言 葉 の 概 念 化

December 4, 2000


なぜ「タッチ〜」なる一語が試合の勝敗を左右したか。それはこの言葉が概念化されていたからであ
る。概念化といえば難しい哲学用語のように聞こえるが、単に普通の言葉に明確な意味をもたせるこ
とである。ここでは選び抜いた言葉を有効な戦術用語に転化させることと定義しておこう。
古い例だがアイコンタクトというサッカー用語がある。欧米ではずいぶん前から概念化され祖母井氏
により日本にも紹介されていたが、日本代表監督だったオフト氏が使用して流行語になるまでは日本
では概念化も普及もしなかった。概念化されたこの一語により少年の指導がどれほど容易になったこ
とか。
ささいな例だが高槻FCの指導の中から概念化の実例をもう一つ挙げよう。たいていのチームでは、
内寄りのTOPが相手DFの裏でボールをもらいたいとき「たて〜」と叫びながら斜めに走りこむ。少年
の場合、まだまだ阿吽の呼吸はおろかルックアップも不十分だから、声のした方向つまり走っている
TOPの背後にパスが出てしまう。
その場合フィーダーがサイドにいて受け手がフィーダーの真ん前の裏に走り込んでパスを受けたいと
意図したとしても、フィーダーがルックアップする余裕のない場合には、ボールは声の発生源に向か
ってクロス気味に出てしまう。これを避けるために言葉選びと概念化が必要である。
どんな言葉を選ぶかは自由だが「パラ〜」などはいいのではないか。タッチラインにパラレル(平行)
にパスを出せ、という意味である。高槻FCでは「まる〜」といっている。算数の授業で「平行」という
べきところを「まる」と答えてしまうほどに「まる〜」に習熟すれば、タテ、ヨコ、クロスのほかに「ヘイ
コー」のパスコースを会得できるのだが、達成できない学年もある。いまだ概念化が十分でない、
ということか。
最後に世紀末に世界の世論を動かした概念化の事例を一つ・・・。
ボスニアが独立する時、ユーゴスラビアはボスニア国内の少数派セルビア人とともに多数派イスラム
教徒を攻撃し、住民の銃をとれる男性を根こそぎ強制連行のうえ大量虐殺した。その非道さ、凄惨さ

を世界に印象づけるために念入りに選ばれた言葉が「民族浄化」(エスニック・クレンジング)であった。
その一語でNATO軍や米軍が動くことになりボスニアの独立が事実上成った。

指導者たるものすべからくコピーライターたらんと努めるべし。


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