くわがたむしリアルグラフィック(初級編)


 6月号に載せた「あまみみやま」のグラフィックに対して、爆発栄螺氏から描き方について教えて欲しい、という要請があった。はっきり言ってあんまり参考にならないとは思うが(だってクワガタの絵描いてる人なんていないっしょ、ほとんど)、今回初級編ということで、素材としては簡単なオオクワオス、しかも頭部のみの描き方について説明する。使用したソフトはAdobe Photoshop 4.0Jである。


 フォトショップをお持ちの方は以下のファイル(matsuda.lzh(457KB))をダウンロードし、記事とあわせて見てみるとよりわかりやすいだろう。

作例 (matsuda.lzh)


1・パスを描く

 フォトショップはフォトレタッチソフトでフィルタがなくちゃ役に立たない、というのが世の中の流れだが、リアルなクワガタを描くのにもっとも重要なのはズバリ「パス」である。

 ところが、このパスというのはなかなか扱いが難しくて、ドロー系ソフトが素人に人気のない原因ともなっている。ここではパスの使い方に触れているスペースはないので、申し訳ないが何かの本で良く勉強して使いこなせるようになってもらうしかない。


 今回素材としたのは、昨年星氏によって採集されたオオクワの写真をスキャナで取り込んだものである。取り込んだ画像を背景として、さらに写真を参考にしながらパスツール(図赤丸)で、各パーツごとに描いていく。


 その際気をつけるのは各部位の前後関係である。おおあごの根元は頭の下に隠れてしまうので、図のようにわざと飛び出すように描いておく。こうすると後できれいに重ね合わせることが出来る。


2・塗りつぶす

 完成したパスを選択し、選択範囲に変更する(図赤丸)。レイヤーパレットに移動し新規レイヤーを作製(重要!!!)、塗りつぶしツールを使って適当な色(オオクワの場合70%〜80%グレー)で塗りつぶす。

 選択範囲を解除し、レイヤーにわかりやすい名前をつける(例では「あご」)。このレイヤーをコピーし、次の「焼き込みツール」を使うたたき台とする。こうしておくと、失敗したときに一つ前のステップに戻ることが出来る。


3・焼き込む

 焼き込みツール(図中左赤丸)を用いて、陰影をつけていく。露光量は10%以下にし(図中右赤丸)、何回も重ね塗りをすると、だんだん陰が濃くなってくる。ブラシサイズは大きいものから、徐々に小さいものに変えてディテールを仕上げていく。

 基本的には写真を元に陰付けするが、実際の立体構造をある程度反映させた方が、きれいな出来上がりになる。最初は感覚がわからずに失敗するかもしれないが、そのときはレイヤーを削除して「あご」レイヤーをコピーし、やり直す。


 正しくレイヤーを作っていれば、あごの周りは透明色になっているので、ペイントソフトで問題となるようなはみ出しや、エッジのなまりは絶対に起きない。完成したらレイヤーに名前をつけ(あご(焼き込み後))、コピーする。


4・覆い焼き

 覆い焼きというのは写真用語のようだが、このツールを使ってハイライトを入れていく。焼き込みツールを覆い焼きツールに切り替え(図赤丸)、前節と同様露光量は低く設定し、重ね塗りをしてハイライトを序々に入れていく。

 ハイライトは陰影に較べ、より正確な描出をしないと不自然になってしまうので、細心の注意を払う。失敗したらレイヤーを削除し、前節のレイヤー(あご(焼き込み後))をコピーしてやり直す。うまくいったらレイヤーに名前をつけ(あご(覆い焼き後))、コピーする。


 ここまで出来れば基本的なテクニックは修得したことになる。だが、みてわかるとおり出来上がりはオオクワにしては妙につるつるして、いかにもCGっぽい感じである。これを防ぐためにはフォトショップお得意のフィルタを駆使することとなる。


5・仕上げ



 さて、いよいよ仕上げである。完成したあごに「ノイズ(グレースケール)を加える」フィルターをかけ、自然なざらざら感を出す。ノイズの量は、絵の解像度やクワガタの違いによって異なるので、プレビューを見ながら適当に決める。


 これであごは完成。このオオクワの場合、あご、頭、胸の質感はほぼ同じのため、全く同様のプロセスで描くことが出来る。目はつるつるなのでノイズは加えない。


 口ひげは写真から明るいオレンジをスポイトで取り出し、覆い焼き、焼き込みツールで陰影を付け、指先ツールで押し出して形を整えた。頭胸部の境にある毛はオレンジで塗りつぶし、フィルタの「こする」をかけた後「ぼかし(移動)」を用いた。ここらへんは決まりがあるわけでなく、ある程度経験を積まないとうまい方法は見つからないかもしれない。幸いフィルタの扱い方に関しては多くの良書が出ているため、それらを参考にして欲しい。


 今回はここら辺でおしまいとする。紹介したテクニックだけで大型のオオクワやコクワなどはある程度の絵が描けるようになるはずである。ただし、本例のような小型のオオクワの場合、体はピカピカの上に点刻列が明瞭に見られるため、さらに高度なテクニックが求められるだろう。

 ミヤマのように毛の多い種、ノコギリのように色のある種、海外に見られるメタリック色のクワガタなど、同じクワガタといっても、全く求められるテクニックは変わってくる。実際に私自身が全てをリアルに描く自信はないが、要望があれば今後も中級編、上級編と続けていくつもりだ(あくまで要望があれば)。

R.Matsuda


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