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あの日も雪の中で     

雪の2月、よみがえる思いがある。そう、あの日も大阪には珍しい朝からの雪だった。降りしきる重い雪は湿気を含んで飛行機の翼を覆い、出発便は軒並み遅れていた。寒い朝の第1便午前7時30分発のグラマン・マラード機はもう20分も滑走路の端に止まったまま出発の許可を待っていた。機内では多分「離陸の許可を待っています。しばらくお待ち下さい」と彼女はアナウンスをしていたに違いない。

スポットを出る時に払い落とした翼の雪は20分の間に又うっすらと積もっていた。「大丈夫かな?」多分引き返してキャンセルになるか、もう一度雪を払い落とすかどちらかだな、と考えながら次便の準備におわれていた。しかし、悲劇の機は轟音と共に離陸を開始した。そしてかなり長い滑走の後、操縦かんは引き上げられて、機体は浮き上がった。グーンと持ち上がっていく、ああ出発した、と思った途端、滑走路の端から真っ黒な煙がどっと上がった。

おちた!落ちたんだ!ばらばらと走り出すメカニックの人達、ジープが飛ぶように走って行く、飛行機は滑走路の南端の畑の中にバラバラになって無残な姿をさらしていた。いったん突っ込んで仰向けになったために、まだシートベルトをせずにいた後部の彼女はすっ飛ばされて前部に叩き付けられたのだろう。

髪の毛のこびりついた制帽を残して、美しかった友人は真っ黒な焼けぼっくいになってしまっていた。

降り積もった雪で翼の揚力が失われた事と、気化器の故障も重なっていたのだった。翌朝、再開された伊丹飛行場(今の大阪国際空港)の隅に残された残骸の上を胸のつぶれる思いで飛行した。あれから33年が経つ、毎年2月の雪が降ると、上空からみたあの残骸と彼女の顔が浮かんで来る。

2月は私にとって鎮魂の月になって久しい。 (1983.2.18.)

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