No Drill
ド リ ル の 弊 害
September 10,2001
前々稿でゴールデンエイジにパーフェクトスキルを目指すのは弊害が多く抑えた方が良いと述べた。その際
弊害として、モチヴェーションの低下とイマジネーションのスポイルをあげた。
完全なるものは、パーフェクトスキルであれ、パーフェクトスリムであれ、苦行によって得られる。楽々得られる
のであれば大いに結構、パーフェクトを目指そう。堪え忍ばないと得られないのであれば12歳までは控えよう。
この点を世界でもっとも早く明確に認識したオランダ協会は、12歳までは No Drill とはっきりと指導指針に
謳っている。そのことを紹介した小野 剛氏は、それは「まずドリルによって一つの技術を身につけ(closed skill)
それを徐々に実戦の状況で発揮できるようにさせていく(open skill)」やり方の反省から「始めから実戦の中で」
技術を身につけるやり方への転換である、と述べている。そのキャッチフレーズがまたいい。
「サッカーはサッカーをすることによって上達する」 *小野 剛著 『クリエイティブ サッカー・コーチング』
さて、ドリルを学力の増進に用いたらどうなるか。受験戦争下の日本ではドリルは学力の一面的機能の向上に
盛んに用いられ、知識の記憶と○×判定で世界一の成果を上げた。しかしインテリジェンスの根幹をなす思考
力、判断力、表現力では、その分、世界におくれをとった。これらは頭脳の総合的機能に由来するからドリルの
援用がむずかしい。
イマジネーションにいたってはドリルと相いれない。想像力の豊かな少年はドリルについていけなくて落ちこぼ
れることが多い。創造と芸術は「東大」からは産まれない。
サッカーの三大構成要素である脳力の向上にドリルを用いたらどうなるか。神経系統の発達と密接に結びつい
ている技術の向上にドリルを用いてはならないことはすでに述べた。技術よりは根幹的な脳力に依存する戦術
についてはゴールデンエイジにはドリル練習を避けたい。前出のオランダ協会は12歳までは戦術不可 No Tac_
tics と決めている。
戦術とドリルについて論じよう。オランダのように協会が少年の全国大会を禁止しているところでは戦術パターン
の練習をやらないから、No Drill,No Tactics で一貫した方針で指導できるが、全国大会のある日本では戦術
パターンの練習は避けられない。高槻FCでも直前の半年はセンターリングとかチョンチョンロングとかの練習を
やる。敵をつけてやればヴァリエーションが多いからプラクティスである。敵無しでやれば単純な動作の繰り返し
になりドリルである。
いずれにしても、ドリルの弊害の他に、パターンでプレイする弊害があることを指導者は肝に銘じておかなけ
ればならない。あと10年間は日本サッカーはパターン化された選手に悩まされると断言しよう。日本全国で個
性の少ない,金太郎飴のような画一的標準選手ばかりが産み出される危険性がある。
14年前の会報で引用した当時の読売特別コーチ、ジノ・サニの少年サッカーへの提言を再録しよう。「日本の
他のチームを見ていると、だいたいいくつかの攻撃や守備のパターンをもっています。そして、このパターンさえ
しっかりおさえれば十分勝てるという状況にあると思います。これは、日本のサッカーが創造性を育て、伸ばす
という仕事をしなかった結果であると思われます。(中略) みなさんは、練習なども、ある程度は自由にやらせ
選手の創造性を大きく伸ばすよう心がけてください。」
それから10年後、名将ベンゲルもまた日本を去るにあたって、少年サッカーのパターン指導に警告を発して、
指導者の教育を急ぐよう提言をのこした。切り抜きが手元に無いので引用はできないが、はっきりと記憶して
いる。<日本人はパターンでサッカーを教えられている。漢字もそうして習うのだろう。>
最後に、わたしは Drillやパターンが悪い、必要ないと言ってるのではない。時期が来たらそれらは不可欠の
練習方法になるが、少年期には危険なまでに弊害が多いと言いたいだけだ。