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映画 関ヶ原




(画像は映画公式HPより)

「天下悉く利に走るとき、ひとり逆しまに走るのは男として面白い仕事」
 
映画「関ヶ原」は司馬遼太郎名作の映画化、「梟の城」以来18年ぶりです。現在の新しい映画技術を縦横に駆使して時代劇を撮るという試みに、充分成功した映画と言えましょう。監督はあの「クライマーズハイ」「金融腐蝕列島(呪縛)」の原田眞人です。

天下悉く利に走るとき、理念をもって流れと逆しまに走る、、、今もっとも必要とされている生き方ではないかと感じます。群雄割拠し戦乱に明け暮れ、「理」も「利」によってないがしろにされる、そんな時代にあって石田三成は、猛将島左近(演者 平岳大が儲け役で目立っています)の「武」と「心」を高く評価し、断られても断られても懇願して側近に迎え入れました。三成は左近を身に余る人だと強く認識し、自己の禄高の半分を差し出しても参謀になってほしかったのでしょう。

幼少時代から豊臣秀吉に気に入られ、常に傍に居た三成は、晩年の秀吉の所業に賛同できないこともあったのですが、それでも秀吉の遺言をかたくなに守り、秀頼を守り抜こうとします。しかし天下取りの野望を持って立ちはだかる徳川家康の老獪な策略に徐々に絡め取られていきます。

おのれの野望を露わにする「狸爺家康」役を、役所広司が緩急取り混ぜた手練れな演技で禍々しく演じ、不器用ながら真っ直ぐな石田三成を、勢いのある岡田准一が精一杯律儀に演じ、二人が激しくぶつかり合って、なかなかの「みもの」になりました。演技の経歴の長さから役所広司に少し分があるかとは思いましたが、まあ互角の勝負と見えました。

関ヶ原の合戦は僅か5、6時間で決したことは良く知られています、歴史的な結末は知っていてもなお面白いのが心理戦の展開です。うじうじする小早川秀秋の心中や、薩摩、毛利の老獪さ、忍びの者達の損得勘定など、今の時代にそのままに通じるものがありました。

鉄砲や大砲などの飛び道具のすさまじい威力も画面一杯に爆発し、ハリウッド映画も顔負けの感があり、カメラとCGの動きは画面をだれさせません、なかなかの迫力でした。裏切りと駆け引き、誰もが「理」より「利」を優先し、天下分け目の合戦の勝敗は決しました。

勝った者が正義、敗者は死、石田三成は、六条河原でわずか41歳にして生を終えました。

この映画に彩りを添えたのが「伊賀の忍びの初芽」です。三成に忠誠を尽くす女忍び初芽と三成の恋、二人の密やかな心情を挿入することにより、三成の優しさが垣間見えてきます。緊張の続く画面をほっと緩ませる役目を果たして、演出の巧みさが映えました。

日本では北朝鮮の脅威を誇大に煽り、国民不在の無意味な選挙が行われました。国家の在り方が様々に問われるこの不確実な時代を、大過なく生き抜くためには何をどうしたらいいのでしょう。私たち日本人が、それぞれの立場で「正義」「利」と「理」を考えてみないといけないのではないかと思っています。お奨めしたい映画でした。(2017.10.30.)

随所に挿入される司馬遼太郎の原文が鮮やかに場面を描写します。演技者の台詞の中に今の若い人達の理解を越えたものもあり、聞き取れないのでは無いかと心配になりました。この時代の歴史をかなり詳しく知っていないと感じ取れない場面もあるかと、この点を少々危惧しています。
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