菌糸瓶について
其の二 菌糸瓶の選び方

By George,H


 前回菌糸瓶の何ちゅーかをお話しさせていただきましたが(「今更わかっとるって?」『すんませんねぇ今しばらくお付き合いを...』)
 今回は選び方です。そうチョイスね!!これ大事ですよ。指名も当たり外れがあったりして、ポッキリの文句に誘われたわりに、こんなはずではなかったという経験は皆様も..........いや失礼。
 (正確な内容をお伝えすることの責務はありますが、内容を吟味して頂いた上で、良識ある判断をお願い致します。)



●菌糸瓶の選び方?
 それでは、菌糸ビンの選び方から始めていきたいと思います。一口に菌糸ビンといっても、皆様方の幼虫飼育に対する考え方や幼虫のサイズ、さらには予算などによってもその選び方の基準は異なるはずです。
 正直なところ、優秀な菌糸ビンとそうでないものとが存在すると、個人的には考えているのですが、ここではそういったことを議論するのではなく、あくまでも選ぷ際の基準を述べるに留めたいと思います。
 というのも、一つには、さまざまな菌糸ビンのデータ批評できるほどの量に達していない。加えて、ともすると単に主観的な業者批判との誤解を受けかねないからです。
 では本題に入りますが、選び方の基準としては大きく分けると以下の8つになると思われます。

    A)菌糸ビンに使用されている菌糸の種類
    B)菌糸ビンに使用されているマットの樹種
    C)菌糸ビンに使用されているマットの粒子の大きさ
    D)菌糸ビンのサイズ
    E)菌糸ビンの容器はビンなのか、ポリ容器なのか
    F)使用されている添加剤の成分とその使用量
    G)マットの詰め込み方(圧縮率)
    H)マットに含まれる水分率

 多少細かく分類しておきましたが、このことは菌糸ビンを作成する時にも必ず考慮しなければならないことですから、やはり菌糸ビンを購入する際にも少しは気にしてほしいものです。ただし、A‐F‐G‐H等の項目は、業者の方々のノウハウに当たる部分であることが多いため、実際には情報をオープンに入手することは困難なのが現実でしょう。
 ですから、最低限として、菌糸ビンの売り手から、使用上の注意点や扱っている菌糸ピンの特徴(長所、短所を含めて)を教えてもらうべきではないでしょうか?そうやって、自分の求める菌糸ビンを探してみてはいががですか?

 A)菌糸の種類

 では、各項目について予備知識を一つずつ身に付けていきましょう。
 まずA)の菌糸の種類についてです。現在菌糸ビンに用いられている菌糸は、「ヒラタケ」系と「オオヒラタケ」系の菌糸が主流になっています。ここで○○系という言葉を付けておいたのは、いくつかの菌糸(キノコの種類)の総称として「ヒラタケ」や「オオヒラタケ」などと呼ばれている場合が多いからです。

 ヒラタケ系にしても、オオヒラタケ系にしても、白色腐朽菌と呼ぱれる、材を白く腐朽させる菌です。ここで具体的な菌糸の種類を聞くことができれば一番良いのでしょうが、菌糸ビンの重要な情報のためか、このことを教えてもらえることはほとんどないでしょう。キノコ業界(いわゆる農業食品としてのキノコを扱う業者)で、食用キノコとして「シメジ」の商品名で売り出されているのがヒラタケ系と考えておけば良いでしょう。
 ところでこのヒラタケ、養殖ものとしての栽培品はスーパーなどでお手頃価格で販売されていますが、天然ものは人工栽培品よりひと味もふた味も美味しいものです。

 さて話を戻すと、オオヒラタケ系も同様に食用キノコとして流通しているものです。名前からもわかるようにヒラタケと似ていますが、外見的にはヒラタケよりも大型のキノコで、菌床の表面には褐色〜黒色の水滴状のもの(分生子柄束=コレミアといいます)が多数生じるのが特徴の一つです。なおオオヒラタケの場合には、「アワピタケ」「エリンギタケ」などの商品名でスーパーなどで販売されているようです。
 さて、ヒラタケにしても、オオヒラタケにしても、菌糸ビンのもとである、種菌の特徴(長所も短所も)を知る必要があると思います。ところが、多くの菌糸ビンを販売している方々は、販売競争にしのぎを削っているためか、短所の部分をあまり伝えてくれてはいないようです。少し冷静に考えてみればわかることですが、世の中のほとんどの物事には長所があり短所があるはずです。ですから、菌糸ビンの事に限らず、もっときちんとした知識を身に付け、自分の判断で利用していく必要があると思いますが、 そう思いませんか? そのために、若干細かいようなことも触れていこうと考えているのですが…。

 多くの菌糸ビン製造業者がヒラタケやオオヒラタケを菌糸として利用していることからもわかるように、どちらの菌糸を利用するにしてもクワガタの幼虫が成長するのに有用であると考えられます。では、業者によって菌糸ビンの品質(実際には何を基準に品質の優劣を判断すべきかも難しい間題ですが)に差がつくのは何故かという事になりますが、一つには添加剤の種類・量や水分の量などによりますが、もう一つの大事な要素として菌糸ビンを使用する側の知識量(多少の経験も)、言い換えれば、使う側の技術にも依存しているようです。そこで、以下に述べるような知識を持っておくことをお勧めします。

 まず、ヒラタケやオオヒラタケの菌としての生理的な要求に関してです。ヒラタケやオオヒラタケは自然下においては晩秋から春先にかけて繁殖の時期を迎えるため、その環境温度はあまり高いとはいえません。つまり、菌糸が活動して、効果を発揮するには気温が低いほうが良く、気温が高くなるほど菌糸の活動は弱くなります。キノコ類は一般的に低温に強く、高温には弱いものですが、このことは菌床を凍らせても適温になれば菌糸は活動を再開するが、高温(具体的には30℃位)になると菌糸の活動は弱まり、適温に下げてみても菌糸の活動が極端に鈍くなることからもわかります。一方、幼虫は極端な低温下では成長せず、場合によっては死亡してしまうものもありますし、高温に耐えられる幼虫は存在していません。(個人的な経験に基づく部分も多い)菌糸の活動をそれなりに維持し、幼虫の成長を活発にする温度帯は18〜25℃あたりになると考えています。そして、このような菌糸の性質から見ても、ヒラタケやオオヒラタケ菌糸ビンは夏場よりも冬場の温室飼育に向いているようです。なお、上記のような幅の広い温度帯では参考にならないと思う方もおられるでしょうが、温度の調整に関しては別の機会で詳しく論じていきたいと考えていますので.............温度についてはここまでということで。

 さて、次にヒラタケ、オオヒラタケ以外の菌糸についても少し見ていきたいと思います。よく利用されている菌糸ビンとしてはカワラタケ菌糸を使っている場合がありますが、その多くが雑菌を繋殖しやすく、環境温度が上記の2種よりも低いために、クワガタの幼虫を育てるにはその取扱いが難しく、余り実用的とはいえませんでした。ただし、材飼育におけるカワラタケのパワーを考えると幼虫を成長させるための栄養バランスには目を見張るものがあり、何とかプリードに耐えられるようにできないかと考えられています。

 実は、一口にカワラタケといってもその種類は何種類かが存在しています。よくいわれるのは、カワラタケの白系統や黒系統ですが、それらも別のカワラタケです。これまでの菌糸ビンに利用されてきたのはクロカワラタケのようで、これは菌糸ビンでは使用に耐え切れないのは前述した通りです。ところが、いわゆる白系統のカワラタケ、つまり、アラゲカワラタケやシハイダケ(クワガタ業界でいうミドリカワラのこと:アラゲとシハイのどちらを指すのかはわからない、あるいはこのどちらも区別されていないのかもしれないが)は雑菌に強く、恐らく夏場の飼育での環境温度にも耐え切れるもののように感じられます。

 では、幼虫の成長はどうかということになりますが、実際のデータについては現在蓄積中なので、確固たることを報告するまでには至っていません。ただし、天然下におけるミドリカワラの存在は、大型固体の目印ですし、材割り採集時、過去4種類のクワガタの幼虫が1本の立ち枯れの中から70頭以上見つかるといった、凄いキノコ!!で有ることに依存のないところです。

 このほかにも、いくつかの菌糸についても触れておきます。(但し当方では使用しているわけではないので詳しい説明は省かせていただきます)

次に述べる2種はいずれも環境温度が高く、先ほどのミドリカワラ菌糸ビンと同様に、夏場の飼育にも耐えられるようです。それは、漢方薬の成分としても有名な霊芝やサルノコシカケです。天然下ではこれらの菌によって腐朽した材に幼虫が入っているのを見た経験がないので、その効果がどれほどのものなのかはわかりませんが、霊芝の産卵木は、それなりの効果が得られており、もしかしたら、かなり有効な菌糸であるのかもしれません。使用した方がいらっしゃいましたら、是非ともご一報願います。


 B)マットの種類

 やっと、菌糸の種類が終わりましたが、(ふぅー)どうも予告通りでは終わらない?気がしてきました。始めたばかりの方には分かりずらい内容も多いような気がします。初心者の方はできれば飼育に関する書籍を何か1冊読んでおかれるほうが良いと思われます。
 ただ、普通に業者の方の話やクワガタ関係の書籍を見聞するだけでは得難い内容を、できるだけ分かりやすくお伝えしていきたいと考えておりますので、もう少しお付き合いください。
 では、B)のマットの種類に入りたいと思います。一口にマットといっても、クヌギを主流として、プナやコナラ、カシなど、マットに使用する樹種の選択肢はたくさんあります。また、これらの樹種をミックスして使用することもできますから、どれがベストなのかは菌糸を選ぷ以上に難しいものなのかもしれません。ただし、絶対的なものではありませんが、キノコの知識を動員し、経験と照らし合わせて考えると、以下のような傾向について言えるかもしれません。(あくまでも参考程度に読んで頂けたらと思います)
 シイタケを材で栽培する場合、材の持ちが良いのはクヌギ、ナラ、コナラ、ブナの順のようです。実際には、材の持ちの良さのほかに、材の価格や材によるシイタケの出来具合などを考慮してシイタケを栽培している農家が大半のようですが、菌糸ビンとして使用する場合には、マットの持ちの良さは、選択の際の重要な点の一つとなってきますから、結果的にクヌギを選択している菌糸ビン製造業者が多いのかもしれません。
 マットとなる材を安定的に手に入れるという点でも、これらのマットは選択されやすいと言えるでしょう。よく耳にするのですが外産のブリードにはクヌギよりもコナラやプナのほうが良いというような情報があるようです。真実かもしれませんが、私はこの内容がどこまで正しいのかはよく分かりません。情報では、海外現地に生息しているクワガタは、標高が日本と比べて高く、低地性のクヌギよりもやや高地性の樹種のほうが良いのではないかというのが理由のようです。しかし、よく考えてみれば、天然の条件を整えることがベストな選択とは限りませんし、多くの外産が容易に手に入るようになったのがここ数年であることを考えるならば、この情報を鵜呑みにすることは危険ではないかと思うのです。個人的には、産卵木にする場合には、クワガタの種類に合わせた材の太さ、長さ、そして堅さ(腐朽の度合い)の方が樹種よりも優先するような気がするのですが、皆さんはどのように考えていますか?また、菌糸ビンやマットによるブリードでは樹種よりも、菌糸の種類、添加剤の種類や分量、水分率などの条件と飼育温度が大切なような気がします。いずれにしても、相当に長い期間の経験と、数多くの種類の幼虫を大量にプリードしなくては一概に結果を出し難い内容だと思うのです。だからこそ、出来るだけ詳しいデータの記録の蓄積とその分析が大切になってくると思いますので、皆さんもきちんとデータを付けてみて下さい。

 今回は私の仕事の都合上、これくらいで終わらせて頂きたいと思います。次回は「C)粒子」から述べていこうと思います。


   では、今回はこのへんにして、次回は”「C)粒子」”つぅー事で、.........






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