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ブラボーな観客
映画は、撮影された沢山のコマをつなぎ合わせ、それを編集して1本のお話に仕上げるものです。出来上がったフィルムは、配給会社を通して世界に送られ、各国で公開されますから、短い時間で多くの観客を動員できます。演者が移動することなく、沢山の場所でストーリイを展開できるのですから、スゴイ媒体です。その上、うまく当たればその収益は億の単位になります。しかし、演劇や歌舞伎の舞台などとちがい、観客と演者が同じ場所で一体感を共有することはありません。

50周年記念作となる「007・スカイフォール」を観たのは昨年12月のことでした。定番のアクション映画ですが、1962年から50年もの間、シリーズ化されてきたということは、この映画の並外れたスピード感と魅力的なキャストによるのものでしょう。ショーンコネリーからダニエルクレイグまで、その時代きってのクールな男優が主演してきました。美しい背景やクルマのモダンさは勿論のことながら、ハイテクの武器や、数々の粋な小道具などが画面にさらなる効果を加えて、物語にラグジュアリーな迫力を与えていました。「ブラボー!」な映画の一つです。

この日、「007」を見終わって席を立った後、静かに扉から外に出る日本人観客の姿をを見て、かって遭遇したアメリカの映画館でのことをふと思い出しました。夜間の出歩きが危険とされるアメリカでも、映画館は夜遅くまで営業しています。暗い道路を走っていて突然現れるギンギンの照明集団は、きまって映画館とお店がある地域です。真っ暗闇を抜けた先に巨大な映画館と大勢の人の群れが突如として現れるのには驚きます。さすが砂漠の真ん中に賭博の町ラスベガスを作り上げた国 だけのことはあります。国土の広さが比較にならない日本では考えられない立地です。

あれは確か「ロック」という映画でした。もうすっかり老けたショーンコネリーが主演したアクション映画です。そして、後にスターダムにのし上がったニコラスケイジが二番手で出ておりました。おきまりの銃撃戦や肉弾戦(なぜかアメリカ人はこの肉弾相打つ、殴り合いが好きですね)あり、家族愛ありの物語でしたが、最後のシーンはやはり、ジョンウエインの「騎兵隊」のごとくに、ラッパの音が鳴り響き(ラッパではなくてファントムの爆音でしたが、、)ハッピイエンドとなりました。

アメリカの映画館の中はかなり騒々しく、ポップコーンのガサガサ音や口笛や笑い声がしていたのですが、終了の瞬間「ウオーッ!」という歓声があがり、スタンディングオベーションが始まったのには驚きました。拍手喝采というのでしょうか、エンドロールが延々と流れる中で、しばらくの間、拍手が鳴り響いていたのです。まさに観客が共有しようとする映画との一体感でした。

たまげてしまいました。経験したことのないことに面食らって、周りを呆然と見ていました。喜色満面で手を叩いている周りの人々の嬉しそうな顔、顔、、なんという単純な人達なのでしょう、、「アホみたい、、」としか言いようがありません。演者もいない映画館の幕に向かってブラボーと叫んで拍手するなんて、なんとブラボーな観客なのでしょうか、、日本人にはとても不思議です。

ハリウッドのスタジオで制作される超のつくアクション映画や、CGを使った3D映画などは、観客をいかに驚かし、楽しませるかということに全力をを注いでいますから、映画好きのアメリカ人観客は、「めいっぱい楽しもう!」という気持ちで映画館に出かけると聞きました。

何事にも前向きでポジティブ思考を持ち、つまらないことも面白くしてしまうアメリカ人の感覚は、日本人とはかなり違うようです。急流下りの観光ボートから濁流に落ちても、そのまま流れることを嬉しがっでいる人の話を聞いたことがありました。ライフジャケットの浮遊感を楽しんでいたのだそうです。楽しかったら「楽しいよ〜!」とアピールして、他の人にも一緒に楽しんでもらう、、そして楽しくしてしまう、これはとても良いことなのかもしれません。

007スカイフォールを見終わって、「あんなんは、ありえへんでぇ、、アホらしい映画や!」などとブツブツ言いながら外に出る日本人の方が、楽しむことを知らないアホなのかもしれないと思ってしまいます。でも、、スクリーンに向かって拍手しようという気持ちにはどうしてもなれないのがまた不思議です。やっぱり日本人だからでしょうね。

かなりな荒唐無稽さと、CGの違和感を横に置いて観ることが出来れば、「007スカイフォール」は文句なしにカッコいい娯楽大作なのでしょう、トルコのイスタンブールで展開されるバイクチェイスでは、ホンダのバイク「CRF250R 」が活躍します。愛国心も刺激されて、まことに盛大なアクション映画でありました。

「いや〜、、映画って、ほんとうにいいもんですね〜」

今はなき映画評論家の、決まり文句を思い出してしまいました。 (2013.2.8.)


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