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interview 1997

 


 

 

中谷美紀さんにとって生涯の()アイドルのひとりだというブライアン・イーノ氏(ちなみに他のふたりはビル・エヴァンスとモチ、教授こと坂本龍一)との、初の顔合わせが実現した。かたや最近、ひさびさのソロ・アルバム『ザ・ドロップ』を発表し、昨今のラウンジ・エレクトロニカ・ブームに一石を投じてみせたアンビエントのオリジネイター、かたやこれまでどおり教授のプロデュースによる最新シングル『いばらの冠』をリりース、9月には2ndアルバムも控えた可憐なシンガー?とも思える組み合わせだが、実はこのふたり、意外にも共通の趣味があったのである。

 

 

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−−中谷さんはイーノさんのどんなところに惹かれてらっしゃるんですか?

 

ブライアン・イーノ(以下E):髪形じゃないの?

 

中谷美紀(以下N):(笑)いえいえ音楽ですよ。昔、音楽を聴けなくなったことがあったんですけど、その時にイーノさんの音楽と出会って、それが薬のような働きをしたんです。

 

E:それはよかった。そう言ってもらえてうれしいよ。

 

−−中谷さんはイーノさんのニュー・アルバムはお聴きになりましたか?

 

N:はい。ソロ・アルバムは『ネロリ』以来ですよね。でも前のアルバムとはだいぶ違ったものを感じます。音がすごく増えた感じがしました。“ネロリ”というのはオレンジの花(橙花油)という意味なんですか?

 

E:そのとおりだ。

 

N:あなたがアロマテラピーに興味があるという話を聞きましたが、私もそうなんです。

 

E:実は私はアロマテラピーだけでなく、香水そのものに興味があるんだよ。香料をたくさん持っているんだ。800種類ぐらいになるかな。すごく珍しいものもあるんだよ。今つけているものも、とてもとても珍しいんだよ。嗅いでごらん(といって腕を差し出す)。すごく素敵な白檀でね、30年ものなんだ。

 

N:ビンテージですね、白檀は私も持ってますけど、ふつうに市販されているものなんです。どこで手に入れたんですか?

 

E:実はパリのコレクターからもらったんだ。彼はとてもいい香りのサンプルを持っているので有名でね、琥珀の世界的権威なんだ。宝石の琥珀ではなく、香りの調合のための琥珀だ。琥珀が実はクジラの吐瀉物だというのを知っているかい?彼はもう75歳だけど、一生をかけて香りの研究をしてきたんだ。その彼がこの香りを嗅がせてくれたんだ。1980年にもらったんだが、もうあとわずかしか残ってなくてね。

 

−−意外な方向に話が進みましたが…。

 

N:すみません(笑)。

 

−−中谷さんにとって、イーノさんの音楽とアロマテラピーの香りはどこか似てるんじゃないでしょうか?

 

N:そうですね、本当に音楽が嫌いだった時にイーノさんの音楽を聴き始めて、CDと一緒にアロマテラピーの香りを焚いて、さらに明かりを調節して、自分にとって一番リラックスできるような環境を作って、そこで安眠に入る、あるいは呼吸法とともに、瞑想じゃないですけども、自分の心と体のパランスを取るということをしていったんですけど、それはやっぱりイーノさんの音楽なしには考えられないです。

 

E1978年にアンビエント・ミュージックに関する初の論文を書いた時に、私は“ある雰囲気のような音楽、光の状態、あるいは香りのような音楽を作りたい”と述べたんだ。君が感じたことは私が感じていたことにとても近いと思うね。

 

N:ありがとうございます。

 

E:逆に僕のほうから質問してもいいかな?君はどの香料に興味があるの?

 

N:マジョラムとメリッサです。

 

(以後、香りに関するふたりのトークが延々と続きましたが、やむなく省略します)

 

N:イーノさんの部屋には4枚ぐらいしかCDがないという話を聞いたんですが、本当なんですか?

 

E:あのね、私は音楽を、聴くのはあまり好きではないんだよ。ちょうど君が体験したのと似た問題を私も抱えているんだ。私が音楽を作っているのは、自分で聴きたいものがほしいからなんだ。そして私が音楽を聴きたいと患うのは、自分が一緒に歌いたいからなんだよ(笑)。私が聴く音楽で、私以外の人のものというのは、私の音楽とはおよそかけ離れたものだね。まったく違うものを聴きたいんだ。よくオービタルやエイフェックス・ツインについてどう思うかと聞かれるんだが、実はあんまり聴いたことがないんだな。ところが50年代の男性ゴスベル・グループについて尋ねられたとしたら、かなり詳しく答えられるよ。

 

N:ブルガリアン・ヴォイスはどうですか?

 

E:素敵だね。

 

N2年前に東京で行われたブルガリアン・ヴォイスのコンサートヘ行ったんですけど、素晴らしかったです。鳥のように歌えるんですよね。

 

E:素晴らしい伝統だよね。私はレコードをかけながら歌うんだよ。私が特に好きな歌の分野はふたつあってね、ひとつはアラブで、これはブルガリアの音楽と似ている。アラブ音楽はいろいろな方向へ広がっていてね、北ではブルガリアやルーマニアの歌になった。もうひとつはゴスペルで、これはアラブ音楽が西アフリカに渡って伝わったものなんだよ。

 

−−中谷さんはシンガーとして、イーノさんの音楽を聴くことによって自分の歌が豊かになったり変化したりするというようなことはあるんでしょうか?

 

N:イーノさんの音楽がそうであるように、日常の空気とか、あるいは家具のようにある音楽というのは、今の私の中ではナンバーワンという感じなんです。ですから自分の曲も、声が主張するのではなく、音楽の中に同じように溶け込めたらなと思っているんです。

 

E:それはとても難しい問題だね。音楽におけるもっとも興味深い試みではあるけどね。声が入ってくると、にわかに聴くものの注目を集めてしまう。風景画を描いたとしても、そこにたったひとリの小さな人物が描かれると、人間はそれに注目せずにいられないんだ。人間はどうしても他の人間に反応してしまう。他の要素より目立たせずに曲に声を入れるというのは、私が長年にわたって悪戦苦闘してきた課題なんだ。声を声としてではなく、あくまでもひとつの音として組み込むというのはとても難しいんだよ。

 

−−そういえば中谷さんのニュー・アルバムには、アンビエントのCDがついた2枚組になるということですが。

 

N:ヒプノセラピー(睡眠精神療法)というものに興味があって、音楽をバックにして自分に語りかける声が流れてくるというものなんです。市販されているテープをたくさん持ってるんですけど、そういうものってほとんど音楽がつまらないんですよ。それなら自分の作品としてやってみようかなと思って。

 

E:それはリリースされたの?enonakatani.jpg (8887 バイト)

 

N:いえ、これからです。

 

E:じゃあ、それで君のキャリアはおしまいになるかもしれないよ(笑)。

 

N:(笑)ありがとうございます。

 

E:いい進み方かもしれないね。

 

1997.8  インタビューと文 佐々木 敦さん  どうも


( hataeno )

 

Oct.1997

「この間、ブライアン・イーノさんと対談したんですが、彼もすごい匂いフェチで、サンダルウッドの香りが好きだとおっしゃってました。私が一番好きなのはマジョラム。ちょっと甘くて、でもしつこくなくて、何にでも効きそうな香りです。あとジャスミンも好き。アロマ・マッサージにも興味があるので、体力的にちょっとキツイけど、マッサージ師になりたいと思うこともあるんですよ」