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初体験のセリ 

手を広げたような形に入り組んでいて、複雑な格好の浜名湖は、大きさでは日本で10番目ながら、周囲の長さは3番目で、114Kmもあるのだそうだ。今切りという切れ目で遠州灘とつながっている汽水湖で、浜松市、湖西市、新居町が沿岸の市町であり、漁業は勿論、競艇場もあり、リゾートとしても賑わっている。湖岸の漁は毎日行われているようだった。

雄踏や舞阪もアサリの潮干狩りや、湖の漁業でけっこう豊かな町だと聞いたが、毎朝出航していく漁船は、この頃は遠く御前崎の方まで獲物を求めてでかけていると関係の人が話していたから、漁獲量は昔と比べてずいぶん減っているのだろう。

地元で採れる野菜や果物の入手は簡単、JAの市場があちこちにあるので、新鮮で美味しい野菜を毎日食べることが出来たが、魚だけはどこへいけばいいのか分らないまま、湖岸の小さな魚屋で時々買ってきていた。

地元に長く暮らしている人に聞くと、毎朝セリをやっているからそこへ行けば地の新しいものが比較的安く手に入ると言う。しかし、朝7時からと聞いて、朝に弱いジジババは、アカン、、、そんなに早く出かけるのはタイヘンダ、と意見が一致し、出かけることがなかった。そこまでして探さなくても、近くには大型店が二つもあり、不自由はしなかったからだ。

しかし、最近になって、より具体的にセリ場を教えてもらう機会があった。買いたいものがあったら、どうやって買うかを傍にいる人に聞いたらいい、やり方をおしえてくれるから、とにかく行ってみたらいいダニィ、、というのだった。帰宅してその話を連れ合いにした。

「朝早いから、とっても無理やねェ!」

「うん、近いトコやけど早いなァでも、うまい魚があるんやろナ」

夜中の2時3時までウロウロして、朝は9時をまわらないと起きられないクセが一向に直らないジジは残念そうに言った。

翌朝、いつものように起床し身支度をしていると、ドタドタと起きてくるらしい気配がする、何でこんなに早う起きるんやねん?どっか悪いんやろか、

「魚のセリ場は近いし、どうする?行く?」

「行くったって、行くことに決めてるんでしょ!何の前触れもなく出かけるのん?でも、もう7時半をまわってしまってるよ!」

一度言い出したことにすぐ同意しないと、みるみる機嫌が悪くなるジジのくせはわかっているし、仕方ないなぁ、あんなこと教えなければよかったなぁ、、食べることにだけはマメなんやから、、と思いつつ、大急ぎで出かける用意をした。

そうと決めたら早いのがとりえ、車はあっと言う間にセリ市場に着いた。恐る恐る中を覗いてみたら、水でビシャビシャのたたきの上にトロ箱やザルがずら~と並んでいる、どうやらセリは始まったばかりらしかった。

都会地の魚市場などとはくらべものにならない小さな規模だけれど、仲買らしき人たちが獲物を覗き込んで品定めをして、小さな紙になにやら書き込んで置いていく。とても素人が割り込んで声をかける雰囲気ではない、、やっぱ、アカンわ、、と思いつつ立ち尽くしていた。

珍しくジジが老人に話しかけられている、どこから来たのかと聞かれているようだった。そんな世間話をしている暇があったら、どうやって買うかを聞いて下さいよ!と思いながら、ドンドン落とされて目の前から消えていくトロ箱に焦ったおババは、近くの人に
「これが欲しいんやけど、どないしたらよろしいのん?」

と、声をかけた、一瞥されて無視されてしまった(笑)。お目当ての車海老の籠は、さっと向かい側に持っていかれてしまっている。あ~、、やっぱりアカンわと思っていたら、さっき無視したおっちゃんが、

「今、あっちへ持って行ったダから、あの籠についていって、買えばいいだニィ!」と言ってくれた。

「サンキュッ、おっちゃん!」

びちゃびちゃの土間を慌てて走って行き「それ下さい!!」と声をかけた。「いいよ!」と、籠から跳ねる海老を出して袋に入れ、後を追ってきたジジに手渡してくれた、なんであれがこのおババの連れ合いだと分ったんやろ?、、

あっけなく生きた海老が手に入った、、やった~!よかった~!緊張が一気に抜けた。

帰宅してから、ジジは言った。後ろで見物していた老人は昔は魚をとっていたけれど、トシをとった今はセリを見に来て楽しんでいるらしいねん、今日の海老はもう少し待って7月になったら、もっと太って大きくなるって言うてはった、と。

「でもナ、アノ人、耳が遠いねん!おまけに遠州弁で半分くらい聞き取れへんかった」

いいです、いいです、7月になったらもっと太る?!、、それを聞き取ってもらっただけでケッコウですよ~、7月に入ったら、今度は太った海老を買いに行こう!スズキも揚がる時だし、、何でもやってみるもんだと、おババの楽しみはまた一つ増えたのでゴザイマス。(2008.6.19.)

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