琢磨会会報43号




森 恕 『関節の固定と緩解』

 人の腕には、上から順に、肩・肘・手首・指と、四つの主要な関節がある。面白いことにその腕を使って他人に力を加えようとすると、人は無意識に腕関節にロックをかけて固定する。勿論、関節自体には固定能力がないから、関係する靱帯や筋肉を使うのであるが、そうすることによって、腕全体は、丈夫な棒状か手刀状態になって、相手に的確で強烈な力を加えることができるようになる。
 力の加え方は、「打つ」「掴む」「押す」「引く」などいろいろあるが、どの場合でもこの関節固定が行われており、例外はない。
 関節がフリーで固定されておらず、腕全体がグニャグニャしていれば役に立たないのでそうするのであるが、私は、そのような関節の固定が「全く無意識に」行われるところに多大の興味を持った。
 それは、そこに「合気」に通ずる大切な真理が伏在していると思われたからである。
 大東流の「合気」は、人の本能的な無意識の動きを引き出して、その身体操作を行う技術であるが、通常その技術は、主として相手を倒したり動けないように固めたりするために用いられている。しかし、その技術が、人の無意識の動きの領域に踏みこんで成り立っているのであるならば、同じ無意識下にある関節の固定解除にも、その技術が応用できる筈である。
 人は、腕を使って他人に力を加えようとするとき、その動作の目的と動作の道具である腕の動かし方までは意識をしていても、その意識は、腕の関節をどうするかということについてまでは及んでいないものである。そして、関節固定は腕の力を込めるために行われているのであるから、逆にその固定を解除してやれば腕から力が抜ける筈である。
 そのような関節の固定もその解除も、何れも無意識下の動きであるところからすれば、それを引き出す技術は、まさに「合気」であり、身体操作のための「合気」と何ら遜色がない。
 寧ろ相手を動かす技術よりも相手の力を抜く技術の方が柔術としてはレベルも高いし奥が深いといわなければならない。
 これこそ「抜き合気」の核心であり、我々がその会得を願ってやまない秘伝の一つである。
 大東流には、相手から、その腕で自分の体に力を加えられたとき、その力を抜き、或いはその力を殺して無力化した上で、逆にその腕を使って相手を攻め、倒したり固めたりする技が沢山ある。
 私は、そのような技を稽古しながら、何故こうすれば相手の腕の力が抜けるのか、そもそも、腕に力を入れるというのはどういう現象が腕に生じているのか、力が抜けるというのはどういうことなのかなど、真剣に観察を続けているうちに腕関節の固定現象を発見したのである。
 私は、人が腕に力をいれたりそれを抜いたりするのは、腕関節を無意識に固定したり緩解したりしているのだということを見つけたとき、腕の力を抜くにはどうすれば良いか、その一般的な方法について、同時にその答を見付けることができたと思っている。
 具体的には稽古のときに説明することにして、今このような紙面に出して公表することは控えたいと思っている。