オオクワガタの種分類について(4)

A.CHIBA


 北インドから東南アジア、中国をへて日本にまで分布するオオクワガタですが、人気は相変わらず高く、以前に比べ手に入りやすくなった事も手伝い益々飼育、累代する人は増えているようです。多くの人が飼育(実験等も)する事で、分類に関しても標本だけを見て得られる見地よりもさらに色々な事が解ってきているようで、これから益々楽しみになってきました。今回で4回目になるオオクワガタ(眼上突起の有るグループ)の分類方法についてですが、今までの概念にとらわれない自由な発想での色々な考え方(分類方法)が述べられており、とても興味深く読ませていただきました。中には私と同じ考えも見受けられ繰り返しになってしまう部分も出てくると思いますが、今回も自由な発想で自分なりの考え方を書いてみようと思います。その前に分類方法に付いての考え方を少し書いて見ようと思いますが、今さらなにをと思われる方は読み飛ばして下さい。      

分類の方法、何処にポイントを置くか!

(1) 形態
 
 昆虫の分類は今までこの形態分類を主に行われてきました。哺乳類、爬虫類など内骨格の動物と違い、昆虫は外骨格を持ち、標本にするにはとても都合が良く簡単で長く保存も出来ますから、今でもこの方法が昆虫を分類する上で一番盛んな方法(安易)であると思われます。研究家の中には、採集されてから数十年以上経った標本を使い記載している方もいるようです。
 外見や触覚、交尾器等で区別するわけですが、クワガタにおいては同じ種でも別種に見えるほどの個体変異(主に大きさ)のある種がいますが、今回のオオクワガタはその個体変異の激しい(進化した)グループです。このようなグループの場合、種を区別しようとするさいにどの大きさの個体を基準にするかでも差が出てきてしまいます。たとえば小型の♂では区別出来なくても、大型個体において区別が出来ると言う場合、小型♂では区別が付かないから同種としてしまう考えと、大型個体で区別が付くのだから亜種なり別種であると言う考えとが出てくるわけです(その人の考え方で自由であるのだが)現在別種とされているものでも小型個体においては近い種と区別の付かないものも居ますし、反対に大型個体では区別はつくが同種とされている(あえて別種としない、書く人がいない)種もいるわけです。それに♀も含めて考えるといっそう複雑になり、人それぞれの見かた考え方で差が出て来ます。

(2) 生態、産地
 
 生態が違うと言う事は多くの種が生活する上で競合をさけて(棲み分け)生活圏を確保、又は広げていき子孫を多く残すと言う事ですが、進化したグループと思われるオオクワガタでは、同種でも生息する場所によって生態が違う場合(場所に適応)があるように思えます。
 野外での観察は難しいとして、飼育して産卵方法、寿命の違いなどで種を考える事は出来そうですが、人工飼育下において本来の生態を見せてくれるのか微妙だと思います。またクワガタで近いグループと思われる(似ている)種が、同所的に分布しているのに交雑しないと言う場合は別種と考えるのが一般的です。それからクワガタの分類で、外見が非常に似ていてほとんど区別出来ない種を産地が違う事で別亜種などにしているとしか思えないものが幾つか見られます。ただし、これは私がそう見えるだけかも知れません。

(3) 遺伝学

 D.N.Aを調べるなどの昆虫の分類では新しい方法で 外見だけからでは識別が困難な種などで、系統関係などを明らかにするのに非常に有効な手段であると思います。オサムシなどではすでに行われており成果が出ていると言う事ですが、クワガタではまだ行われていないようです。しかし、この方法は素人には無理で専門家(えりーさん)にまかせておく事とします。

(4) 交配実験
 
 これは第1回でシルバーバックさん、がこの事に付いて語っておられますが、昆虫(オオクワガタ)の場合おそらく今まで種を考える上で、このような実験結果を元にした報告と言うのは、今までの形態分類中心であったクワガタの分類に新しい方向を示したと言う事で大変意義の有る事だと思います。この方法も考慮に入れて今まで分類されているクワガタの種を見直すと、かなり違った結果になると思います。


 大ざっぱですが、一般に以上の様な方法で分類していると思います。さらに、形態分類の方法では、顕微鏡などを使用し外骨格の表面をより細かく見ていき肉眼で区別出来ない違いを見つけて区別しようとする試みもある様です(昆虫と自然1989年10月号)。また、現在のクワガタの分類に不満の有る人も結構いるようなのですが、何処にポイントを置くかで分類の仕方はかなり変わってしまうと考えた方が良いでしょう。オオクワガタに付いては人気種と言う事もあり、かなり良く整理されていると思っています。しかし、多くの人が注目しているグループだけに色々な考え方が出てくるのも当然ですし、まだよく調べられていない地域も有り、その辺はこれからが益々楽しみです。次に分類の考えを書いてみる事にしますが、一応独断と偏見と好みと織り交ぜて考えてみます。

分類の考察

 今回の分類は形態分類と産地(分布)のみで考えてみる事とします。累代実験、生態などは考慮しません。(考慮すると前の記事と同じ考えになる部分が多くなる、、)また、より原型(原始型)に近いと言われる、♀の方に視点を置いて考えてみる事にします。

      Dorcus curvidens curvidens         北インド・ブータン・インドシナ・中国の一部
      
      Dorcus hopei hopei              中国(広西壮族自治区・江西省・福建省・他) 
      Dorcus hopei binodulosus          日本・朝鮮半島・中国東北部
     
      Dorcus grandis formosanus         台湾
      Dorcus grandis grandis            ラオスの一部・中国の一部?
       
      Dorcus parryi parryi              スラワシ
      Dorcus parryi volscens            ボルネオ・スマトラ・マレー・タイ       
      Dorcus parryi curvus             パラワン  
      Dorcus parryi setsuroi             ミンダナオ 
      
      Dorcus ritsemae ritsemae          東ジャワ
      Dorcus ritsemae kazuhisai          西ジャワ   


 Dorcus curvidens curvidens の北インドあたりのものは、大型個体で大腮のかたちに特徴があり区別出来そうなのですが、小型個体と♀では他の産地との明確な区別が無理のようです。hopei系統とは目上突起のかたち、大腮の形状、その他で区別出来、♀も区別できる事で別種としました。それから分布ですが、中国の一部でhopeiと混生している可能性があり、タイにおいてはparryiとの混生地があるとも聞きます。または産地が同じでも上手く棲み分けしているのでしょうか?


左は広西壮族自治区産 Dorcus curvidens 右は同産地ラベルの Dorcus hopei
だが、混生しているのかいないのかはまだ良く解らないようで、調査が望まれる!

 Dorcus hopei hopei は、福建省、江西省、広西壮族自治区のものを見たがありますが、他の地域にも分布していて今まで知られているものとは少し違うタイプもいるようです。将来は詳しく調査され整理される事と思います。


 Dorcus hopei binodulosus は Dorcus hopei hopei と非常に良く似ていると思いますが、♀は区別出来るようです。中国産でも産地によって♀が日本産と区別出来ないそっくりなものもいるようですが、このタイプは大型個体が大腮の形状等で区別出来るとしても、Dorcus hopei binodulosus に含めるべきだと考えます。


 Dorcus grandis formosanus と次の Dorcus grandis grandisですが、formosanus は grandis よりも日本産の binodulosus の方に近いと思っていました。しかし♀の形態(似ている)や分布で考えるとこうなってしまいました。台湾の対岸に近い中国大陸には formosanus に近いものが分布している可能性があり、また中国大陸には grandis に近い種も分布していると思われ、ラオスから台湾を結ぶ間の地域(何とも曖昧な言い方)にその可能性が高いのではと考えられます。


 Dorcus parryi と Dorcus ritsemae は♀での区別も難しく、同じグループでも良いと思ったのですが、Dorcus ritsmae の西ジャワ産を考えるとジャワ島に産するものは別種にした方が良いと思います。この地域のものはまだ多くの個体を見た事がなく考えはまとまっていません。


 以上、分類方法に付いて書いてみましたが、なるべく、第1回〜3回までとは違った分類をした方がおもしろいと思い、色々考えたのですが画期的な分類にはとうていなりませんね!どうしても同じような感じになってしまいます。種名、学名も前回で Heroさんが言っていたように、区別するために単なる記号として使用していると思って下さい。記載順序などは配慮してはいません。相当矛盾するところも有りますが、あまり深く考えないで下さい。




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