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お正月料理

街角のクリスマスイルミネーションを新聞の写真で見たと思ったらもう年末、お節料理の材料の買出しや迎春の花の準備に心が慌しくなってくる。

毎年この時期になると引っ張り出すのがNHKの「今日の料理」1968年版!「正月料理のすべて」だ。

関西で青春時代を過ごしたとは言え、関西風お節料理には全くなじみの無い新潟育ちの私は、生粋の大阪人と結婚して4年目だった。

大阪大空襲で一夜のうちに両親と兄弟を亡くしたつれあいが、白味噌雑煮や出し汁をとっている時の母親の様子などを懐かしそうに語るのを聞いて、何とか美味しい関西のお正月の味を再現したいと思うようになった。

しかし教えをこうお姑サマもないし、医院を開業したばかりで人手もなく、習いに行く暇もなかった。そんな時、たまたま今は亡き料理研究家土井勝さんが厚生年金ホールで関西風お正月料理の公開指導をするという記事を見つけた。これはチャンスだと、赤ん坊だった娘を家に置いて、強引に出かけていった。

会場は満席だった。その頃ようやく出回り始めた電子レンジを使っての土井流の懇切丁寧なデモンストレーションは、分かりやすく、電子レンジからあっという間に取り出された大きな鯛が、化粧塩も鮮やかに出来上がったのをみて、そのあまりの短時間料理に驚き感嘆した事を、その時の出席者の熱気とともに昨日の事のように覚えている。

その時のテキストがこの1968年版の「今日の料理」だったのだ。今はもう表紙はボロボロで醤油のしみで汚れてしまっているけれど、大事な正月料理のバイブル。当時の味つけは、今の料理には少し濃い味ではあるけれど、ゴマメ、数の子、白味噌雑煮、黒豆、基本をふまえたレシピの語り口は確かで的を外さない、このとおりにやれば、決して間違いないという信頼感がある。

あれからもう何年が経つのだろうか、今年も本棚の下からこれを引き出し、買い物の予定をたて、お節の準備をする。書き込みや、折りこみで、いたんで汚れ果てているけれど、この本は私の料理の原点なのだ。

主人のお気に入りの白味噌雑煮も、ゴマメもみんなこの本から習った。二人とも歳をとってしまった今は、調味料を心持減らして少し薄味に仕上げる。あの世のお姑サマも誉めてくださる味に仕上がれば、今年の締めくくりは上出来なのだけれど、、と思いながら本を開く。(2001.12.)

 

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