西日暮里駅は山の手線で一番新しい駅である。営団地下鉄千代田線の連絡駅として昭和46年に作られた。

 西日暮里駅周辺は道灌山と呼ばれ、江戸を開いた太田道灌が江戸城築城の際、ここに出城を築いたことからそう呼ばれてきた。
 有名な進学高「開成高校」がここ西日暮里にあることが駅を降りてから知った。

 江戸・明治の始め頃にかけて、道灌山は「虫聴き」の名所として有名で、秋になると虫の鳴き声を聴きに多くの風流人がここを尋ねたとのことである。特にここで聴くまつ虫の澄んだ鳴き声は江戸一番と言われていたそうである。

 当然なから、今日ではその面影すら感じることはできない。

「たずねきく 道灌山の虫の声 いにしとになりし ひぐらしの里」と独り言を呟きながら歩いていると、突然後ろから「字余り…。」という声が聞こえた。

 驚き振り返ると、夕景の薄明るい光の中で、置物のように座ってこっちを見ている猫と目が合った。

 指折り数えると確かに"字余り"だった。


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