ENO:平沢進
音楽・映像と様々な分野で先鋭的な活動と続けているブライアン・イーノが、池袋「アムラックス」の最新インスタレーション展(90/9/25〜10/7)のため来日。自らもCGアートを手がけ、映像と音楽両面に深い関心をつミュージシャン平沢進氏との対談が急遽実現した。平沢氏の質問は、より具体的なイーノの作品作りのプロセスに集中し、アーティスト対談にふさわしい突っ込んだ内容となった。以下はその貴重な記録&インタビューである。
(宝島 1990・12・09号から)
平沢:イーノさんは作品制作において無意識手なプロセスとか偶然的な要素を大切にして成果を得てらっしゃるようですが、それはどんな意味があるのでしょう。
イーノ:無意識的といっても全部がそうじゃなくて、僕はなるべくいろいろな道具を使うようにしている。その中には複雑な精神的ツールというのもあって作品制作の最初の段階としては、まずアリバイを一組作る。何かをやり遂げるには骨組みが必要だからね。漠然とした物をあたかも素晴らしい物であるかのように、自分に思いこませるところからすべてが始まるんだ。何事も最初はゴチャゴチャしているものだが、それを嫌がるんじゃなくて楽しまなければいけない。すぐに方付けてしまっては何も生まれてこないんだ。まず自分の頭に情報を与えてグチャグチャにしてみる。それからいろいろな方向に考えが発展していく。もう少し具体的に話しましょうか。
平沢:いや、こういう答え方で。
イーノ:仕事の上でのテクニックというのは、僕にてってすごく面白い問題だから、もし止められなければ一日中でも喋れるよ(笑)。
平沢:(笑)その前に一つの質問があるんですが、いくつかの工程の最初の段階でアリバイを作って、インスピレーションとかアイデアがアリバイの範疇を越えて広がってしまった場合、どう対処するんですか。
イーノ:最初のアリバイ作りというのはある種の焦点を作るだけのもので、実は2番目の段階でいろいろなアイデアが出てきた場合はいつでも変えられるんだ。アイデアというのはクリネックスみたいに使い捨てできるもので(笑)、僕の仕事上の重要なテクニックというのはつながりを壊すことにある。例えばある芸術家が鋼鉄で完全な多面体を作ろうとしていたとする。彼はおそらくそのことだけに集中して、できあがったら終わりって事になるだろうけど、僕の場合は例えば鋼鉄がなかったら木を使ってみようとか、木でやったけどうまくできなかったから違う形でやってみようとか、そのプロセス上でアイデアはどんどん変わっていくんだ。
目標(ゴール)を動かしていくわけだね。何かを作るときには必ずそれを言葉やビジュアルで描写する必要が出てくる。ただ僕はいつも言葉を越えたものを作りたいと思っているから、ある時点で自分の持っていたイメージを捨てなくちゃならない。その次の段階に移るということが面白いし、重要なところだと思う。
------テープレコーダーで音楽を作るときに、意図的に音がシンクロしないようにしたりとか、そういう意図的なズレを生かして曲を作っているという話を聞いたことがありますが。
イーノ:例えばインスタレーションで使う音楽の場合は4台のテープレコーダーを使うんだけど、それはすべて違うスピードで流されている。4つの音の層ができるわけだな。だから、その4台は永遠に新しい音楽を作り出している、どの時点をとっても違う音楽である、という訳なんだ。僕自身は無意識にやるより意識的にやる方が好きだよ。
平沢:今回のインスタレーションでは具体的にどんなアリバイがあって、どんな要素が軌道修正させて、今の形に到達したんでしょうか。
イーノ:東京に来る前、ちょうど僕はイタリアでのショーをやり終えたところだった。そのイタリアでの作品を目の前にして、「そうだ、これを使えば4〜5日しかかからない」と思って東京に来たんだ。だから今回の一番のアリバイはそれだったんだけど、ここについたとたん同じものを作るのはやめようと思った。実はこのインスタレーションは4日でできたものなんだけど、こんな大きな作品を4日で作るのは不可能に近い。でも現実にはできたんだよ。アリバイがあったおかげで、東京に来るまでの間「どうしよう」なんて心配せずに済んだわけだよね(笑)。この作品はすべてここに来てからできた即興の作品だ。締め切りに追われて作った即興だよ(笑)。
僕のショーでは持続的なショーが行われている。例えばスライドにしても始まりもなければ終わりもなく、ずっと続いていく、といった方法が採られている。いつ見ても何かが動いている、何かが起こっている、というような。だけど今回は一日3千人以上の人が来るってことを考慮に入れなければならなかったから、スライドに終わりを作った。そうしないと人が回転しないからね。ここで問題になるのは配置的なこととか、そういう具体的な問題だ。美術的なことからいえば、かけ離れたことに思えるかもしれないが、どのぐらいの人が来て、どのくらいのスペースが必要かといった計算は不可避のものだね。
-----インスタレーションの話題からちょっと離れて、今回の新作アルバムについてお訊きしておきたいんですが、13年間、ソング・アルバムを作らず「ロックのアルバムはもうださない」といった発言もあったイーノさんが、今回ジョン・ケイルとのコラボレーションで「WRONG WAY UP」というアルバムをだすことになったのは?
イーノ:単純にやりたかったからやった、というだけのことだ。それと僕はもう人々が僕のやってることに対して、どうこういうのにはっきり言って感心がなくなたんだ。なにをやってもよいと思ったからやったんだ。僕は今度のアルバムは失敗してもかまわないと思った。その可能性を秘めてるというのも解っていたけど、それでも構わない。皆の精神的カリスマ、リーダーになるのは、もう飽き飽きなんだよ。導師(グル)になるのは簡単だ。でも、もうそんなことにはウンザリだよ。牢獄みたいなものだからね。
-----じゃあ、今後もこれをやろうと決めているわけじゃなくて、自分の活動については割とフレキシブルに考えているということですか?
イーノ:その通り(笑)。アイデアはあるけど、どんどん変わっていく可能性がある。アイデアというのは、そういうものだからだ。実はここ1〜2年の間で、僕の人生においてすごく大事なことがあったんだ。一つは僕の父が死んだこと。もう一つは今年娘が生まれたことだ。その二つが僕にとってとても重要だったのだ、他のことがすべてどうでも良いことに思えてきた。それで今回のレコードってことになったわけだけど、人から「このアルバムは一体なんだ」とか、「どこからこのアイデアが来たんだ」とか言われても一向に構わないし、どうでも良いことだ。
誰でも日常生活の上で自分の価値観というものを持っているけど、例えば娘が生まれたとか、そういう重要なことが起こった場合、今までどんなに重要だと思っていたことでもさして意味を持たなくなる。僕が仕事をする場合は、とにかく完璧なまでに物凄い集中力で取り組む。そして終わったらすべて忘れて頭をカラッポにする。それが僕のやり方なんだ。
終