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ちょんぼジジババ       



新しい土地にゆっくりながらも慣れてきたこの頃、連れ合いの唯一無上の趣味??「食」にからんで出歩くことが多くなった。ヒマな時間があったら物置の整理をしたいおババだけれど、誰もつき合ってくれる人がいないヌシさんがかわいそうで、毎度ナビゲーターを務める。

いくら早起きが苦手といっても、おババは7時には起きる。ゴミ出しをして、掃除機をかけ、お風呂トイレを洗い、洗濯物を干し始める頃になると、ようやくアルジがお目覚めになる。だいたい10時、この生活パターンは新しい土地に住まいしたら少しは変わるかと思って期待していたが、時間差就寝起床は、やっぱりここでも定着しはじめてしまった。

起きるとすぐに食べたい人だから大急ぎで朝食をしつらえる。ひと仕事して丁度お腹もへってきたおババも一緒に遅い朝食となる。連れ合いが毎朝のパンにこだわるから、以前は手作りをしていたが、建築や移転の忙しさを口実にし、引越を機会に、近くに「最強力粉」を売っている所がないという理由もつけて、パンを焼いていない(ネットを使えば、最強力粉は手に入るのだけれど、、)

これは連れ合いにとっては重大なことであり、早速本屋へいき「ぐるぐるグルメなんとやら」という本を買ってきた。その本と首っ引きであちこちのパン屋さんを抜粋した。なにしろ静岡新聞が出版している本だから、地域に密着して取材しているらしく、こと細かにさまざまな店が写真つきで載っている。

この本とGPSをフルに使い、パン屋と食材屋を探しにでる。もう十指にあまる数を訪ねたが(連れ合いが一人でバイクに乗って探し回っている店のことまでは知らない)
夫々に得意、不得意があって甘すぎたり、粘りがモウ一つだったりでぴったりとくるものが見つかっていない。

数日前に、少し遠いけれど、かなり期待できると言うパン屋さんを見つけて早速出かけた。知らない土地のこと、ナビに頼るしかないので、ナビ設定が得意ではなかった連れ合いは、この頃ピッポッパッが少しうまくなったようだ(欲にからめばなんでもうまくなります)助手席のおババは画面をにらみながら、この次は右に曲がるとか、次の信号を左!とか、まったく、せわしないことである。

大分走ったがまだまだである。しかもメインの国道から外れて、やたら細い道路に誘導される、これでイイのかなぁ??ナビはなんにも言わないから、ひたすら直進するしかない。地図にゴール地点が現れたから、もうすぐだろう。

{あと700メートルです}
{あと300メートルです}
{目的地周辺です}

黄色に茶色の看板にパンという文字が見えた。手元の本の写真も同じような色の看板だ。

「ここ!!右!右!」
「交差点の手前!」

「ほんまや!あった!」
「どこに停める?」

「右側に駐車できる!」

車を降りて玄関へ向かう、カフェもやってるみたいだ。「いらっしゃいませ!」と、迎えてくれたのは車椅子に乗った女性、丁寧な物腰で好感がもてる。一応店内を見回すと、いろいろな種類のパンがいっぱい並んでいる。アンパンがことのほか好きな人で、どこへいってもまず買う。そのほかは固焼きのカンパーニュかバゲット、それに食パン、この食パンがなかなかクセモノで、しっかりしたコシと粘りがあるものはなかなかないのだ。

大体買い込んでレジへ、お勘定をしてもらっていると、

「ここは○○に支店がありますな?ここからは遠いですか?」

さすが本と首っ引きだっただけあって、しっかりとチェックしてきたらしい。

「いいえ、支店はありません、」

「えっ?支店がない?、支店あるはずですよ!」

「あの〜支店があるのは××といお店だけですが、、」

「そんな、、支店とここで、二箇所あるはずやねんけど」

代金を支払いながら、なんだか変な会話、と思っていると、またしつこく聞いている。

「ここは支店はないんですか?」

「はい!支店があるのは××です」

「エッ?!おかしいナ、、」

ここでピンときた!

「ハイ!分かりました!有難う!あなた!もういいから、、」

「何言うてんねん!支店の詳しい場所を聞かなアカンねん!」

「だから、もういいから!」

「なんでイイねん!」

「こちらのパンも食べてみて下さいネ、、、」

「ハイ、お手数をかけました、ゴメンナサイネ!じゃ、」

「行きますよ!」

「支店、支店、、、支、」

「もういいの!!」

ほとんど怒りかけている連れ合いをやっとのことで店から引き出した。

車にもどって、こっぴどく、、

「いい加減に気がついたらどうですか!店、間違えたんですよ!ほんまに「場」が読めない人ですね!!」

「間違うてへん!ここや!」

「看板よく見て!名前が違うじゃないですか!」

「あんたはここやって言うたやないか!」

「それが、どうも違うらしいわ、、もう少し先へ行ってみる?」

ソロソロと進んだ次の交差点に、そのお目当ての××パン屋はありました。こんなことってあり?!でもたしかに雑誌の写真とそっくりだ。商売敵だったのだ。そしてその店は本日は休業日の札がかかっていた(笑)

「なんで違う店に入るねん!!」

「だって二軒もこんなにくっついてパン屋があるなんて思わなかったもん、、」

「アワテやな!アンタは!!」

、、又やった!と内心思ったけれど、そこはそれ苔の生えた心臓です、言い返しました。

「自分こそ!それに最後まで間違ったことに気がつかなかったじゃないですか!」

「そんなもん、ここや!って信じてるもん!」

「そういえば名前も構えも違ってたもんね!アホみたい、、でもあの人に悪いことしたわ、、うちのパンも食べてみて下さいって言いはったもんね」

「間違うてしもうたんやから、仕方ないワ、でもこんなに遠いから、もう来ないわナ」

帰って試食したパンは結構なお味でしたが、「お店を間違っておられるのではないですか」、と言わなかったあの女性の店主の困ったような顔を思い出すと、気の毒でならなかった。それにしてもこのジジババは、二人そろってなんというチョンボなのだろう。

立ち直りの早い連れ合いは、また明日次のパン屋さんへ行くらしい様子で、「グルグルなんたら本」を一心にめくっている。

マチガイに気づかなくてカッコ悪う〜っ!なんていう反省など微塵も感じないお人です(笑)

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