バレンタインデーはモテない男にとっては憂鬱な日でしかない。
「なんか今年もダメそう…」
昼休みの教室。
どことなく浮かれた雰囲気の中、俺は机に伏して、ため息をついていた。
「なーに、ため息ついてるの? 相変わらず暗いわねーあんた」
声をかけられて顔を上げる。
「あ? なんだ夏帆か…」
「なんだとは失礼ね。せっかく声をかけてあげたのに」
幼なじみの楠木夏帆だ。
小さい頃はよく一緒に遊んだものだが、小学校にあがった位からはあまり一緒にはいなくなってた。
高校になった今、たまたま、学校が一緒になり、たまたまクラスが一緒になりしたので、なんとなく、話したり、話しかけられたりしている。
気の強い女で、俺に話しかけてくる時はいつも軽口を叩いて来る。そのくせ、他の連中には優しく、頼られたりしていて、クラスのまとめ役として一目置かれていた。
容姿は悔しいが、美人の部類に入ると思う。猫を思わせる、くりくりした瞳と、短くまとめた髪とが、夏帆の性格をよく表していた。
「お前、今日、何の日か知ってるか?」
「当然じゃない。少しはもらったの?」
「もらってたら、もう少し景気のいい顔してらぁ」
「それはそれは、ご愁傷様」
「お前はくれないのかよ」
「あたしが? あんたに? 冗談言わないでよ」
「義理でもなんでも、大歓迎な気分なんだぜ、俺は」
「あたしはね、義理で男にチョコあげるほど、余裕はないの。欲しいのなら他を当たることね」
「ちぇ…ケチ」
「言ってなさい。じゃあね」
…ったく、何しに来たんだよアイツ。
少しは期待した俺が馬鹿だった。
俺は再び机に伏して、昼休みの終わるのを待つのだった。