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捨てるということ
物を捨てられないという人は多いですね。かく言う私の連れも、「物を捨てられない天才」です。

ずいぶん昔のことになりますが、当時、レントゲンの撮影用フィルムを入れる箱は、内張りが鉛板で蔽われた頑丈なものでした。茶箱の半分くらいの大きさでしたが、それがいつも物置でかなりのスペースをとっていて気になっていました。外側が錆びて色が変わり、ボロボロとはがれ落ちるようになっても、そのまま隅に納まっていました。どうにも邪魔になってしょうがないので、粗大ゴミの日に引きずり出して、思い切って、指定の場所に捨ててきました。ヤレヤレ厄介払いが出来ました。なにやら気分がすっとして、胸のつかえがおりたようで、すっきりルンルンと一日を過ごしました。夜になって、台所ゴミを捨てるために外へ出て、ギャッとのけぞりそうになりました。勝手口の前に、捨てたはずの箱が、デ〜ンと鎮座しているではありませんか。

「エッ?どうして捨てた箱がここにあるん??」規則違反だったのかしら、、そんなはずはない、、家に入り、連れに聞きました「あの箱は今朝捨てたのに、、なんでまた取ってきたん?」

「当たり前や!捨てたらアカンやんか!」 、、どうしてかと尋ねました。

「この箱には鉛が貼ってあんのや!鉛はX線を透さへんのやぞ!何かあったときに必要や!」、、

何かあった時って、、なんやのん?、核爆弾が破裂した時、この箱へ頭だけでも突っ込んでおいたら助かるんかなぁ、、そんなアホな、、(冗談が通じないお人やということを忘れておりました)

ものを言わなくなった連れに、もう何を言っても無駄です。その箱は、それ以後、ず〜っと物置に戻ったままでした。そんな筋金入りの捨てない人と、いらないと思うと捨てずにいられない者とが、長年同居してきたのですから、その駆け引きは、壮絶なものがありました(笑)。

7年前に仕事を終了してから、移り住んだ終の棲家にも、気がつけば、何だかいらない物がやたら増えて来ています。手始めに自分の物入れの整理に取りかかりましたが、けっこういっぱい不要品が出てきます。手作りしたCDやDVDの試作品などをはじめ、印刷した取説の紙の束や外付けの古くなった器機などです。今では使えないフロッピーディスクもいっぱい出てきました。FDを差し込む口が最近のPCにはついていないのですから、どうしようもないのです。整理していたつもりでも、表書きのないFDなどは、何が書き込んであったのかも不明です。パソコン周辺器機は進歩が早く、ここ10年ほどで使えなくなってしまったものも沢山ありますから、不要品はどんどん出て来るのでした。

PCの先生が常日頃おっしゃっておられたことが 思い出されました。それは「よく整理された10の知識は、未整理の100の知識に勝る」という言葉でした。 「知識」を「物」に置き換えても、そのまま通用する言葉です。きちんと整理されていないから、いくらいっぱいあっても、いざというときに、何の役にも立たないのです。整理を心がけてきたはずでしたが、見れば整理されていない物ばかりです。連れのことなど言いたてている場合ではないことに気がつきました。

ドタバタと捨てる物を集めて袋に詰めました。3年の間、用の無かった物は捨てても良い物と決めて、ドンドン放り込んでいきますが、早とちりの先急ぎな性分は、要る物まで捨ててしまうおそれがあるのです。何しろ、これは大切だから、、と思い、念を入れてしまい込んだのはいいのですが、そのしまい込んだ所をすっかり忘れてしまい、どうやっても思い出せないのですから、、食べ残した骨のカケラを埋めた場所が分からなくなってウロウロしていた家のボケ犬 と同じ状態です。

でも、じっくりと吟味しながら片付けると言えば聞こえはいいのですが、結局は片付けられないことになるのだということは、連れを見ているとわかります。連れは、一つ一つに引っかかって、古い写真にじっと見入り、時間ばかりが過ぎて、イライラしたあげく、始める前と同じ状態にして終わりにしてしまいます。ですから、何年たっても片付きません。要らない物と要る物にさっさと分けて、ひっつかんで袋にいれてしまえばいいのに、といつも思います。しかし、せっかちおババが、ひっくくって袋にいれて捨ててしまった物の中に、捨ててはいけない物がいつも混じっていたのもまた事実なのです。

「○×を知らへんか?」と連れに聞かれて、ず〜っと前に捨てたことを思い出しました。
「きっと、引っ越すときに纏めて置いてきたかも知れへんわ、、もうあらへんよね」と、しらっぱぐれておきました。長い間に、修羅場を避けるワザを習得してきましたから、ジジババが喧嘩になることはもうありません。それどころか、きのう物を置いた所を忘れてしまい、探し回るという日が多くなってきました。「お互いを忘れないようにせんとあかんわねぇ」と、言うようなトシに、いつの間にか二人ともなってしまったのです。捨てるということは、ほんに容易ではありません。(2013.4.16)
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