
interview 1997
「ザ・ドロップ」は久しぶりの新作ですが、一番の特徴はなんですか?
新作には、長く私の中にあったがあまり作品として表現されていなかった要素が入っているんだ。ひとつはアフリカ音楽の要素、特にナイジェリアのミュージシャン、フェラ・クティの音楽からの影響が出ている。中でもパーカッシブであると同時にメロディックなベースの使い方に引かれているんだ。二つ目は、70年代から素晴らしいサウンドをつくっていたマハビシュヌ・オーケストラの影響だね。彼らはとても複雑で長い、迷宮のようなメロディを作っていたんだが、その音楽の構築の方法がとても気に入っていたんだ。
アルバムの製作期間はどれくらいでしたが?
ここ3年半の間に250もの新曲を書いたし、集中して作ったわけではないから、はっきりとは言えないよ。例えば1,2曲目はワン・テイクのライブ・パフォーマンスで数分しかかからなかった。最後の曲は数ヶ月の間に数回やり直した。残りの曲は何度かやり直しているといった感じだ。
4曲目の「コーナード」では、旋律に日本的なものが見え隠れしていますが、どこかでそれを意識したのですか?
確かに日本的だけど、意識はしなかったね。日本的に聞こえるのは黒鍵を多く使ったからじゃないかな。黒鍵を使った方がずっとリズミカルな音になるんだよ。鍵盤のレスポンスが速いから、黒鍵をよく使うんだ。
アルバム・タイトルでもある“ザ・ドロップ”という言葉は、あなたの提唱する新しい音楽の形でもあるそうですね。
新しい音楽の形であって欲しいと思っている、と言うべきだったね。私はそう思っているが、みんなが同意してくれるかどうかは分からない。
そのネーミングの由来は?
サウンドにどこかへ連れて行かれて突然落とされるような感じがあるからだよ。メロディはどこかへ連れて行ってくれるんだが、その後置き去りにされるんだ。リズムもある程度そういう感じがする。バランスの取れていない感じで、穴に落ち込んでしまうような気持ちになる。ちなみにレゲエもドロップするんだ。強く引っ張られると思うところに穴があいている感じなんだよ。私のサウンドはレゲエほどドロップしてないけどね。
最近あなたが開発にも携わったSSEYOの音楽制作ソフト、Koan Pro はこのアルバムでも使われたのですか?
いや、使わなかった。Koan Proは全く素晴らしいプログラムだが、一つだけ問題がある。サウンド・カードAWE32がかなりノイジーで、レコーディングしたものをプロセスしようとするとデジタル・ノイズがかなり出てしまうんだ。だから今回のアルバムでは使わなかった。だけどKoanProは音楽の未来の一端を担っていると言っていいだろう。
シンセで音を作るときには、まず何から始めますか?
大抵は既存の音から始めるんだ。私はレコーディングで以前使った音はまず2度と使わないから、曲に取り組むときにこういう音が必要だなと思ったら、まずそれに近い音を取り出してエディットするんだ。その時私は音をプログラムするだけではなく、エフェクト・プロセッシングも同時にする。つまり、最終的にテープに落とすときの音にしてしまうんだよ。ほとんどの人は、まずシンセで音を作って、それからレコーディングして、その後でリバーブなどを加えるけど、私はすべて同時にやるんだ。
あなたのスタジオの写真にはJELLINGHAUSのDX7Programmer(YAMAHA DX7の全パラメーターに対応したつまみが用意された外部エディター)が写っていたんですが、それは使ってないのですか?
あれは興味深いマシンだ。最近は故障してて使ってないけどね。あれの一番いいところは、ふたつのパラメーターを同時に変えることができるということだね。普通のデジタル・シンセだと、ふたつのパラメーターがどう影響しあうかを試すことはできないからね。
あなたは特に耳で音作りをしているようですが、プログラムに独自のメソッドはありますか。
特にはないよ。こうすれば大きな違いが生まれると分かっていることは幾つかあるけどね。でも私は常にプロセスのことも考えて、音と曲との関係も常に考えている。何らかの音から始めて、それが作っている曲の景観に合うまで手を加えていくんだ。
今回のレコーディングで使われたシンセはなんですか?
DX7とEMSとProphetVSだけだ。EMSは本当に素晴らしい楽器だね。将来このようなデザインの楽器がもっと生産されることを保証するよ。
DX7以外にもFM音源のシンセはありますが、あえて初期のものを使っている理由は?
DX7に慣れているからね。DX7の操作環境は(GREY MATTER)E!によって随分と変わったよ。YAMAHAはあの会社を買い取るべきだったと思うくらいだ。シンセのデザインは工場から出荷された時点で終わるのではなく、むしろそこから始まるんだよ。人が使い始めて、その楽器で何ができるかが分かるようになるんだからね。リペアで戻ってきたDX7の80%はファクトリー・プログラムのままだとメーカーから聞いたが、ユーザーの使用状況が記録できるメモリー・カードをシンセに内蔵して使い出してから1年半か2年後にシンセをメーカーに貸し出せば100ドルもらえるというシステムをメーカーが設けたらどうかと思うよ。そうすれば、人々がどのように楽器を扱っているかが分かるからね。いつもやっている重要な作業は楽になるし、電池交換などの滅多にやらないようなことは不便でもかまわない。それらをすべて均等なオプションとして提示するから、とてもぎこちないデザインになってしまうんだ。優先順位はぜひとも付けるべきだよ。
最近のシンセにはむかしのアナログ・シンセのようなインターフェースを付けているものも多いですが、そういうものについてはどう思いますか?
確かに良くはなっているよ。中でも飛び抜けていいのがNordLeadだ。弾くにはとてもいいマシンだよ。欧米のデザイナーは、ミュージシャンがマニュアルなど読ます、すぐに結果に結びつけたがることを知っている。ミュージシャンは忍耐力がないから、そういう人たちにあったデザインをするんだ。ありがたいことだ。一方日本のデザイナーは、ミュージシャンが分厚いマニュアルを1週間もかけて最初から最後まで読むものだと思っている。これはひとえに文化の違いによるものだろうね。日本のミュージシャンは、シンセ・メーカーから見ると非常に従順だ。ところがアメリカのメーカーは、ミュージシャンが言われたことなどするものかと思っている。私は楽器を手にしたらすぐに弾き始め、何かが起こらないといけないと思うよ。
次世代のシンセシス、たとえばフィジカル・モデリングやグラニュラー・シンセシスといった新しいテクノロジーには興味がありますか?
YAMAHAのフィジカル・モデリングにはすごく興味がある。これは素晴らしいアイディアで、知的な部分がとても刺激されるよ。ああいうものができておめどとうと言いたいね。新しい製品も出ただろう?名前は知らないんだけどね。
AN1xですか?
そう、あれは結構イケると思った。シリアスなミュージシャンでいまだにDX7ばかり使っているのは世界中で私しか居ないだろうが、そろそろ変えてもいいと思っているんだよ、YAMAHAの諸君!あのツマミがあってうれしいよ。これこそが未来なんだ。未来は過去に存在しているんだから、過去からも未来は見つけられるんだ。
あなたが望む新しい音源などはありますか?
ここで私の素晴らしいアイディアを披瀝しよう。これで大儲けができる人がいるはずだよ。エレクトロニクスがどうしてつまらなく聴こえるかというと、少数の原子の動きを増幅させた音に過ぎないからなんだ。一方本物楽器の場合は、何百万という原子が飛び交っていてもっとずっと複雑なんだ。だからエレクトロニクスでいかにそういった複雑な構造を生み出せるかと言うことを私は考えたんだ。基本的に3台のシンセサイザーの音を重ね合わせるんだ。つまり、同じサーキット・ボードを3枚用意するわけだ。1枚目のサーキット・ボードは100%の信頼度を、2枚目のサーキット・ボードは90%、そして3枚目のサーキット・ボードは70%の信頼度を持たせる。つまり、3枚のサーキット・ボードで様々なバリエーションが得られるということだ。この3つをミックスさせると、とてもピュアな音でも、とてもぎこちなくて複雑な音でもミックスすることで素晴らしい音になるんだ。これを実践するのに金などかからないよ。何故実践されないんだろう。
ほかに望むものはありますか?
トーン・コントロールを付けてほしいね。どんな安いエレキ・ギターにもトーンコントロールは付いている。シンセにもたったの一つのツマミがあれば、鮮やかな音から地味な音まですぐに作れるのにね。
興味深いアイディアを色々お持ちですね。
このようにアイディアについて話すのは好きなんだ。話し始めると本当にエキサイトするよ。だけど、問題は私は自分自身について語るのが嫌いだということなんだよ。自分自身についてだと、どうもはっきりとしたことが言えなくなってしまう。
シンセを操作するときにはツマミなどが使われていますが、ツマミ以外のインターフェースのアイディアはありますか?
以前YAMAHAは素晴らしいものを発明したが、あるキーボードに付けただけで、それっきりになってしまった。彼らがCS80で採用したキーは、左右に揺するとビブラートがかかる、非常に明確かつ使いやすいものだった。弦楽器かギターのような感じで使えるんだ。その後何年かは、私はその癖が付いてピアノを弾くたびに何とかビブラートを出そうとしていたんだよ。だからまずそれを付けて欲しいね。
もうひとつは、これもCS80に付いていた長いピッチ・ストリップ(リボン・コントローラー)だ。あれは素晴らしかった。ミュージシャンはあのような肉体的動作がプレイの一部になるのが大好きなんだよ。キーボードでの問題は、キーボーディストがとても限られた動きしかできないということだ。ドラムやギターやベースを弾いている人たちはみんな派手な動きをしているだろう?あれが楽しいんだよ。でもシンセ・プレイヤーがそうしているのを見たことがあるかい?指以外の自分の体を忘れないことが大事だよ。音楽は指以外からも生まれるんだ。
終
Keyboard Magazine 1997.09