絶 妙 プ レ イ は 流 体 視 力 か ら

exquisit plays come from fluid sight

ロナウディーニョの股抜き

April 11,2006



2005年、JFA技術委員会は「観る」ことを指導テーマの冒頭に掲げた。

同じ「観る」でも、より小さいボールを扱う野球、テニス、卓球等では動体視力が強調されるが、

サッカーでは状況観察のほうに力点が置かれている。

野球では、王や長島は、速球のボールの縫い目が見えた、とか、ボールがとまって見えた、とか

よく伝説が話題にのぼるが、サッカーではそのような名文句がない。

今になって唯一関連があると考えられるのは、日本リーグ時代に来日したブラジル人指導者達

が日本サッカーの短所としてあげた「スピードvelocidadeのコントロールができていない」である。

それは速攻⇔遅攻の切り替えレベルが低いと理解されてきた。それはそれで当たっていたが、

今やその言葉からより深い意味を汲み出せる時代に入った。

それを気づかせてくれたのは、ルイ・ラモス・ヴェジットの金、として日韓少年サッカー界で知らぬ

者はモグリとみなされる超大物指導者 金ちゃんである。

わたしが、ドイツワールドカップに出るブラシル代表たちは股抜きするとき、ほかの国の選手が

やるようにアウトフロントで反射的に一瞬の動き<点接触>で抜くのではなく、インサイドでズルズ

ルと押し込むように時間をかけて<面接触で>抜く、[それはまるで黒澤監督の世界的名画『七人

の侍』でスローモーションで相手を切り伏せたシーンを思い起こさせた]、と語ったとき、かれは、

即座に「先生[これはわたしには過ぎた尊称である]、それはまさに高槻FCが理想とする境地で

はありませんか?!  海のイメージ、波動サッカーwaves football!」と応えた。

この瞬間わたしの老いた脳がはたと気付いた。

そうだ、ブラジルサッカーはサーフィンだ。サーファーは流体視力が優れていて波の複雑な動きが
                                        *
スローモーションで見えるのだ。だからニュートンの力学を超えるかのように体のバランスを制御

して沈まないで波に乗れるのだ。波と人の一体化!

ニュートンの重力の法則を超える物理学の新理論は、1905年に発表されたアインシュタインの

相対性理論を嚆矢とする、とされている。わたしは相対性理論についてはまったく無知であるが、

誤解を恐れず言えば、時間という絶対の尺度が光速の世界では相対的になる、と理解している。

ブラジルサッカーの絶妙なプレイは、時間とスピードをコントロールして、一瞬をスローに変えてし

まう域に達している。だから正確、精妙なのだ。ボールと人の一体化!

「観る」ということは対象をここまで精密微細に絞るということでもあるのだ。

日本サッカー界で最大の課題としてストライカー養成が叫ばれて久しい。わたしなどは40年間第

二のKAMAMOTOを待望している。ドイツワールドカップが史上空前のストライカー競演になるの

に、きら星のように輝くゴールハンターたちのリストに日本人の名はない。

少年サッカーの指導者がまず変わらねばならない。チェックの厳しいゴール前であっても、相手の

動きと流れをよく観て、それに応じたスピードとインパクトでプレイする習慣をつけさせよう。

「思いっきし」を最大の禁句にしよう。ロングシュートではかまわないが。

スローシュートで終われ!そしてスローフード、スローライフで人生にもピリオドを。

*流体視力:ゆれる視座から揺れる視野、視点を視ること。固定視座から動く対象を視る動体視

 力との違いを強調したわたしの造語

☆動く画像は「海の素材屋」から借用・・・多謝

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