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彼岸からの宅配便


枯れきった枝が折れるように父親が逝きました。
炉から出されたばかりのお骨台の周りは、まだ熱気が立ちこめていて、覗き込む人の頬を温かく包みました。97才の天寿を全うして逝った父親の骨は、嵩が少なく、僅かな量の白い破片となって、そこにありました。あの戦争を戦い、強運にも生還をはたし、激務に耐えて生き抜いた父親の骨にしては、かそけく、パサパサとつぶれます。すべて使い切った一生だったのでしょう。

2週間程たった日、クール便が届きました。故里からの「枝豆」です。毎年夏になると、甘くて美味しい枝豆が実家から送られてきていました。送り主欄には父の名前が書かれています。もうこの世に居ない人からの宅配便でした。

亡くなる一週間ほど前に、「今年もH子に枝豆を送ってやってくれヤ」と、妹に頼んでいたのだと知りました。最後までボケもせず、毎日TVでスポーツ観戦を楽しんでいた父、特に野球に関しては、まるでルールブックのように何でもよく知っていました。静かで、家では声を荒らげることもない人でしたが、講演会などでの演説は、はっきりとして分かりやすく、聴衆を掴むのが実に巧みでした。

家庭や子供のことは母親任せでしたが、姉弟4人の入試と入学式は、総て父親が同行してくれました。思い出せば、きりがありません。


夕食時、ことのほか枝豆が好物である連れ合いジジは、父が亡くなった真夜中には、誰もそばに居ることが出来なかったという話を聞き「お父さんは淋しかっただろうナ、」と、枝豆を食べながら泣き出しそうな顔をしました。そう遠くない日に、このジジとババにも、別々に旅立つ日がやってくるのですね。彼岸から届いた贈り物は、尽きない想いも一緒に運んでくれました。(2013.8.4.)


父をおくった日、里の落日(驟雨の後)
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