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映画 「戦火の馬」 War Horse


「戦火の馬」HPより

ゴールデン・グローブ賞で作品賞、作曲賞の二部門にノミネートされたスティーブン・スピルバーグ監督の「戦火の馬」が、浜北のシネコンで上映されていました。

人間と馬との出会いと別れが、感動的に描かれている落ち着いた雰囲気の映画です。往年の名画を観るようなゆったりとした展開と画面は、3Dなどの先端映像から受けるけたたましさと、慌ただしさがまったく無く、ごくあたりまえの古典的手法で構成されています。

第一次大戦が始まる頃のイギリスの貧しい農家に一頭の気性の激しい美しい悍馬が買われてきます。地主とセリで争った末に、小作農家が買い入れた馬は、一目で人を魅了する美形のサラブレットでした。馬はジョーイと名付けられ、この家の息子アルバートによって飼育され、愛されていきます。彼は農耕に適さないこの馬を必死になって農耕馬として仕込んでいくことになりますが、その間の苦闘によって、馬ジョーイと息子アルバートの間には深い絆が結ばれていきます。

インディアンの馬への呼びかけを真似た「ホー、ホー、、」というアルバートの声をしっかりと判別できるようになったジョーイでしたが、小作料の支払いのために英国軍の軍馬として売られていってしまいます。この馬ジョーイが激戦地で巡り会う人々との様々な場面の描写の中に、当時の各国の軍隊(イギリス、ドイツ、フランス)のあり様(よう)が人間味あふれる映像で描き出されていて興味深いものがありました。

この呼びかけの声「ホー、ホー、」が、この映画の重要な伏線です。

まるでジョンフォードの「駅馬車」のような古典的な表現です。もちろん第一次大戦下の時代設定ですから、当然、戦闘場面も多くでてきますが、さすが「プライベートライアン」の監督スピルバークです、塹壕での死闘は迫真的で、リアルに見事に描かれています。写実的で細かく描写されていて、圧巻でした。

大戦下の悲劇的な状況につぶされそうになりながらも「希望」を信じ、神を信じ、国のために戦いながら生き抜く人間と軍馬の運命を、鮮やかに感動的に、そして人間的に描いている映画でした。

どんなに美辞麗句を並べようと、煽り立てられようと、戦争は「悲劇」しか生みません。
「殺す」悲劇、「殺される」悲劇、「奪い取り、取られる」悲劇、、

その悲劇の中でかろうじて見つけた砂粒のような「奇跡」、それが戦争を生き抜き、戦争から生還するということなのだと思いました。

犬や猫の小動物と人間との細やかな愛情表現を物語にした映画はたくさんありますが、「馬」をこの映画のように描き出したものは少ないのではないでしょうか、馬と人との心の通わせ方、微妙な馬同士の気持ちの表現を、観客の要望に添う感じでうまく引き出していて驚かされました。調教の努力を評価しなければなりません。

鉄条網を引きずりながら、ひたすら全速力で前だけ見据えて疾駆するジョーイの姿は、「戦火の馬」という表題そのものを的確に表していて、それはそれは迫力がありました。(ベテラン戸田奈津子氏の字幕が面白く、これぞ職人技です)

ただ、お話の展開が童話的すぎて、現実的ではないという感じを受けたことも事実です。しかし、鑑賞に値する一作であると感じました。
 (2012.3.16.)
 
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