トップページ
エッセイ
サイドウエイ
サイドウエイ (休日の寄り道)


★サンタバーバラ 

「人はおうおうにして人生のシグナルを見逃してしまう時がある」、、映画「サイドウエイ」の監督ペインの言葉だそうだ。

人生に偶然などはありはしない、幸福になるのも不幸になるのも、みんなその人の「人徳」と「判断力」なのだとか、こう言い切れるのが成功者のゆえんなのだろう。

それはともかく「サイドウエイ」人生の寄り道には何かがありそうで、是非とも迷い込んでみたい気持ちが通じたのか、今回うまい具合に時間がとれた、、とは言っても、「人生のシグナル」が青にかわったかのような錯覚に勝手にとらわれて、ムリに時間を空けたといった方が妥当なのだろう。

プロジェクトの隙間で時間があいたという息子から「サンタバーバラへ行きたかったんでしょ?」といわれ、その気になった。サクラメントからでは車では時間がかかりすぎるからとロスで出会うことになって、妙な二人づれの旅がはじまった。

到着したロスの空はカーンと高く蒼く、雲ひとつない上天気、気温30度はあるだろうが湿気がないから、爽やか!メンタマが日焼けしそうな乾燥した空気、アメリカの西に来たという実感が迫ってきた。とりあえずシャワーで旅の垢を流し、街へ出る、ポンティアックの新車、小型レンタカー、シートは堅いものの小回りが利き、まずまずなのだそうだ、今回は急に予定がきまったため、国際免許を用意するヒマがなかったので、ハンドル捌きが、ちぃと荒いことくらいは我慢せねばなるまい。サイドウエイはサンタバーバラからはじまった。

サンタバーバラのワインの歴史は古く200年ほどはあるのだそうだ。しかし、ナパやソノマといったワイナリーにすっかり水をあけられて、映画の舞台になっただけではさして話題にもならなかったらしく、それらしい看板や垂れ幕もない。静かで優しい感じの田舎で、小さな村が点在するマイナーな印象だった。

ロスオリボス、サンタイネ、ソルバングというオランダ村、食べるものもそんなに変わったものはなかったし、ワイナリーのティスティングもあまりいい物は出さない。普通のテーブルワインが主になっていてすぐに飽きた。同じような味ばかりで驚きがなかったからだ。しかし、たった一つ、素晴らしいレストランが存在した。ロスオリボスのFess Paker Inn の「Cafe Chardonnay 」落ち着いた上品な感じの室内と同じシックな料理がことのほかおいしかった。ウエイターのマナーも一流だったし、しかも気取りがないのでゆったりと食事を楽しむ事が出来た。なによりも料理がさっぱりとして重くないのが気に入った。

もう一晩泊まって、ワインの村の探索をすべきだったと今になっては思うが、その時は期待が大きかった分失望も大きく、畑の規模の小ささにも不満で、早々に立ち去ることにした。気の早いのは二人ともよく似た親子で、まったく直っていない。

空は高く晴れ上がって、風が強く、バタバタと旗がはためいている。シャルドネとピノノワールを買って車を出す。素朴な田舎町だったけれど、トシをとってから住んだら、寂しくなってしまうかもしれない街だった。










サンタバーバラ



★ウイリアム ランドルフ ハースト

アメリカの新聞王と言われるウイリアム ランドルフ ハースト、(1863〜1951)は、50以上のメディア機関を所有した大富豪の一人、彼が建設した邸宅「Hearst Castle 」は彼の死後、州の所有になり観光の名所となっている。ロスからもシスコからも少し距離があるせいで、忙しい日本人のツアー客にはまだなじみがないけれど、いずれは行くようになるだろうと思われる大きな規模の大邸宅、キャッスルと呼ぶにふさわしい景観を誇っている。なにしろ自家用機専用の滑走路を持ち、小高い丘の上までの広大な土地には動物を放し飼いにし、プールつきの豪華客室にゲストを招き、贅沢を極めたという。

母親に連れられて幼い頃に旅したヨーロッパの風景や城が印象に残り、1927年その邸宅を建築し、新聞を毎日空輸させていたほどの権勢を誇ったという。
大金持ちにありがちな家族のトラブルもあって、本当の幸せということは、どういうことを言うのだろうかと思わせられたりもするが、ともあれ素晴らしい景観と美しさと、少しの野卑さをもつ「城」だった。

オヤツに買ったプレッツェルにカラスが寄ってきて、投げるそばからダイレクトに食べるサマが、浅ましくも面白く、しばし遊んだ。

 






ハーストキャッスル


★LACMA博物館

ロスに戻り、気に入った同じホテルに泊まりながら、LACMA博物館の「TUTANKHAMEN」の特別展をはじめ、ゲッティ美術館、ロスシティ美術館などを観てまわった。エジプトの展示物は、日本には来ていないものが多く、国力の差かとも思われるほどで、少々ひがみっぽくもなる。実際よりも大きく誇大に立て看を張り、観客の興味をそそる演出の上手さはさすがエンターティメントのお国柄である、進んでいけば黄金のマスクに出会えるかのような展示説明にも呆れ驚いた。日本とは違う演出で楽しめたが、「ツタンカーメン」の仮面が最後までそこに有るかのような印象で引っ張っていく展示力にはまっこと恐れ入ってしまった。

カイロ博物館の「目玉」である仮面を、エジプト考古庁が貸し出すはずがないけれど、アメリカの観客は、待たされ並ばされた挙句、あの「ツタンカーメンのマスク」の展示がないことにも気づかないくらい嬉々として楽しんでいたように見えた。スゴイ演出力である。

ロスの街には、5年前にはまだなかった本格的な和食レストランが多くなり、アメリカン料理のメニュにも「Tataki風」「Hirameのカルパッチョ風」「Sashimi」などと書かれていて、日本食の流行がホンモノになってきた印象が強かった。健康的で太らない和食は、アメリカのエグゼクティブやスノッブな人達に人気なのだそうで、かの有名な「ノブ」の発祥の店をはじめ「Nisimura」、「寅福」(笑)、「夢者(むしゃ)」など日本よりおいしい鮨を出す。食の方面で日本がアメリカを席捲するのはもう時間の問題なのだろう。

おババのセンチメンタルジャニーと、美味しい日本食にありつきたい息子の旅は、ワイン探しのサイドウエイから大きくはずれ、「鮨礼讃」で締めくくられるという、程度の低さでありました。 やっぱり人生のシグナルは、そう簡単には「青」にはなりません。
まだまだ「赤」のまんまの気がします(笑)   (2005.10.13.)
   

ホーム> 旅目次 エッセイ目次 花目次 浜松雑記帳 料理ワイン