ツンツン。
「ん?」
誰かが俺の制服の裾を引っ張る。
振り向くとそこには聖華院の制服を着た女の子…真澄ちゃんが立っていた。
そうか。校門の向こう側で待っていたんだ。だから学校の中からは見えなかったのか。
「先輩。お久しぶりです」
「真澄ちゃん。心配してたんだぜ。ぜんぜん連絡とれないから」
「ご、ごめんなさい。夏休み前半で遊んじゃったから、後半は勉強で忙しくて…」
俯いて少し涙目になって言う真澄ちゃん。
「おいおい。別に怒ってるわけじゃないから。俺は真澄ちゃんに嫌われたんじゃないかって不安になってただけ。こうして会いに来てくれたんだから良かったよ」
「嫌いになるなんて…そんな事、絶対にありませんっ! あたしも連絡とれなくて先輩、怒って、もうあたしに会ってくれないんじゃないかってずっと不安でした」
「学校まで会いに来てくれるなんて驚いたよ」
「め、迷惑でした?」
「そんなことあるもんか。嬉しいよ。でも…」
さっきから校門から出てくる帰宅途中の生徒達が、興味深げに俺達を見ている。
「ちょっと目立っちゃってるね。じゃぁ、行こうか」
真澄ちゃんは回りを見渡すと、真っ赤になった。
ありゃ、もしかして気付いてなかったとか…。
俺が歩き出すと真澄ちゃんも続いて歩き出す。とりあえず、落ち着ける場所を探そう。
「あの…先輩」
真澄ちゃんが小さなこえでおずおずと俺に話しかけてくる。
「…腕、組んでもいいですか?」
恥ずかしそうに言う真澄ちゃん。
うわぁ、真澄ちゃんも大胆な事、言うようになったなぁ。
俺は腕を真澄ちゃんの方へ突き出すと、真澄ちゃんは大事なものを抱きしめるみたいにゆっくり俺の腕を取った。
真澄ちゃんは顔を真っ赤にして俺の隣にいる。多分俺の顔も真っ赤なんだろうな…。
「運命…なんでしょうか。あの出会いは」
「え?」
俺達は学校の近くにある池の畔につくられた遊歩道を中心とした公園に来ている。
俺達は池のフェンスに寄りかかり水鳥たちが泳ぐ姿を見ていた。
「だって、あんな遠い場所で偶然に出会えたなんて、今考えると嘘みたいな話ですもの」
「じゃぁ、運命に感謝しなきゃな。あの時、真澄ちゃんが俺にぶつからなかったら、俺達は今、一緒にる事できなかったんだから…」
俺は夕焼けの空を見上げて目を細めた。
あの夏の日に俺があの海に行かなかったら、今の二人はいなかっただろう。運命とかはよく分からないけど、俺達があの日出会えた事実。それをずっと大切にしていきたいと思う。
「宇佐美先輩」
「そうそう。先輩はもう止て欲しいな。俺たちはもう先輩後輩の関係じゃぁないんだから。名前で呼んでいいよ」
「それじゃあ…ま、まことさん」
うわぁ、自分で言っておいてなんだけど、実際に呼ばれるとなんか照れ臭いな…。
「これからも、わたし、ずっとまことさんの隣にいてもいいですか?」
潤んだ目で俺の顔を見上げる真澄ちゃん。
うう、なんていじらしいんだ。
俺は優しく真澄ちゃんの手を握る。
「君が嫌だと言っても俺は隣にいるよ」
「…まことさん」
真澄ちゃんは心底嬉しそうに俺の肩に顔を寄せた。
彼女と過ごしたあの一週間の思い出。そして今、彼女が隣にいる事実。そしてこれからの事…。
あの夏の日の出会いで俺の未来は変わった気がする。
本当なら二度と会うことのなかった女の子。彼女の気持ちを知ることなんて永久になかっただろう。
俺は偶然の出会いに心から感謝したい。
これから彼女と共に歩む未来はどんなだろう。これからも続いていく二人のセレナーデ。偶然によって奏でられたあの夏の日のプロローグを俺は決して忘れる事はないだろう。
俺の隣でただ静かに身を委ねている少女の温かさを感じながら、俺は幸福感をかみしめた。
【HAPPY END】
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