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魔法の言葉?

ふと気がつくと80歳が目の前になっていました。ふと気がつくと、、なんて書くとカッコイイ言い方のようですが、実は「来年は80歳だ」と、去年からずっと気にし続けていたというのが本当のところです。想像もしていなかった年齢になることに、なんとも言えない拒否感があったのだと思います。

昔々、幼稚園で「村の渡しの船頭さんは、今年60のおじいさん、トシは取ってもお船をこぐ時は元気いっぱい櫓がしなう、、」という歌を習いました。一生懸命に歌い踊った覚えがあります。あの頃の60歳男性は、今で言うなら80歳くらいなのでしょうか、、たしかにお爺さんだったのです、でも今の60歳に「お爺さん」などと言ったら、叱られるかも知れません。

敗戦後、食生活が良くなり、医療環境がドンドン進歩して、今や平均寿命は85歳を越えました。でも長生き時代になったとはいえ80歳ともなれば、もう掛け値なしの年寄りです。死に方を考えなくてはなりません。昔は「化けるトシ」と言っていた年齢です。「古来稀な70歳」を越えて、「傘寿の80歳」なのですから、我ながら驚き、落ち着かない気分です。70代の生活と80代の生活には歴然とした差があるのだと、2歳年上の大坂の友人がいつも言っていました。そんなに大きな差があるとは思えなかったのですが、それがいよいよ実感されるわけです。もう嫌も応もありません。

母親は84歳で倒れ、一日も経たないうちにスパッと亡くなりました。娘である私も、上手くいけば84歳までは生きられる遺伝子を持っているのかもしれない、、そして84歳になったらパコンと死ねるかも、、そんなことを漠然と願っていました。実際に80を越えることが出来たなら、もう何時死んでもいいトシになったという安心感が生まれて、その後は気楽に生きられるかもしれないとも考えていたのです。

そして80歳が目前になってみると、70代を終えるのが少し残念に思えてきました。先日受けた検査書に書き込まれていた79歳という数字が、パッと新鮮に輝いて見えたのですから不思議です。かっこつけおババは考えました、ただこのまま80歳になるのは残念やなぁ、、少しジタバタして楽しんでみようかと。

そしてまずサークルの練習日、お仲間のおばさま方に「もう今年中に80歳になるのですよぅ、、」と申し上げてみました。50代から60代の若いおばさま方数人にです。

「エッ?うそ~、、」「うそでしょ!そんなトシには見えないワ」「75歳くらいと思っていたわぁ、、」

皆さんお優しい、、とっさにこんな言葉が出せるなんて、なんと良い方達、、単純なおババはこれに味を占めて、何かというと「今年80歳なんですぅ、、」と言ってお世辞を聞く快感に目覚めました(笑)

車のキィの電池の入れ替えに行った時も、スマホの不具合を聞きに行った時も、電気器具店でも、化粧品やさんでも、何か聞かれたら、この魔法の言葉を付け加えてみます。若い店員さん達は、きっちりと教育されていて、一様に「エッ~?!マジっすか?ウッソ~、、」と言ってクダサイマス。お調子者のおババは、ここ数日はなんとなく心が軽く、身も軽く、、だったのです。

テレビの前に鎮座している今年90歳になる卒寿(そつじゅ)ジジにも「もうすぐワタシ80歳やねんよ」 と申してみました。55年も連れ添ってきましたが、一度たりと誕生日の祝いなどを下さったことがないという、今どき希有なダンナサマのジジにです。そしたら、、

「誕生日は今月はじめに済んだんとちがうのん?」
「もう、、ボケないでよ、まだです!、来月です!」
「アッ、そうか、ファッ、ハハハ、80歳、、しわ、増えたもんねぇ、、」・・・・・

翌日から「魔法の言葉」を口にするのはやめました。

80歳は80歳以外の何物でも無いのですもん。昨日、血液検査のついでに受けたエコー検査で体内の「石」まで発見されてしまいました。70代はスルスルと終了しそうです。そして4月になれば、もう「石」しか溜まらないような老体を引きずって、ドタドタと80代に転がり込むしかありません。また何か、身も心も軽くなるような「魔法の言葉」を見つけられればいいのですが、、、(2018.3.15.)


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