まぁ、嘆いていてもしょうがない。せっかくだから泳ごうぜ。
俺は立ち上がって海に向かって歩き出す。
うわぁ! 今日は波が高いなぁ。
う〜ん。波があればこそ海! 荒波に向かってダイブだ〜!!
俺は波に向かって走り、膝まで海につかるくらいの所まで来ると、思いっきり飛び込んだ。
…て、なに俺は一人ではしゃいでるんだ?
なんか余計に虚しくなって来たぞ。
「うわぁぁ! どいて、どいてくださいっ!!」
「え!? うわぁぁぁ!」
その声に振り向くと、ボディーボードに乗った女の子が突っ込んできたっ。
牽かれるようにぶつかって海に倒れる俺。
ふえぇぇ、鼻をぶつけちまった。あ痛たたた…。
「痛ぁぁ…」
ぶつかって海に放り出された女の子が立ち上がる。
まったく、ちゃんと安全を確かめてやれよな…っておお! なかなか可愛いぞ。
俺より少し年下。細身のスラッとした感じの女の子だ。ウエットスーツ姿で長い髪を後ろでまとめている。
「ご、ごめんなさい。大丈夫でした?」
「え…ああ、なんとかね」
「ホントにごめんなさい。それじゃぁ」
「あっ、ちょっと…」
勢いよく頭を下げると、彼女は逃げるように岸の方へボードをこいで行った。
しまった!声をかければよかったかな?
まぁいいや。俺も浜辺へ上がろう。
さてと…姉貴達もまだ海から戻ってないみたいだし、肌でも焼くか。
俺は姉貴が持ってきたビーチチェアに腰掛けると、目をつぶって体を休める。何気なく辺りの音に耳を傾けた。すると隣に陣取っていたグループの話し声が聞こえる。
「まったく、この娘ったら、ドジなんだから。知らない男の子にぶつかってやんの」
「だって、由希子姉さんみたいに、まだ上手くないから…」
おんや?
俺は横目で声の主を見る。
片方はさっきぶつかった女の子じゃないか。俺のパラソルのすぐ隣だったのか…。
おお、もう一人もなかなか…こっちはどちらかというと美人の部類だ。
「ちゃんと謝ったの?」
「謝りました!」
「一方的に謝って、ハイさよならで、そのまま戻ってきたんじゃないの」
「そ、そんな事ないもん」
「いつもそんな感じだから真澄は彼氏が出来ないのよ。少しは積極的になりなさい」
「まぁまぁ。その奥ゆかしさが真澄ちゃんのいいところだしね」
不意に3人目の声が割り込む。男の声だ。
「俊治は黙ってて!」
「……」
なんだ…彼氏付きか。
彼女の横には俺より年上だろうか? 少し気の弱そうな細身の男がいた。
「まぁ、いいわ。じゃぁ、そろそろ帰るわよ。あたしたちは着替えてくるから、真澄は後かたづけをお願いね」
「そんなぁ…私一人で?」
「え? なに? かわいい従姉妹がボディーボードをしたいって言うから、連れてきてやったのに、言うことが聞けないってわけね…ふ〜ん。本当なら俊治と二人きりのデートだったはずなのになぁ」
「…わかった! わかりました!」
「じゃぁ、行こ、俊治」
「いや、でも、一人じゃ可哀想…」
「行・く・わ・よ!」
「はい…」
なんだかな…。
でも、待てよ?
真澄って名前、聞いた事あるなぁ…もしかして、あの真澄ちゃんだろうか?
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