◆7月24日<夜>◆
『見送り』
俺達が駅に着いた時は、陽は落ち、すっかり暗くなっていた。
今日はちょっと遅くなっちゃったな。
券売機でキップを買って、俺の方へ来る小野寺さん。
「次の電車まで30分ぐらいあるみたい。宇佐美君、ここまででいいよ。今日は疲れたでしょ?」
「なんだよ、気を使わなくてもいいって。電車来るまで一緒に待つよ」
「本当? ありがとう」
俺達は駅の入り口のすぐ横で時間を潰す。
小野寺さんは花壇のブロックに座り込んで深くため息をついた。
「小野寺さんのほうこそ、今日は疲れたんじゃない?」
「うん。少しね。でも楽しかった。なんか毎日来ちゃってるよね、わたし。ごめんね」
「そんな謝る事ないじゃん。小野寺さんが誘ってくれたから、いろいろな所に行ったり、遊んだりできて有意義だったよ。それより小野寺さんの方が大変だったんじゃないか?毎日来てるんだから電車賃とかもけっこうかかってるんじゃない?」
そうなんだよな。
俺達の住んでる町からここまで往復で1500円くらいかかる。
それに快速電車でも40分位揺られなきゃいけない。
けっこう大変なんじゃないかな?
「大丈夫。わたし、日頃あんまりお金使わないからね。貯金とかけっこうあるのよ。それにこれはわたしが好きでやってる事だから。宇佐美君に迷惑かかってなければいいんだけど…」
「そんな事、全然ないって」
「うん…今日までありがとう。わたしのわがままにつきあってくれて。凄く楽しかったよ。わたしこの四日間の事、ずっと、忘れない」
「え? なんか今日でお別れみたいな言い方だなぁ。大丈夫、また俺が帰ってから、いつもみたいに三人で遊びに行こうぜ。なんか考えておくよ」
「うん。…それでね。宇佐美君、わたし…」
「ん?」
「わたしね…。ううん、なんでもない」
「なんだよ。言いかけて止めるなんてずるいよ」
「ごめん、本当になんでもないの。気にしないで」
笑って誤魔化す小野寺さん。
どうしたんだろう? 言葉を濁すなんて彼女らしくない。
気にはなったけど、俺はそれ以上追求しなかった。
俺も彼女も疲れているせいか、そのあとただ黙々と時間が過ぎるのを待っていた。
「あ、わたしそろそろ行かなくちゃ」
俺は時計を見る。5分前だ。
「もう暗いから気を付けてな。本当なら家まで送ってあげたいんだけどね」
「あはは。ありがと。気持ちだけで十分よ。今日はつきあってくれて本当にありがとう。それじゃあ、またね」
「ああ」
そう言うと軽く手を振って俺は彼女を見送った。
その背中を見て、なんだか凄く胸が締め付けられる思いがした。
やっぱり俺は小野寺さんの事が好きなんだ。
そう改めて思い知らされる。その一方で好きになってはいけないような気持ちも強くなっていた。
彼女の本当の気持ちがどのあたりにあるのか?
そのあたりを考えるとどうも抵抗があるのだ。俺はいまいち彼女に対する気持ちを認められずにいる…と言うより認めたくないのかもしれない。
そんな複雑な気持ちのまま、俺は駅を後にして姉貴の家へ足を向けた。
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