プロローグ(4)

 
 
 まぁ、嘆いていてもしょうがない。せっかくだから泳ごうぜ。
 俺は立ち上がって海に向かって歩き出す。

 うわぁ! 今日は波が高いなぁ。
 う〜ん。波があればこそ海! 荒波に向かってダイブだ〜!!

 俺は波に向かって走り、膝まで海につかるくらいの所まで来ると、思いっきり飛び込んだ。

 …て、なに俺は一人ではしゃいでるんだ?
 なんか余計に虚しくなって来たぞ。

 「うわぁぁ! どいて、どいてくださいっ!!」
 「え!? うわぁぁぁ!」

 その声に振り向くと、ボディーボードに乗った女の子が突っ込んできたっ。
 牽かれるようにぶつかって海に倒れる俺。

 ふえぇぇ、鼻をぶつけちまった。あ痛たたた…。

 「痛ぁぁ…」

 ぶつかって海に放り出された女の子が立ち上がる。

 まったく、ちゃんと安全を確かめてやれよな…っておお! なかなか可愛いぞ。

 俺より少し年下。細身のスラッとした感じの女の子だ。ウエットスーツ姿で長い髪を後ろでまとめている。

 「ご、ごめんなさい。大丈夫でした?」
 「え…ああ、なんとかね」
 「ホントにごめんなさい。それじゃぁ」
 「あっ、ちょっと…」

 勢いよく頭を下げると、彼女は逃げるように岸の方へボードをこいで行った。

 しまった!声をかければよかったかな?
 まぁいいや。俺も浜辺へ上がろう。

 さてと…姉貴達もまだ海から戻ってないみたいだし、肌でも焼くか。

 俺は姉貴が持ってきたビーチチェアに腰掛けると、目をつぶって体を休める。何気なく辺りの音に耳を傾けた。すると隣に陣取っていたグループの話し声が聞こえる。

 「まったく、この娘ったら、ドジなんだから。知らない男の子にぶつかってやんの」
 「だって、由希子姉さんみたいに、まだ上手くないから…」

 おんや?
 俺は横目で声の主を見る。

 片方はさっきぶつかった女の子じゃないか。俺のパラソルのすぐ隣だったのか…。
 おお、もう一人もなかなか…こっちはどちらかというと美人の部類だ。

 「ちゃんと謝ったの?」
 「謝りました!」
 「一方的に謝って、ハイさよならで、そのまま戻ってきたんじゃないの」
 「そ、そんな事ないもん」
 「いつもそんな感じだから真澄は彼氏が出来ないのよ。少しは積極的になりなさい」
 「まぁまぁ。その奥ゆかしさが真澄ちゃんのいいところだしね」

 不意に3人目の声が割り込む。男の声だ。

 「俊治は黙ってて!」
 「……」

 なんだ…彼氏付きか。
 彼女の横には俺より年上だろうか? 少し気の弱そうな細身の男がいた。

 「まぁ、いいわ。じゃぁ、そろそろ帰るわよ。あたしたちは着替えてくるから、真澄は後かたづけをお願いね」
 「そんなぁ…私一人で?」
 「え? なに? かわいい従姉妹がボディーボードをしたいって言うから、連れてきてやったのに、言うことが聞けないってわけね…ふ〜ん。本当なら俊治と二人きりのデートだったはずなのになぁ」
 「…わかった! わかりました!」
 「じゃぁ、行こ、俊治」
 「いや、でも、一人じゃ可哀想…」
 「行・く・わ・よ!」
 「はい…」

 なんだかな…。

 でも、待てよ?
 真澄って名前、聞いた事あるなぁ…もしかして、あの真澄ちゃんだろうか?