kida1 オーストラリアのニジイロクワガタを求めて

by 危ダッチ


は97年9月23日から98年2月3日までの4カ月間、オーストラリア旅行をしました。大 学で留年したついでに休学してワーキングホリデービザで入国しました。ちょうどオ ーストラリアに行く前に南港で昆虫展があり、そこでニジイロクワガタの標本を初め て見て惚れ込んでしまいました。このクワガタのことは以前から知っていましたが実 物の美しさは何とも言いがたいものでした。始めたばかりのオオクワガタ飼育よりも ずっと魅力的でした。旅行の目的は観光がメインでしたが、とりあえずニジイロクワ ガタの生息地であるクイーンズランド北東部のケアンズに行こうと決めました。

ケアンズに着いた僕はユースホステルに泊まってダイビングをしたりして観光をしな がら、図書館でクワガタについて調べました。でもオーストラリアではあまり昆虫は 興味が持たれていないらしく(当然ですね)オーストラリアのクワガタの載った図鑑 は1冊しか見付かりませんでした。(ヨーロッパミヤマが載ってるイギリスの図鑑は 何冊かありました。)その本を見ても詳しい生態についてはあまり分かりませんでし た。Red Ceder Tree に集まるということと、その本の写真の撮影地がアサートン高 原と書いてあること、この二つの手がかりだけが得られました。

その後1カ月は英語学校に行ったり(2週間)、観光したり、釣りをしたりしてクワガ タ探しはしませんでしたが、当然カブトのいるポイントは見つけていました。街の中 心から少し外れた住宅地の街路樹でヒメカブトが1本の木に10匹くらいいました(街 中にも少しいました)。昼の2時の暑い盛りだというのに奴等は木の枝で交尾したり 喧嘩したりしていました。日本のペットショップで売られている東南アジア産のヒメ カブトとほとんど同じだったと思います。手で持つとキイキイ鳴らしてうるさかった です。

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ダーウィンの夕焼け

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カブトが付いていた木

して友達(ほとんどみんな日本人)も増えてきたので、アサートン、キュランダ方 面にドライブと観光に行こうと誘って、クワガタ探しに行きました。6人でレンタカ ーを借りて行ったのでほとんど観光でしたが、アサートンのインフォメーションでニ ジイロの載ってる本を見せて聞くと、雨期(11〜3月頃)にエーチャン湖国立公園( 日本語で書くと変だな)で落ちてるけど滅多にいないと教えてくれました。一応、こ の湖を一周して木を見て回りましたが、全然種類がわからず、適当に朽ち木を蹴り割 ったりしましたがクワガタは見付かりませんでした。幼虫採集はその頃はまだほとん ど経験がなかったので、成虫が出てくる雨期まで待つことにしました。

ということで、雨期までまだ時間があるのでその間にオーストラリアをバスで一周し て観光旅行しました。"Thin Red Line"という映画のエキストラのバイトで日本兵に なったり、エアーズロックを登ったり、カカドゥのキャンプツアーに行ったり、ウミ ガメの卵を食べたり(激まず)、イルカを見たり、パースで1カ月遊んだり、おんぼ ろカーで1週間ドライブしながら観光したり、あわびを捕って食べたり、沢山の人と の出会い、別れ、再会を繰り返して思い出が沢山ありますが、ここでは省略しておき ます。

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タガメ(アサートンの街の道路の水たまりで発見。ガソリンスタンドでよく潰されて死んでいる。)

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チョウ1(キュランダ周辺)

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映画のエキストラの日本兵(左が僕)

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カミキリ(キュランダ)

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チョウ2(アサートン周辺)

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カカドゥ国立公園で見たオオトカゲ

1月上旬、雨期のケアンズに戻ってきました。パースからシドニー2泊以外ずっとバス で疲れました。なにしろ1週間で100時間くらいバスに乗ってたんだから、我ながらよ く耐えたな〜と思います。バスで1周している間にミッションビーチというところの バス停で、ノコギリ系のクワガタ(Prosopocoilus torresensis)のメスを2匹拾った だけで、他はカミキリ、糞虫、カマキリ、セミ(柿色のミンミンゼミ風のものと、3c m位の黒いもの)、トンボ、蝶、アリ(ブルドックアントという3cmほどもある奴はす ごかった)、バッタなどを見ただけであまり虫が多い所は見つかりませんでした。爬 虫類は結構面白いのがいました。

ケアンズに戻ってから暫くは雨期だけあって雨ばかりで虫取りはほとんど行けません でした。1度だけエーチャン湖国立公園に行き、Red Ceder Tree を見つけましたが土 砂降りの雨で、さらにヒルにたかられて、クワガタはいないし、樹液もないし、「も う二度と雨の中で採集はしない」と思いました。

雨が続いている間、ワイルドライフインフォメーションでニジイロのことを尋ねまし たが、詳しいことは昆虫学者に聞いてくれと言われて、聞いた電話番号にかけてみた ものの、僕や僕の友達の英語力では電話でクワガタのことを詳しく聞くことができま せんでした。そこでツアー会社の日本語の話せるオーストラリア人に電話をかけても らって昆虫学者の先生にアポをとってもらって先生に会いに行きました。この先生に 、ニジイロクワガタについての記事(Australian Entomologist)をもらい、標本を 見せてもらいました。そしてカセドラルフィグツリーで採れたらしい、そして幼虫が いるのは白腐れの朽ち木だという情報も得ました。その後は当然まっすぐカセドラル フィグツリーに向かいました。そこで朽ち木を探しましたが白腐れのものは見つかり ませんでした。仕方がないので車で道をさらに進み、適当なところで朽ち木を調べま したが赤腐ればかりでダメでした。そろそろ暗くなり始めましたがさらに進み、湖の そばに止まりました。湖の周りには蛍が飛んでいました。「オーストラリアにも蛍が いるんやな〜」っていってる場合じゃないので適当に朽ち木を掘りました。(道具は スコップでした。ナタを買うのは気がひけたので。)そしてやっとクワガタっぽい幼 虫が出てきました。よく見ると尻部は縦割れ、「やった〜、何かはわからんがとりあ えずクワガタの幼虫だ!」。その朽ち木は白腐れで少し柔らかめ(スコップで掘れる くらいだからね)、日本ならコクワがいるような普通の倒木でした。結局、2匹の幼 虫(小さめのコクワ位の大きさ)しかそこでは採れませんでした。

帰ってからニジイロの記事を読むと、ニジイロが集まる木はRed Ceder Treeではない と書いてありました。(せっかく見つけたのに〜)。この記事は結構詳しく書かれて いて、幼虫の成長に関わる菌の種類まで書いていました。でも学名で書かれているの で全然有効利用できませんでした。(ケアンズの図書館ではあまり詳しい図鑑が見付 からなかったので)。また、この記事にニジイロの幼虫の頭部などの特徴が図示され ていたので、虫眼鏡を買ってきて良く調べてみることにしました。数日後、調べよう としてフィルムケースから出すと酸欠で動かなかくなっていて観察が容易にできまし たが、お尻が細長く、どうやらニジイロではなさそうでした。幼虫は2時間ほどで息 を吹き返して潜っていきました。

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一人目の先生と僕

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カセドラルフィグツリー

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一人目の先生の標本箱

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キンイロクワガタ採集ポイント(砕いてある朽ち木から幼虫を採集しました。)

んだか、ニジイロはなかなか採れそうに無いような気がしてきたので、とりあえず 保険としてニジイロの標本を買おうと決めました。前回、昆虫学者の先生にアポを取 った時、標本を売ってくれる先生もいると聞いていたので、標本を買いつつどこで採 ったのかを聞き出そうという魂胆でした。また前回と同じようにアポを取ってもらっ て行きました。この先生は、実にいろんな昆虫を飼育していました。大きな蛾を幼虫 から育てていたり、10年もののオオゴキブリとか、木の葉の形のバッタとか、ニジイ ロの幼虫も瓶でマット飼育していました。この先生はここの森でたくさんの新種の昆 虫を見つけたらしいです。バッタ、蛾、ナナフシなどを指さして”new speices”っ て言っていました。そして彼の息子のペットのニジイロクワガタの特大の雄を見せて もらいました。標本じゃないニジイロはかっこいいというか美しいというか、とにか く感動ものでした。

そして小さいニジイロの標本とキンイロクワガタの標本を買いました。(安くはなか った)。おまけとしてハイイロクワガタの標本ももらいました。僕の採った幼虫を見 せたところ、「Lamprima(キンイロクワガタ)」だと教えてくれました。また、ニジ イロは木の枝で樹皮を剥いで、その香りで仲間が集まってくるということも教えても らいました。その木の枝先の皮をこすると確かにいい香りがしました。 最後にニジ イロの採集地を聞くとキュランダだと言っていました。次の日、早速キュランダに向 かったのは言うまでもないですね。

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二人目の先生と僕

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ニジイロと標本

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二人目の先生の標本(ニジイロ)

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二人目の先生の標本(黒系1)

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先生の息子のペットのニジイロと僕

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購入した標本と採集したキンイロ幼虫

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二人目の先生の標本(キンイロ)

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二人目の先生の標本(黒系2)

ュランダは観光地なんですが、街の周りは森だらけ、国立公園だらけです。キュラ ンダのどこに居るのかを聞くのを忘れた事を後悔しました。とりあえず手当たり次第 に公園に入り探しました。この日から3日連続で調べましたがいいポイントは見つか らず、トラップ(バナナとパイナップル)を仕掛けてもすぐにひからびてダメでした 。仕方がないので、キンイロの幼虫を採ったところのポイントを再び詳しく調べるこ とにしました。スコップはグニャグニャになったので替わりにトンカチ(釘抜きのと ころが良さそうだった)を買いました。幾分戦力アップして朽ち木を掘ると朽ち木の 黒化したところからコクワ2令位の大きさの幼虫が3匹出てきました。一応、クワガタ の幼虫でしたが、キンイロとは違う種類のようでした。帰って見た所、ニジイロでも なさそうでした。そしてクーラーの無い暑い部屋に置いておいてたので死んでしまい ました。

その後も何度かキュランダ、アサートン周辺を探しましたが、結局ニジイロは採れな いまま帰国の日が訪れました。

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放蝶園の蝶の標本

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整理した標本

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羽化したキンイロクワガタ雄

の後 僕が帰国した後で、一緒に採集に行っていた友達が標本を買った先生の所にまた見学 に行ってニジイロのポイントを聞いたらキュランダでも僕らの探していたところとは 全然違っていたということでした。 そしてキンイロをとったポイントに行って朽ち木を掘ってムナコブクワガタが出てき たそうです。もしかしたら黒化した部分で採った幼虫はムナコブの幼虫だったのかも 知れません。 キンイロの幼虫2匹は雄と雌だったので期待していたのですが、雌は死んでしまった ようです。雄は羽化して立派な成虫になったらしいです。

後に、ドライバー兼助手で、採集に付き合ってくれた鈴木氏(埼玉産)と菊池氏( 北海道産)に深く感謝します。


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