも御承知の通り、Dorcus curvidens binodulosusとMacrodorcus rectusとの交雑実験にて簡単にF1個体を得られる以上( 何が言いたいかと言うと、頭部前縁眼上突起の有無による属分類は無意味? )、同属と認めざるを得ない事は周知の事実であると思われますので、とりあえずDorcus( 狭義 )属として考えました。

早速ですが、この2種の共通点や相違点に付いて述べて行きたいと思います。

-------< 1.地理的考察 >-------

 antaeus種の生息範囲は北インドを起点( 北インド原名亜種説より )にその周辺へ散らばって分布しています。産地標本や図鑑等により、アジア以外での採集記録は無さそうで、北限はNE.Indiaと思われ、南限はMalaysiaの様です。どの産地も標高1000m近辺に点在していると記されています。つまり、北緯30度以南から赤道までの範囲のアジア諸国で標高1000m近くの場所に点在して生息していると言えます。また、各産地により個体変異を成し、亜種分類まで考えると夜も眠れなくなってしまいます。(^^;

 私が実際に見た事のある産地標本は、NE.India産,Thai産,Loas産,Vietnam産の4産地のみですが、NE.India産とMalaysia産は大型個体に限定すれば、他産地と違うと言うのは結構有名な話しですが、ただ、どの産地の個体も、見た目上のシルエットは同じであり、しいて言うならば大腮内歯の角度や体表(艶)程度の変異で、誰が見ても同種である事に間違いなさそうですので、産地別亜種分類に付いては今後、専門家の人達が解明してくれると信じて、この場での追求を割愛致します。

 さて、上述のantaeus種を産する地域ですが、気候的に考察すると、北回帰線付近の温帯モンスーン気候と、赤道近辺の熱帯雨林気候と、大きく2つに分ける事が出来ます。本種はその両方に生息出来ると言う事で環境に馴染みやすい個体だと言えます。

 次ぎにschenklingiですが、近頃、中国は福建省辺りで酷似した虫を発見したとかしないとか?噂が飛んでおりますが、私は実際に見ておりませんので、ここでは台湾産特有種と言う事で話しを進めたいと思います。

 本種の生息地域は、台湾にて発行されている図鑑等を調べてみますと、ほぼ台湾全土に点在していると思われ、現時点では台湾の標高1500m付近と言う事になっており、北回帰線直下で四季のある比較的温暖な温帯モンスーン気候に限定されて生息していると言う事になります。

今回はイヤにあっさりしております。> 初っぱなから飛ばすと続きがねぇ〜。(^^;

-------< 2.生態的的考察 >-------

 上述のantaeus種及びschenklingiを飼育下で観察し、性格的分類・嗜好的分類・寿命的分類 の3通りの観察をしました。勿論、海外の日本語を操れる友人に依頼した観察内容です。ここではantaeus(北インド産)とschenklingi(台湾産)のみに付いて記します。

Dorcus antaeus NE.India ♂ Dorcus schenklingi ♂
Dorcus antaeus NE.India ♂67mm♂63mm Dorcus schenklingi 台湾(六亀) ♂73mm♂70mm
Dorcus antaeus India ♀ Dorcus schenklingi ♀
Dorcus antaeus NE.India ♀49mm Dorcus schenklingi 台湾(六亀) ♀46mm


 また、飼育に使用する餌やその他の物が、ここで使用した物と異なる場合は、当然同じ結果に成らないでしょうし、中には異端児が居ますので、ここでの考察は参考程度に考えて下さい。

『性格的分類』

 種により性格を分ける事が出来ます。antaeusは、かなりおとなしい性格で、臆病では無いのですが「ひそむ」と言った感じです。逆にschenklingiは、Dorcus( 狭義 )属の中にあっては攻撃的で、逃げ隠れもそれほどはしません。

 ただ、時期的な要素がかなり影響しており、羽化後間が無い時期ですとschenklingiでも攻撃性は弱く逃げる傾向が強いようでantaeusはあまり変わりません。

 また、schenklingiの交尾行動で面白い事も観察出来ました。最終的には、Dorcus専用体位とも言えるV字をとりますが、最初は、まず覆い被さる行動からはじまり、時折♂が大腮で♀の前胸背板から頭部を、下から上へ挟み上げ擦る仕草を見せました。これは、人間的に考えると「脅し」の様にみえましたが本来の意味は判りませんし、何時もとる行動ではありません。Prosopocoilus等の場合は、♂が♀に覆い被さって、大腮で行く手を塞ぎ、中脚脛節にて起用に♀の腹部側縁を擦りますがschenklingiは半ば強引にヤッチャウ時があるのかも知れません。( antaeusは特に変わった行動はとりませんでした。)

『嗜好的分類』

 両種とも、Dorcus属よりもむしろSerrognathus属の性質に近く、湿った餌皿の裏やマット内へ潜る傾向が強い様です。

 また、両種の産座は朽ち木内部へ穿孔してその壁面へ産卵し、噛み砕いたフレークで坑道を充たすと言った形態であり、時折、産卵木下のマットへも産む事も観察出来ました。朽ち木へ穿孔して産み付けるのはformosanusに良く見られる特徴であり、マットへバラまくのはSerrognathus属に時々みられる特徴です。

 飼育温度的な観察としては、低温を好み高温に弱いとされていますが、そんな事は無い様です。20℃を下回る環境下に置いても、30℃を越える(限度がありますが)環境下に置いても元気に活動します。但し Dorcus curvidens binodulosusと比較してはイケマセン。彼ら(Dorcus curvidens binodulosus)は特別ですから...。

『幼虫の嗜好』

 元来、antaeusとschenklingiは根喰いだと言われて来ました。これは国産Serrognathus属に近い食性だと考えられますが、実際飼育下においては根喰いの本性は判りませんでした。

Dorcus antaeus NE.India ♂ Dorcus antaeus NE.India ♀
Dorcus antaeus NE.India ♂幼虫 39g( 孵化後6ヶ月 ) Dorcus antaeus NE.India ♀幼虫 14g( 孵化後6ヶ月 )


 antaeusの場合は、発酵済み添加マットよりも菌糸瓶での成長が良い様で、菌糸瓶飼育の場合♂終齢幼虫時の体重は40gに達します。菌糸瓶飼育の場合♀終齢幼虫でも殆どの個体が15g近くになるので、大陸産オオヒラタ同様に大型種である事が伺えます。

 schenklingiの場合、発酵済み添加マットでも菌糸瓶でもその成長に大差は無く、♂終齢幼虫時の体重はどちらの場合も30gに到達します。飼育下では成虫♂は平均的に70mmを越えると思われ、国産オオクワで言う所の65mmクラスを作出するつもりで飼育すれば簡単に70mmを越えてしまいます。

Dorcus schenklingi 蛹 Dorcus schenklingi 蛹
Dorcus schenklingi ♂(10/06蛹化) Dorcus schenklingi ♂(10/30蛹化)


 ただ、羽化する時に若干の問題を抱えており、観察した感じでは、脚部が長いので自重を上手く支えきれないのか?体勢を変化させる事が下手で、簡単に羽化不全を起こしてしまいます。これにより、schenklingiの累代は難しいとされているのだと考えられます。

 飼育温度的な観察としては、両種共、非常に適応能力が有ると言えます。antaeusもschenklingiも、curvidens種の幼虫が高温で部分壊死を起こしている時でも、何事も無かったかの様に平然としています。また低温(10℃程度)にも強く、終齢での越冬が可能な様です。が、蛹化時期が秋以降と成った場合は、やはり低温では羽化出来ませんので加温が必要と成ります。自然界での蛹化時期がいつ頃なのかは判りませんが、飼育下では産卵時期や飼育餌によりその時期が変動してしまう為、秋から冬にかけて蛹化しそうな場合には注意が必要です。蛹の期間は両種共、外気温が25℃前後でだいたい30日となり、国産種よりも1週間程長目です。

『寿命的分類』

 寿命に付いては個体差が有りますので、一概に「これ!」とは言えない部分が多々あります。また、飼育環境がその種に向いていたか否かと言う環境的要素が含まれますので御了承願います。

 今回も、観察対象にした個体は、2ヶ月間産卵させた♀を用いました。何故かと言うと、♂ではサイズによるばらつきが大きく当然の事ながら小型は短命で大型(ここでは70mm超過と定義します)は長命と言う結果しか出ないので、比較するのが難しかったのです。

 【長い】schenklingi 【普通】antaeus です。

 schenklingiの♀は、だいたい2シーズンは産卵が可能でした。中には、年に2度産卵させても次の年も元気に産卵する個体も居ました。( 当然、1シーズン1度の産卵で~☆~する個体も居ますが、割合は少ないです。)

 antaeusの♀は成熟に時間を要しますが、ほぼ1シーズンの産卵で終了の様で、Serrognathus属より若干長く生きる程度と考えられます。

 また、両種ともDorcusの特徴である「休眠」が可能ですので、気温低下と共に活動が鈍り越冬体勢に入ります。

『おまけ : 容姿』

Dorcus antaeus Laos ♀ Dorcus schenklingi ♀
Dorcus antaeus Laos ♀ Dorcus schenklingi 台湾 ♀


 antaeusとschenklingiの♂の違いは見た目上一目瞭然です。ただ、♀を同定する場合は、オオクワとヒラタの♀を同定する程度の眼力が必要です。と言っても慣れてしまえば簡単ですが、antaeusとschenklingiの♀を見比べてみると、シルエットはschenklingi♀の方が細長く感じます。幾らスマートなantaeus♀とデブのschenklingi♀を比べても、やはり同様に感じます。これは、頭部眼縁と前胸背板側縁の下縁に違いがある為です。schenklingi♀の頭部眼縁は浅く、張り出しの少ないスマートな顔つきをしていて、且つ、前胸背板側縁の下縁の切れ込みが鋭角であり、前翅尾部がやはり鋭角なのでその様に見えます。( 勿論、見た目だけじゃなく実際にスマートなのですが )

 また、前翅の艶( 点刻列 )にも違いがあり、antaeus♀はツルツルピカピカで大陸産オオヒラタの♀を感じさせますが、schenklingi♀は前翅側縁付近が何となく艶消しっぽく感じます。ルーペ等でじっくりと見てみると、schenklingi♀の前翅側縁付近の点刻列はrectus♀と非常によく似ています。ただ、小楯板付近はそれなりにピカピカしていますのでrectusとは違いますが...。rectus♀が40mmを越えるとこう成るかも?って感じです。

-------< 3.結び >-------

 以上、今回の分類は終始、antaeus種とschenklingiの比較的考察と成ってしまいました。両種は、とても似ている所が多く( 産座,幼虫の嗜好,成虫の嗜好 等 )なかなか面白い関係だと思います。

 ただ、例えば、schenklingiの起源がantaeusから派生している等と考えるのは少し無理があるようで、schenklingiはMacrodorcus属に近いと言ったほうが良い様に考えます。( 産座を除いた容姿や生態は rectusと非常によく似ています。) 更に、個人的な意見としては、antaeus種はDorcus属とSerrognathus属の中間に位置する様な気がします。

 また、antaeus種はその生息範囲が広大で、ここで取り上げたNE.India産に関して言えば四季がある国に産する個体ですが、そうじゃ無い国に産するantaeus種とでは、生態にそれなりの違いが現れて当然だと思われ、二季に産する本種に、はたして四季の国に産する個体同等の耐寒能力が備わっているか?という疑問は残ります。

 最後に... 誰か、Dorcus schenklingi+Macrodorcus rectus か Dorcus antaeus+Dorcus schenklingi の交雑実験やってょ〜!(^^;

では!

 次ぎは「schenklingiは80mmオーバーじゃないと」と申しているFan Linさんか、Silver Backさんでしょうかね!(^^ゞ


11月号目次に戻る