「シャコシャコ...」
いかにもヤバそうな音がし、ビデオの電源は独りでに落ち、テレビには砂嵐が流れ、そこに残っていた3人は20秒間ぐらいか、硬直した。
「電気系統、切断!」
「これが神への冒涜(ぼうとく)の報いか?(by 運命)」
とにかくこういう状況の時は絶対に余計なボタン操作はせず、まずフタを開けることだ。だが、引っ越しを控えた運命さんのところには工具がなかった。が、好運なことに廊下にドライバーがあり、とりあえず開けることは出来た。テープを見ると見事に切断されており、テープのフタを開けてもテープが無い。
「どうやら最初のテープ残量チェックの時に切られたな」
もはやお先真っ暗な状況で運命さんが続ける
「だが、残量チェックは早送りを最初にするから、もしかしたら肝心の部分は生き残っているかもしれない」
まだ一縷(いちる)の望みがあるようだ。運命さんが続ける、
「もうビクターは買わん」
編集デッキの1台が使用不能になり、マスターテープが切れてしまい、テープをつなぐ工具もないので、それ以上は作業が進まなくなってしまった。まだ最終のつなぎとX68kを使ったテロップの合成が残っているのだが、やむをえず全ての機材と共に引き上げることにした。時計は午前3時をまわっていた。明日は卒業式だと言うのに・・・。流石の自分もこの時は気が重かった。
結局、運命さんは卒業され、実家へ戻るとのことだったのでそこでテープを復活させて、音楽とのシンクロをやってもらうことになり、こちらではそれが送られるのを待つしかなかった。
その間、こちらではテロップの改良をすることにした。最初は完全にタイミングを合わせたものを作り、頭で合わせて後はほうっておいても最後まで再生するものにしようとしたが、どうしてもうまくタイミングが合わず、運命さんのアドバイス通りキーを押すと次のテロップが出るようにした。具体的にはDoGAのタイムチャートファイルの中で「.pause」コマンドを入れて出したい時にリターンキーを押して、それで出たテロップが消える動作は自動にした。
「過去にもこんなことがあったのよ」
そこには正に何事もなかったような完成したビデオが入っていた。だが、それと同時に1つの事実が明白となった。なんと、TVサイズのオープニングはフルサイズを切り貼りした物より短く、即ちTVサイズはスピードが速いのである。
それにより、自作のカラオケ版に合わせて映像を作ったので、TVサイズをそのまま合わせると歌の方が先に終わってしまうのである。これを回避するには頭の辺りのカットを短くするか、フルサイズを編集した歌アリを使うしかない。しかし時間的にそれは不可能で、結局、歌を少し遅らせて合わせているので、冒頭では歌と映像がずれている。
「映像が無事と分かったとたんに曲に文句をつけるとはね」
「・・・人のことは言えないか」