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高齢者運転講習

一枚の葉書が舞い込みました。高齢者運転講習のお知らせです。まだまだ先の事と思っていたせいでしょうか、少し心がウロウロして、ドギマギしてしまいました。70才を越えたら、いよいよ「高齢者」なのだと思い知らされた感じです。葉書に列挙してある自動車学校の中から、一番近くて行きやすい所を選んで予約をすませました。

その日は、何かやろうとすると、必ず雨が降るという、稀代の雨女にしては、万に一つとでも言いたいような晴天無風の日でした。なんとなく気をよくして勇んで出発いたしました。前日に、この高齢者講習では先輩であり、数回の経験をしている連れ合いに、受験のノウハウを聞いてみましたら、

「な〜んも問題あらへん、いつものままやればいいんや、簡単や!」
と、何の参考にもならないことばかり言うてくれました。まあ運転はけっこうしていますし、大丈夫でしょう。駐車場に着くとイッパイの車で、中程の狭いところが一カ所だけしか空いていません。うわ〜嫌な場所、、と思いましたが仕方ありません。切り返し数回でやっと車を納めました。なんや先が思いやられます。

会場となったH自動車学校はかなり古い建物ですが、けっこう活気があって、若い人がたくさんたむろしています。コースはとても広々しているから、少し好感度はUPしました。手続きを済ませ、講習料5,800円也を払い込んで(けっこう高額ですね)今風の自動車学校なるものを、あらためて見まわしました。レストランと待合室、新聞雑誌、自動販売機と、至れり尽くせりで、昔とは大違いです。

免許を取ったのはもう50年以上も昔ですから、こんなすばらしい自動車学校は勿論ありません。運転したければ道路で練習するしかなかったのです。でも、いくら道路でボロ車を動かすことが出来ても、法規運転が出来なければ、試験は通りません。試験場でパスするには、正規コースの法規的な走り方を知らなければなりません。

少し離れた街に自動車教習所なるものが出来て、コースが造られ、数台のボロ乗用車があるのを知りました。ここで何回か走らなければ、とても合格は出来ないということでしたから、学校が春休みになると急いで帰省し、朝早く起きて、内緒で弁当を作ってもらい、汽車に乗って、20キロほど離れたその自動車教習所なるものに通いました。

駅に着くと、教習所までの1キロほどの道を一目散に走って、前を歩いている男の人を何人か抜きました(当時の教習所は男性ばかりでした)。少しでも早くコースを予約しないと、午後になってしまうからです。

あの頃の田舎町には乗用車なんて、数えるほどしかありませんから、路上で運転の練習が出来ました(!)、公園の空き地で、ギヤーをローにいれたまま、ぐるぐると走り回ったりしても、とがめられることもなかったのです。いつもローにしか入れませんから、父親の会社から持ち出した小型トラックは、すぐにエンジンが焼きついて動かなくなりました。そのたびに母親に叱られ、「今に嫁に行けなくなる!」と言われ続けていました。それでもどうしても運転がしたかったのです。母にとっては、手に負えない娘でした。

少し運転が出来るようになると、勝手に遠出して、帰り道への方向転換が出来なくなり、田んぼにずり落ちたこともありました。泣きべそ半分でエンジンをふかしているのを見かねてか、田んぼで働いていた人たちが、みんなで寄ってきて、クルマを持ち上げてくれました。やっとの思いで家に帰り着き、母親に話しますと、母親は驚き、呆れ顔で、引き上げてくれた人達への「お礼の一升瓶」を包みながら、「おまえはバカだ、みっともない」と、何度も何度も私を叱りました。忘れていたこんな事を思い出したりしながら、講習開始を待ちました。

教室には五人の老人がいました。ジジA.B.C.と、ババA.B.です。三台の運転シュミレーションの機械と、目の検査のための機器が並んでいます。しばらくして、ニコニコと笑顔のいい、優しそうな若者と、きっと警察の天下りだと思われる、尊大な感じの年かさの男性とがペアで現れます。二組に分けられて検査が始まりました。

隣でドッスーンと音がしたので、慌てて横を見ると、ババBさんがシリモチをついてはる、、驚いて引き起こそうとしますが、重くて持ち上がりません。指導員が手を貸してやっと起き上がりはったけど、コロ付きの椅子だったから、椅子が後ろに逃げたのを、押さえきれなかったようでした。老人が対象なのですから、固定の椅子にした方がいいんじゃないの、、

「大丈夫ですか??」、、自分も気をつけなアカンわ〜、、

最初は、いきなりの運転シュミレーション、信号を的確に見て、すぐにブレーキが踏めるかという、反射能力のテストです。まるでPCのゲームのようで、ラインが入った道路を横に行ったり来たりして、ラインを踏まないようにハンドルを切りながら、現れる信号を見て的確にブレーキを踏めというものです。

「青」ならアクセルを踏み続け、「黄色」ならアクセルをはなし、「赤」なら素早くブレーキを踏み、すぐにアクセルに戻れ、ということでした。一通りの練習の後、スタートとなりましたが、ラインを引っかけずに横に動くことはかなり大変です、黄色が現れたら思わずブレーキを踏みそうになったり、慣れてきたナ、、と思ったら「終了!」え〜っ?!

隣のジジAさんが、「うわ〜っ!練習しないとうまくできないダ〜」と悲鳴を上げてくれはったので、同調して「ほんまやね〜、、慣れたと思ったらもう終わりやモンね〜」と付和雷同してみました。さっきこけはったババBさんは「そんなに早くは出来ないダ〜」と、渋い顔です。

前列のジジBさんとジジCさんは、だんまり、、かなり慣れてはる感じデス(笑)。

尊大な方の指導員が回ってきて、のぞき込むから、「あ〜あ、、いっぱい間違ってしもうた」と言いますと、
「いや、そうでもないよ〜、やや優れているって結果が出てる」、、(この人、みてくれほど怖くはないんだ、、)へえ〜?あれでそうなんや、、そんなら、まあいいか、、気をよくして次の目の検査に挑みましたが、これはとんでもない結果でした。

静止視力も動体視力も、ぎりぎりの線です。特に、明るい所から暗い所へ入った時の、眩光下視力は最低で、50秒たってもまだ対象が見えてこないのでした、愕然とします。目は良かったはずなのに、やはりトシだと思い知らされました。

次はいよいよ運転検査(担当がニコニコさんの方でよかった!)、古い型式のクラウンに3人でモソモソと乗り込みます。ジジAさんは一番最初の運転でしたから、ガチガチの緊張が肩に現れてはる。優しそうな若い指導員が何か言うたびに「ハイ!かしこまりました!」って言いはるから、気の毒になってきます。(そう言えば、昔の教習指導員は、やたら尊大で、偉そうに威ばっていましたから、ジジババ世代は、つい「したて」に出る癖がついてしまったのかもしれません、、)

「そこを右へ、ここでバック、ここは乗り上げたらすぐにブレーキ」などとこまごまと親切な指示が出ます。「ハイ!かしこまりました!」とジジAさんは終了です。

次はこのババAの番です。乗り込んでみれば運転席が近すぎる、どうしようと一瞬思いましたが、グズグズしたくなかったので、そのまま行くことにしました。サイドブレーキを外そうとして左手が宙に浮きます。いつもの手慣れた場所ではなく、旧式なブレーキは、真横にあって、押し倒すタイプです。指導員は「いつもあるところと違うもんね、サイドは横で〜す」と親切な助言、慌て者のババAは、急いで出発しようと右指示器を出しました。

「その前にシートベルトして下さい!」「アッそうか、、」いつもはするのにやっぱり慌てている。減点だろうナ、、

なんとか指示通りに走りは終了です。「かしこまりました!」のジジAさんは、「上手でしたヨ」とお世辞を言うて下さるが、車庫入れは深く切り込み過ぎて前輪が外れそうだったし、散々です。次のババBさんは、歩く時には杖をついておられるにもかかわらず、運転はまあまあ無難にこなされました。

ニコニコ指導員が言います、

「ジジAさん、ババAさん、今のコースで「止まれ」の標識は何カ所ありましたか?」

エッ?!何カ所ったって、、指示通りに運転するのに精一杯で、何カ所って言われても、、「止まれ」なんてありましたっけ?

ジジAさんは「何カ所かあったような気がするけど、見えてなかったのかもしれんわナ」とおっしゃる。

では模範運転をしてみますから、3人ともしっかり見ていて下さい、と指導員が運転を始めた。確かに逆三角形の止まれ札のある交差点があった。

「でも、ここは両側に壁がせり出していて、見通しが悪いので、確認をと思ったから、しっかり止まったと思います」

と申しましたら、

「二人とも止まっていません!これからそれを再現しますから、止まったか止まらなかったかを考えてみて下さい」

指導員は走り出して、交差点で止まった、、、いやまだ動いているかナ、、という感じでズルッと曲がります。

「どうですか?」って聞きますから、思わず

「止まってヘンわ、、、」

「そうでしょ!止まってヘンでしょう!二人ともこの止まりかたでした。警察の取り締まりでは必ず挙げられますヨ!警官はタイヤを見てますからね」

ちゃんと左右の安全を確認したから、いいやないの!警察は、もっと悪質な違反を取り締まればいいのに、、と内心毒づきましたが、黙っていました。すると突然ババBさんが、発言です。

「私は、ちゃんとここでは止まったダヨ〜!」

するとニコニコ指導員は、

「あなたの時は、丁度右から車が来たから、止まるのは当たり前なんです」・・・・・

ギャハハハハ、、と笑い出したいのを懸命にこらえました。

ジジババ運転講習初体験は、マンザイのように終了しました。はたしてこの次は、あるのでしょうかね、、(笑)   2010.1.22


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